第46話 お茶会
「……ようこそ、お二人とも」
そう言ったのは、つい先日、共に外出して召喚獣狩りをすることになった同級生、ジョゼであった。
場所は、学園の中ではあるが、意外なのはここが学園の中でも非常に目立たない位置に存在する庭園である、ということだろうか。
一応、大雑把に話は聞いているのだが、ジョゼが今回の事件で問題になった《竜呼花》を発見したのがここだったらしい。
さらに言うなら、この庭園は本来、学園長先生の個人的なもので、生徒は結界によって入れないようになっていたはずだというのだ。
しかし、何者かによってその結界は解かれ、ジョゼの侵入を許したということだ。
学園長がここを進入禁止にしていたのは、竜召花を初めとする危険な草花をここで育て、研究していたから。
けれど、今はもうそれら危険な草花はどこかに移動された。
学園長が、ここをジョゼとマリアが憩いの場所として利用しているのであれば、解放した方がいいだろうと判断したからだ。
実のところここに来る道自体にも人を近づけない結界がかかっていたらしく、それも学園長によって解かれた今、あまり人は来ないと言っても完全に誰もやってこない状態からは解放されている。
ただ、今ここにいるのは、ジョゼとマリア、それにラーヌと僕とコンラートだけだ。
元々それほど人が来ようとは思わない場所だ、というのも勿論あるが、ジョゼが今日のためにここを貸し切ったから、というのが大きい。
学園施設のいくつかは、申請を出せば貸し切れるもので、この庭園もまたそのうちの一つ、というわけだ。
こんなところを貸し切って一体何をするか、といえばそれは簡単である。
なんというか、お茶会だ。
親睦会と言い換えても良いが……。
つい先日、顔を合わせればお互いに関わらないように遠ざかろう、としていた関係から、とりあえず友人まで昇格した僕たち。
そこまで深くとは言わないまでも、とりあえずお互いを知る機会を設けようと、そういうことだった。
ラーヌ辺りは気位が高そうだったので拒否するかと思ったが、意外にも特にそのようなことは言わなかった。
これについてマリアに尋ねてみれば、
「……あの子は気位が高いというか、マナーとか上下関係とかに厳しいだけなのよね。もちろん、学園内で身分差別のようなことが許されないことも分かっているから、定例朝礼でジョゼを叱ったのは純粋にマナー違反を咎めただけだったのよ。でもちょっと言い方がきつくなっちゃうところがあって、受ける印象は厳しかったでしょうけど……本質は、良い子よ」
そう言った。
実際、相対してみればそんなに恐ろしいわけでも怒鳴りつけると言うこともない。
むしろ、ジョゼがたどたどしい手つきで全員にお茶を振る舞っているのを、丁寧に指導しているくらいだ。
ちなみに今日のお茶会のホストはジョゼである。
それは、こないだのことで僕たちに迷惑をかけたから、ということらしい。
だからお茶の手配や配膳は全て彼女が行っているが、僕やコンラートはともかく、マリアという貴族として最上位の女性がいる以上、下手なことは出来ない。
最初はかなり緊張していたが、ラーヌがいたお陰でその辺りは問題なさそうだった。
「……でも、別にそんなに気を遣ってくれなくても良かったのに。この間のことは、ジョゼが悪いんじゃなくて、全部ノルブの責任なんだから」
僕がそう言うと、マリアもこれに同意した。
「ええ。ノルブは言っていたわ。ジョゼに幻惑をかけていたって。いっぱしの魔術師ならそれにかけられていることも、解呪することも出来たかもしれないけれど、流石に学園に入って半年の生徒にそれを求めるのは酷だわ。そもそも、幻惑の魔術は……」
「第四階梯の魔術だったよな。並の魔術師じゃ、いいように操られちまうんじゃないのか? 抗えってのが無理な話だぜ……」
コンラートがマリアの後を継いで言う。
「ですけど、最初に竜召花について、ノルブ先生に相談に行ったのは私ですから。それがなければ今回のようなことには……」
恐縮しながらお茶を入れつつ、申し訳なさそうな顔をするという離れ業を披露するジョゼである。
聞くところによると、ジョゼはマリアに竜召花の鉢植えを贈りたくてそのための研究をしていて、専門を魔法植物とするノルブに意見を求めに行ったという。
その結果、今回のようなことになったという話だが……。
「この庭園の結界が何者かに破壊されていた、という話は学園長がされていたことよ。おそらくだけど……幻惑にかけられていたのはもっとずっと前からだった可能性があるわ。それに、私も……幻惑にはかかっていなかったけれど、この庭園にあった竜召花に強烈な魅力を覚えたの。あれも……ノルブによるものだった、と考えれば、色々なことが辻褄が合うわ。全て、ノルブの計略通りだったとね。そしてそうであるなら、途中で気づけなかった私も貴方と同罪なのよ」
「そんな……! マリアさまは悪くありません! 全てノルブが……!」
そう言い募ったジョゼに、ラーヌが笑って、
「そんなに興奮されてはポットを落としてしまいますわよ」
と言う。
「あっ……、も、申し訳ないです」
「いいのです。ゆっくり、気をつけて。けれども優雅さを捨ててはいけません。心も落ち着かせて……そうすれば、分かりますわ。お茶の淹れ方も、貴女が今回、全く悪くないということもね」
「ラーヌ様……」
「私のことはマリア様とは違って、様は要りませんわ。身分はこの学園では関係ないのですから」
「でも……」
「いいのです。まぁ、お茶の淹れ方をお教えしているときだけは、《先生》とつけるように、と厳命しておきましょうか」
それはラーヌなりの冗談だったのだろう。
それがジョゼにも分かったようで、吹き出して、
「……はい。ラーヌ先生」
「よろしい」
そんなやりとりのあと、再度、二人はお茶を淹れ始めた。
少しばかり時間はかかったが、全員が席に着いたあと、同時に呑んだそのお茶はとても美味しく、ジョゼの気持ちが十分伝わるものだった。
そこからは雑談に移って、僕たちは他愛もないことを色々と話した。
この学園に来て、こんな風に女生徒とお茶会をすることがあるなどとは想像もしていなかった僕だけれど、こういうのも悪くないな、と思った。




