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悪役令嬢とストーカー  作者: 丘/丘野 優
第一章 少年と令嬢
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第20話 魔術実践

「……魔素よ、我に従い、氷塊へと姿を変えよ……ジェロ


 僕がそう唱えると同時に、僕の差し出した手のひらの上に小さな氷の塊が姿を現した。


 それは数秒、そこに浮かび続け、そして静かに消えていく。


「よし、いいだろう。確かに申告通り、授業には問題なく着いてこれそうだな。ご実家では誰かに師事していたのか?」


 魔術実践の授業、その担当教師であるノルブ・マカーという、魔術師のイメージからは少し離れた精悍な青年にそう尋ねられたので、僕は頷いて答える。


「はい。祖父の知り合いに魔術師の方がいたので、家に招いて基本は一通り学びました。第一階梯魔術であれば、基本的なものは概ね一般的な威力で放つことが出来ます」


「おぉ、それは中々だな。となると……一年生の間の魔術実践の授業は君にとっていささか退屈なものになるかもしれん。なぜなら、基本的に教えることは第一階梯魔術が主になるからだ。第二階梯魔術も後半に少しばかり教えるが、それはあくまで学習が進んでいる者にだけということになるし……まぁ、君は間違いないそれを学ぶ側になるだろうが、それまでは自習に近い形になる。もしよければ、クラスメイトでうまく魔術の使い方を理解できていない者がいたら、フォローなどしてくれると私としては助かるのだが……?」


「そうしていいのでしたら、ぜひ。コンラートにも魔術を教えてくれと言われていますし、監督される先生がいらっしゃる場でそれが出来るのなら、ありがたいことです。危険なこともないように、よく注意して行いたいと思います。もちろん、コンラート以外のクラスメイトにも同様に接します」


「やぁ、君は素晴らしいな。毎年君のような生徒ばかりだといいのだが、そうすると私の仕事が失われかねない。ともかく、頼んだ。何かあれば呼んでくれ。すぐ対応する」


 そう言ってマカー教諭は他の者のところへと去って行った。


 それと入れ替わるようにコンラートがやってきて、


「……うまくやったな」


 と言ってくる。


 僕は首を傾げ、


「何が?」


 と尋ねるとコンラートは笑って、


「さっきの魔術だよ。威力を抑えただろう? マカー先生は可能な限り魔力を多く注いで、と言っていたのに、一般的な威力までにさ」


 流石にコンラートは一度、僕がもう少し力を入れて使った魔術を見ているからか、今のが限界まで手抜きされたものだとすぐに気づいたらしい。


 しかし、あれ以上力を込めると面倒なことになりそうだと言うことは分かっていたので仕方が無かった。


「あんまり変に注目されるのも困るからね。特別クラスに入れられないように頑張る、と決めたんだからさ」


「そうだな。まぁ、確かにあれくらいならただの優等生で済む。俺や他の生徒に教えるときも、見本を見せたりするときは気をつけておいた方がいいぜ」


「もちろんさ。第一階梯魔術なら、制御を間違えることもないだろうし、大丈夫だと思う」


 変に力が入ったり、その逆になることもないだろう、ということだ。


 階梯が上がるにつれその危険は増えていくだろうが、第三階梯までならそれこそ目を瞑っていても問題なく制御できる自信がある。


「流石だな、よし、その制御法をしっかりと俺にも教えてくれよ」


 コンラートがそう言ってきたので、そこからは彼に対する個人レッスンとなった。


 この魔術実践の授業は、一年生の間に第一階梯魔術を五つ習得することを目標としたもので、それさえ出来るならば割と自由である。


 すでに習得しているものはさらに一つか二つ、追加で習得することも求められるが、それだって大したものではない。


 あくまでどんな魔術を習得しているかは自己申告であるから、すでに七つ習得していて、他の二つを言わずに、後でこの一年の間に習得しました、と言っても許されるというか、それが嘘であると断定しようがない。


 一応、魔術の中に虚偽を暴き立てるものもあるが、第六階梯魔術に属するもので、かなりの高位魔術師で無ければ使うことが出来ず、一学年の生徒全員に対して定期的に使うことは現実的では無い。


 したがって、その辺はかなりなぁなぁというわけだ。


 まぁ、学園としては一年が終わる段階で五つ以上の第一階梯魔術を習得している状態にあることこそが重要なのであって、そこに至る過程についてはどうでもいいということなのだろう。


 そうでなければ、二年生になったとき、第二階梯魔術を習得するのが難しくなるから、しっかりとこの段階で身につけさせておきたいというに過ぎないからだ。


 第二階梯魔術を修めるためには第一階梯魔術を五つ以上修めていることが必要なこととされる。


 絶対というわけでも無いのだが、第二階梯魔術を身につけるために必要な魔術を使う感覚が十分に備わっている、と判断出来るのが、第一階梯魔術を五つ程度使える、という状態だからだ。


 世の中には第一階梯魔術などすっ飛ばしていきなり第二階梯魔術を使えるようになる者もいないわけではないが、かなり稀だし、それが出来てもやはり、第三階梯魔術を覚える段になると途端に足踏みをし始めたりする。


 何事もこつこつと、段階を踏むことが重要だ、ということだな。


 そこまで考えて、僕はコンラートに尋ねる。


「そういえばコンラートは魔術は不得意だって話だけど、どれくらい駄目なの?」


 先日僕が魔術を使って見せたときには、彼の魔術は見せてもらっていない。


 というのは、あの魔術実践室は三十分くらいしか借りておらず、そのための時間が足りなかったからだ。


 どうにも今の時期は混んでいるらしく、昨日の今日、という段階で提案したこともあって長時間は借りられなかったらしい。


 だから今、コンラートの実力を一度、見せてもらいたいと思っての言葉だった。


 これにコンラートは、


「さっきお前が使ったジェロの魔術があったろ? いわゆる属性具現化の魔術」


「うん。最も基本的な魔術だね」


 氷の他に、火や土や風、岩に光に雷に闇、なんていうのもある。


 それ以外にも色々とあって、この世に存在する物質の分、可能性があると言われており、今の段階でも全て網羅されているとは言えないと言われている。


 そのため、全部まとめて属性具現化術、と言われているわけだ。


 特定して言う場合には、たとえば氷の場合にはジェロの魔術、とかジェロ、とか言ったりする。


「……俺はああいうの、一つも出来ねぇ」


「えっ……」

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