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悪役令嬢とストーカー  作者: 丘/丘野 優
第一章 少年と令嬢
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第45話 友となる

「本当ですの!? 嬉しいですわ……あぁ、今から楽しみです」


 マリアはそう言って喜んだが、学園長先生も釘を刺すのは忘れなかった。


「絶対とは言わんからのう。あまり期待せずにな。君の身分でもそれは変わらぬ」


「ええ、それは分かっておりますわ。身分などによる学生の区別は禁止。学園長先生は公平に生徒を選抜されると」


「ならばよい」


 深く頷いた学園長だったが、そんな彼に他の方向から声がかかる。


「……ところで学園長先生。これだけの大物、このまま放置しておくのはどうかと思うのですが、扱いはどのようになされるおつもりですか? 素材としても、かなり上等なものだと思うのですが」


 それはミラナ先生のものだ。


 彼女もまた、森陸竜の巨体に見とれていたようだが、流石に教師らしく、その実際的な価値にすぐに気が行ったらしい。


 これに学園長先生は答える。


「今から持ち帰るつもりじゃよ。これほど大きな森陸竜は大変珍しい。生徒達にも見せなければならぬし、また鍛冶・錬金・彫金の素材としても得がたいものじゃ。放置しておくつもりなど毛頭ない」


「そうでしたか。なら良かったです……ところで、これは学園長先生の獲物だと理解はしているのですが……私にも少し、分けていただけますか? 骨や牙などは、良い杖の素材になりそうなのですよね……もちろん、皮や鱗でも全く構いませんが」


「意外に抜け目がないのう、ミラナ君。まぁ、構わんじゃろう。飛竜を追い払うのに一番体を張ってくれたのはミラナ君じゃし……この理屈だと、ここにいる皆にはそれぞれ素材を進呈せねばならんな。それでも十分余るじゃろうし、全く問題ないが。それでよいかな?」


「もちろんです。皆さんも得しましたね」


 ミラナ先生はほくほく顔で皆にもそう言ったのだった。


「……おい、リュー」


 先ほどまで前方……つまりはミラナ先生の横を歩いていたコンラートが僕の方に近づいてきて、話しかけてくる。


「なんだい?」


 コンラートがミラナ先生と歩いていたのは、実は惚れている……というわけではなく、コンラートの戦利品である飛竜の卵の入った籠をミラナ先生が持っているからだ。


 色々と疲労が溜まっているだろうし、その上、籠を持ったら落としそうだと言うことでミラナ先生が気を遣ってくれたのだ。


 とはいえ、本来自分自身で管理すべきものだし、だからこそ、ミラナ先生に預けつつも近くを離れないようにしていたのだ。


 ただ、今は立ち止まっているからいいだろうという判断だな。


「学園長先生はこいつを持ち帰るって言うけど、一体どうやって持ち帰るんだ? まさか、ノルブみたいに浮遊フローティングの魔術で浮かべながら持って行くのかな?」


 コンラートがそう言ってきたので、僕は少し呆れて答えた。


「いやいや、流石にこれをそんな運び方は無理だよ……。あれで浮かべるとなると、質量と体積に比例して必要魔力量が増大していくからね。ここまで巨大で重いものは……」


 無理、とまで言えるかどうかはもしかしたら微妙かも知れない。


 学園長先生がその気になれば出来る可能性はゼロではないだろう。


 何せ、彼の力の底は僕には見えない。


 ただ、それでもそんなことはしないだろう。


 魔力がもったいない。


 それよりも、高位の魔術師であるのならば他に方法がある。


 まぁ、そちらにしてもこれだけの大きさのものを運ぶと考えるとかなりの魔力量が必要になるのだが。


 学園長先生は、


「では、持ち帰るぞ。空間収納スパティウム・ストレージ


 そう言って森陸竜の死骸に向けて手を掲げて詠唱すると、学園長の手のひらの先の空間に、黒い穴のようなものが開き、そこに森陸竜の巨体がまるで縮小化されたように小さくなり、吸い込まれていった。


 ほんの数秒で目の前にあったはずの巨大な質量は消滅し、ただそれが横たわっていた巨大なクレーターだけが残る。


「空間収納……確か、第八階梯魔術だったか?」


 コンラートが唖然としてそう言ったのも無理はない。


 第八階梯魔術となると、もはやまともに扱えるものなどほとんどいない、魔術の神業の領域に入ってくるからだ。


 ただ、ゼロではなく、世界的にみれば十人弱程度はいるかな、というレベルでもある。


 使えたとしても絶対にありえないというほどではない。


 それでも学園長がその十人ほどのうちの一人だ、というのは驚きだ。


 あんなに適当に生きているような老人なのに、その内実は不世出の魔術師なのだから。

 

「……学べば私にも使えるようになるかしら」


 マリアが僕の背中でそんな言葉を呟く。


「どうだろうね。少なくとも第七階梯までの魔術くらいは使えないと厳しそうだけど」


 魔術階梯というのは何も適当に決められているわけではなく、次の階梯の魔術を使うためには最低限、その階梯の魔術を一つ使えなければ習得が厳しい、ということを目安に決められているものだからだ。


 もちろん、それも絶対ではなく、小さな子供などがある日突然第三階梯の魔術を使った、なんてこともたまに起こるのは事実だが、流石に第八階梯魔術ともなると……。


 一気に飛んで使えるようになる、ということはまず、有り得ないだろう。

 

「第七階梯、ね。だったら、頑張ってみることにするわ」


「お、諦めないのか。今回の外出で思ったけど、君は中々、根性のある女の子だね」


 素直にそう思って僕が言うと、意外にもマリアはかなり驚いた声で、


「えぇ!? そんなこと、初めて言われたわ……。心胆寒からしめる女性だ、と言われたことは少なくないのだけど」


「それはどうなんだい……? まぁ、分からなくもないけどね。定例朝礼のときの君を見て、僕も似たようなことを思ったよ。それについては謝罪したい。許してくれるかな?」


 学園長のこともそうだが、僕にはあまり人を見抜く目がないらしい。


 マリアについてもかなり誤解していた。


 ただ、あの様子を見て誤解しない人間の方が少ないとは思うのだが、偏見の目で見てしまったことは確かだ。


 そんな僕の謝罪に、マリアはやはり驚いて、


「あの……別に謝ってくれなくてもいいのよ。私、そんな……」


「いや。君のような素敵な女性をそんな目で見てしまったことを僕は自分が許せないよ。君が許す、というまで謝り続けよう」


 あまりに恐縮しているので、少しばかり冗談っぽく言えば、彼女も理解してくれたようだ。


「ふふっ。分かったわ。この学園で、私にそんなことを言った人は初めてだけど……許してあげる。でも条件があるわ」


「おや、何かな?」


「私の友達になってくれるかしら? リュー・アマポーラ。貴方は……なんていうか、中々に私の近くにいなかったタイプで、そうなれたら楽しそうだと思うの」


「なんだ、そんなことか。もちろん、構わないよ。あ、そうだ。ついでにコンラートとも友達になってくれるかい? 一応、この学園で僕の第一の友だから」


 そう言うと、コンラートが、


「一応とはどういうことだ! むしろ親友だろ……おっと、マリア嬢。リューはふざけて言ってるのしれないが、俺も貴方にはなんだか興味が湧いたよ。誤解していたのは俺も同じで、それについては謝罪した上で、友人の一人に迎え入れて欲しいと思うが……どうかな?」


 僕に対するものとは異なる、淑女向けの少しばかり丁寧な態度でマリア嬢に気障な礼を見せてお願いした。


 これにマリア嬢は美しい微笑みを浮かべ、


「……もちろんよ。あぁ、今日は最悪な日かと思っていたけれど……沢山友達が増えて、むしろ良い日だわ。ノルブにも感謝しなくてはならないわね」


 清々しげにそう言ったのだった。

リュー→マリア 好感度+1

マリア→リュー 好感度+1

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