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悪役令嬢とストーカー  作者: 丘/丘野 優
第一章 少年と令嬢
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第15話 クラスメイト

「……リュー・アマポーラです。どうぞよろしくお願いします」


 そう言って僕は壇上で頭を下げる。


 定例朝会が終わった後、僕は学園長から振り分けられたクラスを教えられた。

 そしてそのクラスの担任教師に連れられて、教室まで来て、たった今、クラスメイト達の前で自己紹介をしているところである。


 かなり簡潔なものであるが、しかしそれは定例朝会において出身地など細かな部分もすでに紹介されているからだ。


 あまり長々と自己紹介をするのもあれというか、僕は下駄を履かせられたさほど優秀ではない生徒、とあれで見られたらしいのでそこまで出しゃばらないようにという考えもあった。


 しかし、意外なことに頭を上げた僕の目に入ったのは、怪訝な瞳で見つめるクラスメイト達の姿では無く、暖かな視線を向けてくれる優しげなクラスメイト達だった。


 不思議に思って周りをよく観察してみれば、クラスメイト達の一人に僕のこの学園における一番最初の友人であるコンラートの姿を発見する。


 そういえば、このクラスは三組だったか。

 コンラートは三組だ、という話だった。

 そのつまり彼もまたクラスメイトで……。


 彼の顔を見ると、意味ありげな微笑みを向けてこちらを見ている。

 それで僕は理解した。


 このクラスメイト達の歓迎は、コンラートの根回しによるものなのだな、と。


 持つべきものは良い友人である。


「……よし、それじゃあ、リュー。君の席は……コンラートの隣で良いな。彼とはすでに知り合いだと聞いたし、ちょうどいいだろう」


 言われてみるとコンラートの隣の席が空いていた。


 僕は頷いて、そこまで歩く。


 コンラートの席は窓際最後方から一列ずれたところで、僕は窓際最後方の席と言うことになる。

 そのためそこまで辿り着くためにはクラスメイト達の席の間を進んでいく必要があり、実際にそうしたが、やはりクラスメイト達は優しかった。


「よろしくな、リュー。魔術得意だって聞いたぜ。俺苦手でさぁ、教えてくれよ」「体術系はコンラートの奴に全部任せておけばいいぜ……これは内緒なんだが、結構さぼりやすいんだよ」「すっごく綺麗な銀髪だね。後で手入れ方法教えてね!」「リラントって細工物が有名だよね! 向こうの流行とか知りたいから後でお話ししてね!」


 などなど、色々と声をかけてくれたのだ。


 どれも悪意などない素直なもので、母国にいたときはあまり経験のない対応だった。


 自然、僕も笑顔になり、彼らに頷きつつ、穏やかな気持ちで自らの席に着けたのだった。


「……おう、同じクラスになれたな」


 横に座るコンラートがそう言ったので、僕は頷いて答える。


「ああ、そうだね……しかし、こんな風に歓迎されるとは意外だったよ。どうやら君のお陰みたいだ。ありがとう」


「なに、大したことはしてねぇぜ。それにこのクラスは特にいい奴らがそろってるからな。他のクラスもこんな感じだと思ったら大間違いだから、そこのところは覚えておいた方が良いぜ」


「というと?」


「このクラスは貴族の子女も穏当な奴ばかりだし、平民の奴らも貴族に敵意を向けてるような奴がいないってことだよ」


「つまり、他のクラスには……」


「うようよいる……とまでは言わねぇが一人もいないってことはねぇな。本当に運の良いクラスなんだよ。ま、クラス分けは基本的に卒業するまで変わることはねぇから、良かったぜ。下手するとやべぇ奴ばかりのところで三年間過ごす羽目になるからな……」


「基本的にっていうと、例外があるのかな?」


「ある。あんまり成績が飛び抜けると、特別クラス行きになるからな」


 言い方がまるで牢獄行き、と言っているかのようで僕はなんだか面白くなって吹き出して僕は言ってしまう。


「まるで行きたくないような言い方じゃ無いか」


 たとえば、僕のように少しばかり特殊な事情があって行きたくない、というのならば分かるが、普通ならば特別クラスに行くというのは名誉なことなのではないだろうか。


 特別クラスとはつまり、その学年のトップクラスを集めたクラスであり、そこに所属すれば卒業後の進路にもきっと困ることはないだろうから。


 僕も出自の問題が無いのならそこに所属したいくらいなのだが……。


 しかしこれにコンラートは言う。


「あそこはそれこそ魔窟だからな。貴族にしろ、平民にしろ、特別クラスにいる奴らはよくも悪くもずれた奴らが多い。それこそ、昨日の生徒会見たろ? ああいう奴らばっかりなんだぜ……平民にしたって、その辺の木っ端貴族より優秀な奴らばかりだ。自然、自分より能力の無い貴族に対して攻撃的な奴も出てくるからな……正直、革命家予備軍じみた奴だっているくらいだ」


「……また随分と物騒なものをこの国は平然と育てているんだね」


 翻って僕の母国はどうか、といえば貴族と平民の対立は少ない方だと言えるだろう。


 それは、僕の母国が同一の価値観に基づいて集合している国家だからだが、しかしそんな僕の国でも流石に革命家予備軍なんて育ててしまうようなカリキュラムは採用していないはずだ。


「別に好んで育ててるわけじゃねぇんだろうが……やっぱ、そうやって一所に集めちまうとな。それに貴族じゃ無くたってカリスマ性のある奴はたまに出てくるもんだ。そういう奴が調子に乗り出すとまずいと思うが……ま、わざとやってるところもあるかもしれねぇな。早い内に集めて、芽の内に刈り取っちまうため、とかよ」


「なるほど、それなら分かるかな」


 優秀な爪を隠したまま、権力を持ちうる大人になってから革命を起こされてもたまらないが、若い頃にはっきりと印をつけられるならその後、そいつらには権力を持たせなければ良いのだと、そういう考えもあるだろうという話だ。


 まぁ、無い話では無いだろう。

 かなり生臭い話だが、そうやって平和は守られていく部分もある……。


 ただ、願わくばちゃんと真面目に国の為に能力を生かそうとする平民生徒には道を作ってやって欲しいものだ。

 ヘリオスの人間では無い、部外者の僕が思うことではないのかも知れないが。


「ま、よっぽど無茶なことをやらなきゃ、粛正されたりはしねぇし、本当に優秀な奴は革命とかクーデターとか起こしてもそうそう何かが解決したりしねぇことは分かってるだろ。だから、そこまで心配はしなくて良いが、生徒同士のぶつかり合いくらいはありうるってことだ。特に、特別クラスではな。そんなわけだからお互い、気をつけようぜ」


「特別クラスに上がらないように?」


「俺は成績に問題があるからはそうはならねぇが、リュー。お前はその可能性もありそうだろ? ま、どれだけの腕してるからによるがな。放課後が楽しみだぜ」

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