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悪役令嬢とストーカー  作者: 丘/丘野 優
第一章 少年と令嬢
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第47話 展示

「……さて、そろそろお開きかしら」


 お茶会を始めて大分時間が経った頃、マリアがそう言った。


「もうそんな時間ですか? あら……楽しくて時間が経つのが早かったです」


 ジョゼが懐中時計を取り出して見て、そう呟く。


「では、早く片付けてしまいましょうか……あぁ、お二人は座ったままで大丈夫ですよ。どうぞゆっくりなさって」


 ラーヌがそう言ったので、腰を上げかけた僕とコンラートは再度、椅子に腰を下ろした。


 しばらくして片付けが終わったところで、


「……では皆、行きましょうか?」


 とマリアが言った。


 僕たちは頷いて立ち上がり、道を歩き始める。


 どこに向かってか、と言えば学園の施設のうちの一つ、闘技場へだ。


 その理由は……。


「あのときの森陸竜がもう一度見られますのね。楽しみですわ」


 歩きながら、ラーヌが瞳を輝かせてそう言う。


 どうも彼女はあのとき以来、学園長に心酔してしまったようで、その尊敬具合はマリアに対するそれをも上回るのではないか、とすら感じてしまうくらいである。


 だが、だからこそマリアともかなり砕けて付き合えるようになったのかも知れない。


 それはマリアにとってはいいことなのだろう。


「でも……学園長はあれを自分が倒したことは言わないで欲しいっておっしゃっておられましたね。何でなのでしょう?」


 ジョゼが首を傾げてそう呟いたので、コンラートが言った。


「学園長が倒した、って話になると色んなとこから面倒な話が持ち込まれそうだからじゃねぇか? あくまで個人の持ち物、ってことになっちまうからな。俺が学園の外の貴族だったら、素材を分けてくれないか?って学園長に頼みに行くぜ」


「あぁ、なるほど……。そういうことですか。確かに私も商人でしたら、仕入れられないか頼みに行ってしまいます。普通の森陸竜でしたらともかく、漆黒の個体で、しかもあの大きさときたら……。いい値段で売れそうですもの」


 実家が商家ということもあり、かなり現実的なことを言うジョゼであった。


 実際、あの森陸竜を売るとしたらいい値段がつくことだろう。


 しかし、学園長にその気がないのは明らかだ。


 あくまでも学園で、教育用として活用していくつもりのようである。


 一部、ミラナ先生にあげる部分のように研究用しての用途や、僕らにもくれるらしいからそういった特別な贈答用には使うのだろうが、基本的には学園と生徒のために、というわけだな。


 学園長が学園長としてしっかりと学園のことを考えているようで意外だ。

 

「そろそろ着く……うぉっ! 凄いな」


 最前を進んでいたコンラートが驚いたようにそう言った。


 というのも、見えてきた目的地……つまりは闘技場周辺の混み具合が凄かったのだ。


 大勢の生徒達が蟻のようにひしめき合っている。


 まだ外なのに……。


 中に入れるのか不安になってくる。


「……流石にこの中に突入とは女性陣には言えないよ……」


 僕はそう呟く。


 まぁ、実際には闘技場入り口で押し合いへし合いしている者たちの中には大勢の女性がいるので、ちょっとばかり申し訳ない発言だが、これは必ずしもそう言った人々を差別しているというわけではない。


 そもそも、こちらのグループにはマリアというある種この学園における爆弾のような人物がおり、彼女があの中に突っ込めばそれこそ海が割れるように生徒達の群れも道を空けるだろうというのはなんとなく想像がつく。 


 いっそそうしてしまって、マリアの後ろを手下のように着いていく、というのも楽かもな、と一瞬思わないでもなかったが、流石に友人となったマリアをそのような術避けのように扱うのは申し訳ない話だ。


 ここは正攻法でいくべきである。


 僕がコンラートに目配せすると、彼は肩をすくめて、


「……分かったよ。俺がとりあえず見てくるから、お前らはここで待ってろ」


 そう言って、群衆の中に突っ込んでいった。


「……コンラートは大丈夫ですの?」


 マリアが心配げにそう尋ねたが、僕は言う。


「彼は僕と初めて会ったとき、僕を観察するという目的だけのために木の上に張り込んで、しかもそこから墜落してきて無傷だった男だからね。あれくらいの人の群れに飛び込んだところで大したことではないさ……」


「……リューとコンラートの友情がよく分からなくなってきました……」


「僕と彼は一番の親友だよ? お互いに分かり合って(・・・・・・)いると思う。だから目くばせしただけで行ってくれたじゃないか」


「優しげな顔をして、友人に大変厳しいのですね、リューって……」


「コンラートだけさ。マリアには出来る限り、優しく振る舞うよ?」


「……そう願いますわ……」


 そんな雑談をしていると、ついにコンラートが戻ってくる。


 そして状況の説明をしてくれた。


「どうもまだ入場が始まっていないらしいな。だから混んでいるだけだ。もう少ししたら始まるらしいから、俺たちはその後に入った方がいいと思うぜ」


「なるほど、そういうことだったか……皆、それでいいかな?」


 僕が女性陣三人に尋ねれば全員が頷いて肯定したのだった。


 ◆◇◆◇◆


「……黒い森陸竜なんて初めて見たぜ」「ここまで大きい森陸竜が学園敷地内にいたのか? やべぇな。俺この間、外で実習だったけど、出会さなくて幸運だったわ……」「これって森の魔物同士の争いで死んだんだろうって話だけど、本当? だとしたらこれを倒せるほどの魔物が学園敷地内の森にいるってことかしら? 怖いわ……」「しかし、よくこれをここまで運んだものですね。浮遊では相当な魔力が必要でしょうし、先生方が何人も出張ったのでしょう……」


 闘技場内に入ると、そんな声がそこここから聞こえてくる。


 闘技場中心に目を向ければ、そこにはあの黒い森陸竜が展示してあった。


 素材としての鮮度を落とさないように、しっかりと状態保存の魔術がかけられている。


 おそらくは学園長がかけたものだろう。


 魔術の強度が尋常ではない。


 永続の魔術でも良かっただろうが、それをかけると後で加工するために解くのが大変だからな。


 よく考えられている処置だ……。


「改めて見てもすげぇな。何であんな黒いんだろう……?」


 コンラートが森陸竜を遠目、というか闘技場の客席から眺めながらそう言った。


 確かにその点については僕も気になっている。


 いくつか理由は考えられるが……。


「おや、皆来ておったのか。ちょうど良いのう」


 色々考察して森陸竜を観察していると、聞き覚えのある声が僕らに向かって後ろからかけられた。

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