第31話 妙なメンバー
「……それで、なんでこのメンバーなんだろう……?」
学園本館の正門前で僕がそう呟いたのは、周囲に並ぶ面々を見れば誰でも理解できるだろう。
ここにいるのは、まず僕とコンラートは当然として、召喚魔術の女性教授のミラナ先生、それに魔術実践の男性教授であるノルブ先生がいる。
ここまではまぁ、理解できるだろう。
しかし、それに加えて、他にも生徒がいる。
一人はあの定例朝礼のときにもの凄い大失敗を冒していた生徒……名前は、ジョゼ・リコールというらしい……と、その彼女に対し「無礼者!」と叫んだ貴族風の女生徒ラーヌ・メリジェ、そしてそれに加えて、コンラート曰くこの学園の女帝であるマリア・ディリーノがいた。
そして極めつけは……。
「……なんじゃ? 儂の顔になにかついておるかのう?」
とぼけた顔でそんなことを言いながらたたずむ老人は、何を隠そうこの学園の長であるニコラウス・エルフウッドである。
彼がここにいるのは明らかにおかしい。
そもそも、なんでこんなメンバーでここにいるかと言えば、今日は、コンラートと僕が召喚獣を捕獲するために、学園本館からの外出を申請したためである。
そうであるなら、一人か二人の学園教授がついてくるのは分かるが、それに加えて他の生徒達もいる上、学園長までついてくるとは予想外だった。
これについてもの聞きたげな顔を召喚術の教授であるミラナ先生に向ければ、彼女はそれを察したようだ。
これは僕の顔があまりにも不満げだったからではなく、マリアの顔もまた同様だったからかも知れない。
ミラナ先生は言う。
「授業でも言いましたけど、学園教授というのは誰もが暇なわけではないのです。つまり、年がら年中人手不足なわけですね。少し考えれば分かりますけど、召喚獣を捕獲しに行く、というような、複数の生徒からの同じ目的での外出申請があり、学園教授がつく必要がある場合、まとめて面倒を見るのが通例です。今回皆さんはマリアさん以外は召喚獣を捕獲するためにエテマ山に向かいたい、という旨の外出申請を出されました。そしてマリアさんも、他の目的ではあるものの、やはり目的地はエテマ山です。ですので、こういうことになったわけです……」
まぁ、話は分かった。
召喚獣捕獲のための外出は可能な限り生徒達をまとめて連れて行くと言うことだろう。
全く同じ目的地ではなくとも通り道だとか大体近いとかそんな感じでもまとめられるのだろうな。
しかし、この説明だけでは明確でない点が一つある。
僕はその説明を求めるため、原因である人物の方に視線を向けた。
「……儂は授業の巡回じゃよ。これでこの学園の長なのでのう。その年の授業がすべて、問題なく行われているのか定期的に確認する必要があるのじゃ。他に他意はないぞ?」
最後の一言は僕に向けて言ったことだろう。
他の者には何か奇妙な目的はない、と一般的な意味で聞こえる言葉だ。
僕には僕を監視しているようにしか聞こえないが。
まぁ、仮にそうだとしても別に何かやらかそうと思って授業を受けているわけでもなければ、これからそうなる予定もない。
学園長が僕をどう監視してようとも問題を起こさなければそれでいいか、と諦めることにした。
「……まぁ、皆さんは、学園長がこのように来て見学されると言うことに緊張を感じるかも知れませんが、割と良くあることですのであまり気にされなくて構いません。成績評価には全くタッチされませんし、なんなら強力な魔物が出現した場合に盾にしても問題ありませんよ」
「……ミラナ君。わしの扱いが少しばかりぞんざいじゃないかね?」
「まさか。学園長先生の魔術師としての実力を高く評価してのものです。そもそも、ここに今いる生徒達はまだ、この学園に入って半年。その実力はそれこそ初級魔術師に毛が生えたようなものでしかありません。強力な魔物にそうそう対抗できるはずもなく、そのような場合には我々が盾になるのは当然と言えましょう。その際に、学園長先生が最前に立って下さるのならこれ以上心強いことはないとも」
「……確かに、それはそうじゃな。ふむ」
校長先生はそれで納得したらしい。
心なしか嬉しそうだ。
自分の実力が評価された、と感じているのかも知れない。
なんだか子供っぽい人だな……。
「……ちょろいジジイだわ」
ミラナ先生の口からそんな声が聞こえてきたので僕は彼女を凝視したが、何食わぬ顔で続けた。
彼女の声は他の生徒達には聞こえないような音量だったようだが、僕の耳は結構鋭い。
「さて、それでは出発しましょうか。さっきも言いましたが目的地はエテマ山です。飛竜や風鷲などの空を飛ぶ魔物が多く生息する場所であることはここにいる皆さんは調べたようですから、知っていますね?」
ここにいる生徒のほぼ全員、自らの契約する召喚獣を空を飛ぶ魔物に決めた面々だ、ということだろう。
マリアだけは違うらしいが、彼女は彼女でそういった魔物に用があるのかな……?
素材という意味でも有用なものが多く、そういう可能性は考えられる。
まぁ、一緒に行動する中で明らかになっていくことだろう。
足を引っ張ることだけはやめてほしいが、感じる魔力から彼女の実力は確かであることは僕にも察せられる。
そういう意味で足手まといになることはないだろう。
ただ、定例朝会での出来事を考えてみるに、ああいういざこざの可能性はゼロとは言えない。
実際、今も彼女は貴族の女生徒ラーヌに甲斐甲斐しく侍女のように世話を焼かれている。
表情はあまり読めないが、それを当然のものとして受け入れていることは見れば分かる。
それでいて、あの定例朝会でもめた女生徒ジョゼとは目も合わせない。
「……こいつは波瀾万丈かも知れないな」
コンラートが僕の耳元でそう呟いた。
おかしなメンバーにおかしな状況。
確かに何も起きないと言われて、素直にうんとは頷けない雰囲気である。
「出来ることなら別日に変更したいところだけどね」
「今更無理だろ……よし、お互い腹をくくるか。女どもにはできるだけ近づかないようにしようぜ」
「そうだね……」
そうして、僕たちの召喚獣探しが始まった。




