第40話 到着
「……これは……!」
僕たちがそこに辿り着くと、驚くべき光景が広がっていた。
大量の飛竜が一カ所に向かって群がり、攻撃を加えている。
その中心点を見ると、そこには魔術によって盾を張った一人の少女……マリア・ディリーノの姿があった。
そして、彼女の対面には薄らと笑みを浮かべる見たことのある顔がある。
ノルブ先生だ。
なぜ、彼はマリアを助けない?
疑問に思いつつも、僕はマリアの方に向かって突っ込んでいく。
「……待ちなさいっ!」
後ろからミラナ先生のそんな声が聞こえたが、事は一刻を争うだろう。
マリアの魔力量はかなり大きいが、もの凄い勢いで目減りしているのを感じる。
飛竜数十匹の攻撃を受け続けているからだ。
僕は、マリアのもとへ、盾を張りながら近づき、そして直近まで辿り着いたところでマリアの盾ごと、僕の盾の内部に取り込む形で魔術を展開した。
「……マリア。もう盾は解いていい」
僕がそう呼びかけると、精神的な疲労からか、目が虚ろなマリアがこちらに目を向け、それから、
「……貴方は確か……リュー・アマポーラ……?」
そう言ってから盾を解き、そして体から力が抜けるように崩れ落ちた。
「おっと……」
地面に倒れ落ちる前に、僕は彼女の体を支える。
予想していた以上に軽い体に一瞬驚くが、まぁ、少女の重さなどこんなものか。
本国で人間を運ぶ訓練は幾度となくやらされたが、そのときの荷物は大抵が屈強な中年男性だったし、それと比べるのは酷というものである。
「おやおや。随分と大層な盾を張るじゃないか。リュー・アマポーラ。けれど、そんなに大きな盾を張って……どれだけ維持できるのかな? マリアですら、飛竜たちの攻撃に耐えられたのはほんの数分だったというのに」
後ろから、嘲るような声が聞こえた。
それは、よく知っている声。
ノルブ先生のそれに他ならなかった。
視線を彼の方に移せば、授業で見せたことのない、邪悪な表情をした彼が僕の目に映る。
「貴方は……これは全部貴方がやったことなんですか?」
「そうだよ。君もヘリオスの外から来た人間なら知っているだろう? 魔術師の有用性と、その生まれにくさを。しかしヘリオスは……不自然なくらいに多くの魔術師が生まれる。特に女性の中には大きな器を持った者が生まれることがあることも知られている……私はそれを求めて、この学園に来たのだよ」
確かに、ヘリオスの魔術師の出生率はなぜか、他の国よりも少しばかり高い。
今までの魔術師達がうまく血統を調整してそういう結果になるようにすることに成功したのか、それとも他に理由があるのかは分かっていない。
ただ、それが事実であると言うことははっきりしている。
しかも、他の国では女性の魔術師は大変生まれにくいのだが、ヘリオスでは普通に男女変わらない割合で魔術師が生まれる。
このことは、ヘリオスの大きな特徴で、ヘリオスの貴族に生まれた女性が他国の貴族に求められやすいのはこれが大きな原因だった。
もちろん、一般的に言って、この求められるとは、合法的な婚姻によるものが大半だが、一部、非合法な手によって求められることもある。
つまりは、誘拐という奴だ。
ノルブはそれをするつもりだったと……。
しかもマリアを標的にして。
確かに、彼女の魔力量は他の女生徒達と比べても段違いに大きい。
そのことをもって、ノルブはマリアを大きな器だと評したわけだ。
魔術師の中でも大きな魔力量を持つための才覚のことを器と言うが、それは生まれつき決まっていて、不変であると言われる。
小さな頃から、徐々に魔力量は増やしていけるが、最終的には持って生まれた器の大きさまでしか増えないと言うことだ。
その器の大きさがどの程度なのかは実際にやってみないと分からない。
そもそも、大抵の人間は限界ギリギリまで努力をしないから、器を完全に満たすほどの魔力量まで達しないのが普通だ。
それでも、自分の器が概ねどのくらいの大きさなのか理解する方法はあり、それは魔力量の成長率である。
単純に、器が大きければ大きいほど、成長率も高くなることが多い、というのだ。
ただ、これも絶対というわけではなく、あくまでも目安に過ぎない。
つまり、器の大きい小さいはぱっと見で測るのは大変難しいということだ。
にもかかわらず、ノルブはマリアの器が相当巨大だと確信しているようである。
奇妙だ……。
「……目的は分かりましたが、なぜそう言い切れるのかが分かりません。マリアの器はここで打ち止めかも知れない」
「そうはならないさ……ま、君は知ることは出来ないことだろうが、ねっ!」
言いながら、ノルブは僕に向かって巨大な岩弾を放ってくる。
飛竜の攻撃に加えて、さらに付け足しで僕の盾に衝撃を与えようというのだろう。
全く、それでも教師かと胸ぐらを掴んで言い募りたくなるが、ここまで開き直っている奴に何を言っても無駄だろう。
はてさて耐えきれるか……!
と思ったところで、
――ボォン!
と、僕の盾に命中する前に、その火弾は防がれる。
誰にか、と言えばミラナ先生によってだ。
「……大丈夫ですか?」
「え、ええ……」
「全く。止めたのに突っ走るんだからしょうがないですね……まぁ、結果オーライとしましょうか。マリアさんも限界に近かったようですし、リュー君の判断の方が正しかったでしょう」
「……ありがとうございます」
「それで、もうしばらく飛竜の攻撃には耐えられそうですか?」
「飛竜だけなら、まだ大丈夫です」
「では、もう少し頑張って下さい。私はその前に、あれを捕まえることにしますので」
あれ、と言ったとき、ミラナ先生はノルブに視線をやった。
かなりイライラしているようで、いつものやる気のなさそうなそれとは明確に異なり、鋭いものが宿っている顔だった。
「……ほう。ミラナ先生。私とやる気ですか?」
「不本意ながら。それもこれも貴方のせいなのですが、分かっていますか?」
「……そう言われましてもね。これが私の仕事なので。まぁ、こうなっては仕方がありません。行きます、よっ!」




