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悪役令嬢とストーカー  作者: 丘/丘野 優
第一章 少年と令嬢
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第24話 合同授業の理由

 結果として、僕とコンラートの期待は裏切られることになった。


 というのは……。


「さて、みんな集まりましたね。これから召喚魔術の授業を始めたいと思うのですが、周りを見て疑問を持っている方々もいらっしゃると思うので、まずその点から説明しましょう……」


 生徒達の注目を手を叩くことで集め、話し出した人物はこの召喚魔術の授業を担当する教授であるミラナ・ロージン先生だ。


 魔術に関する科目はその奥深さ、極めることにかなり時間がかかるものであり、また他人に自ら到達した真理を教えたくない、と考える秘密主義的な人間の多い分野であるので、そういった欲や嫉妬が枯れてきた高齢の人物が務めることが多いが、ミラナ先生は若い女性だった。


 だいたい、二十代後半、と言ったところだろうか。


 小柄で地味な顔立ちの茶色の髪をした女性で、一見するとどこにでもいるような平凡な人物に見える。


 魔術学校の教授だと言われても大体の人は首を傾げてしまうかもしれない。


 しかし、よくよく目を凝らして見ると、彼女が確かにこの王立学院の教授として適切な人物であることが理解できるだろう。


 それは、彼女の持つ魔力の大きさだ。


 この場にいるほとんどの生徒は、ミラナ先生をどことなく侮った目をして見ているが、僕には分かる。


 今この場にいる誰よりも彼女の持つ魔力は強大で、そうでありながらもその魔力を完全に制御し、隠匿している。


 自らの持つ魔力の隠匿は魔術師として基本に属する技能ではあるが、持つ魔力が大きければ大きいほど、その難易度は上がっていく。


 どうしても外に出る魔力全てを抑えきれないのだ。


 けれど、ミラナ先生にはそういうところが一切無く、かつ涼しい顔をしている。


 これだけでも、相当な力を持った魔術師だ、ということが分かる。


「……なんだか随分と凄そうな人だね」


 つい僕が隣に立つコンラートにひそひそ声でそう言うと、コンラートは怪訝な顔をして、


「……そうか? 可愛くて親しみやすい先生だとは思うが、凄そうと言われると……。大抵の生徒からミラナちゃんって呼ばれてるんだぜ、あの人」


「えっ……」


 あれほどの魔術師に対し、よくそんな気軽に対応できるな、と思ってしまった僕だが、まぁ……そのことを正確に理解していなければそんなものか。


 ただ、僕は彼女の逆鱗に触れるのは恐ろしいのでその対応は無理だ。


 丁寧にミラナ先生、もしくは教授と呼ぶことにしようと思った。


 そんなミラナ先生が続ける。


「本日の授業は特別クラスである一組と、一般クラスの三組が合同で行いますが、この状態は今年いっぱい続きます」


 その言葉に不満の声が上がる。


 その主の多くは、一組の生徒達の方だ。


 彼らの言葉を聞いてみると……。


「いやいや、なんで一般クラスなんかと?」「レベルが違うんだし、一緒にやってもなぁ……」「そもそも何でミラナちゃんなんだよ。クラウディオ先生はどうしたんだ? 俺たちの担当はあの人だっただろ」


 そんな感じの台詞が聞こえてくる。


 結構酷いことを言っている気はするが、言い方はともかく内容は正当に思えるところもある。


 一組と他の一般クラスはそもそも生徒のレベルが違うからこそ分けられているというのは正しい。


 それなのに一緒にやっても学習効率が悪いだろう、というのはまさにその通りだ。


 先生については……なぜか一組の担当教師であるクラウディオ氏がいないらしい。


 コンラートが言うには中年の魔術師で、ヘリオスの召喚魔術師協会の理事も務めるかなりの人物なのだということだ。


 一組を教えるのに相応しい人だと言うことだな。


 翻ってミラナ先生は……というと、一組の生徒達の反応を見る限り、そうは思っていないことが分かる。


 クラウディオ氏はミラナ先生よりも上位の魔術師なのか……ヘリオスの魔術師の実力を少しばかり低く見ていた部分のあった僕であるが、これは見直さなければならないと思った。


 ミラナ先生クラスが普通にその辺にいるというのなら、これはかなりのレベルだからだ。


 あれくらいの魔術師は、本国でも帝都で上位の官職についている。


 ミラナ先生は生徒達の失礼な台詞を流しながら続けた。


「……クラウディオ先生についてなのですが、一身上の都合で学園を退職されることになりました。細かい話は聞いていないのですが、召喚魔術師協会の理事は続けられるとのことですので、そちらの仕事との両立が厳しくなったのだと思います。召喚魔術の授業の半分を担当されていたクラウディオ先生がお辞めになるということで、結果的に彼の教えていたクラスの授業については私が担当するほかなくなってしまいまして……けれど私の時間も有限です。すべてのクラスを個々に見ているほどの余裕もありませんので、申し訳ないのですが、いくつかのクラスをまとめて見る、ということになりました。この一組と三組以外にも、二組と四組と五組も合同です。一組と三組については、学習が進んでいる人たちも多いので私の出番も多いと言うことで、二組合同に抑えました。これでも配慮してこのクラス分けになりましたので、そこのところは理解して下さい」


 すべてをかなり淡々と早口で説明したミラナ先生である。


 聞いている生徒たちは、三組の生徒はともかく、一組の生徒達は極めて不服そうだが、そうであるにも関わらず、涼しげな態度を崩さないミラナ先生は見かけによらず結構図太い性格をしているのかも知れなかった。


 実際、


「……三組となんか授業できませーん!」


 などと言った一組の生徒が一人いたが、静かな目を向けて、


「では帰って良いですよ。もちろん、その場合は単位未習得になりますからまた来年一からですけど……頑張って下さいね」


 と無慈悲な台詞を言ったので静かになった。


 そして、全員が落ち着いたのを確認し、


「はい、それでは皆さん納得されたところで授業を始めましょうか。といっても、今日は覚悟が決まった人に直接召喚によって召喚獣を呼び出してもらい、契約してもらうくらいですが。それ以外の方々は見学です。自らの召喚獣をすでに持っている人は、仲を深めて出来ることを把握することに時間を使っても構いません」


 そう言った。


 どうやらかなり自由度の高い授業のようだが、コンラートのように契約する召喚獣を自ら外に探しに行きたい者はどうすればいいのだろう。


 疑問に思った僕は手を上げた。

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