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悪役令嬢とストーカー  作者: 丘/丘野 優
第一章 少年と令嬢
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第11話 式典会場にて

 王立学園の定例朝礼は、校舎建物に接続されている式典用の大ホールがある建物で行われる。


「ここは全校生徒が集まるようなイベントが行われるときに使われることが多いな」


 コンラートが隣でそう言った。


 会場内に並べられた数百の椅子、そのうちの一つに腰掛けている僕とコンラートである。 今日は特別な式典というわけでは無く、あくまでも一月に一度行われる定例朝礼に過ぎないため、会場への集合はかなり緩いもので、決められた時間までに特定のエリアの席に座っていればそれでよい、というものだった。


 エリアは学年とクラス毎に決まっている。


 といっても、このクラス、というのはそれぞれの学年毎に特別な上位層を集めた特別クラスと、それ以外を人数毎に分けた一般クラスというものしかない。


 特別クラスは一組と、それ以外は二十人一クラスで、二組から五組まで存在している。


 コンラートは三組らしく、僕はまだ振り分けが分からないが、二組か五組の生徒については一般クラスエリアに座ることとされているので隣同士で座っても別に構わないというわけだ。


「定例朝礼以外にはどんなイベントがあるんだい?」


 僕が尋ねると、コンラートが少し考えてから答えてくれる。


「そうだな、分かりやすいのは入学式と卒業式……それに、パーティーってところだな」


「入学式と卒業式はいいけど……やっぱり、ここでもパーティーをするんだね」


 僕としてはあまり好ましくは無い話だ。


 まぁ、貴族というのはどんな国でもパーティーが好きである。

 これは別に遊んでいるわけではなく、貴族同士の顔つなぎのためには定期的にそういうことをして会話をする機会を設けておかなければならないためである。

 そうしなければ相手の考えていることが分からず、予測できない問題が発生したりするからだ。

 逆に、そういう機会に仲を深めて思いもよらないうまい話を掴めたりもする。

 僕の母国の学校などにおいてもそういうことは普通に行われていたし、おかしくはない。


 加えて、ここ王立学園はコンラートに話によるなら男女とも、お互いに将来の連れ合い候補を探しているということであるから、パーティーはそういう意味でも絶好の機会となるだろう。

 やらない手は無い。


 それは分かるのだけど……。


「なんだよ、気が乗らないのか?」


 コンラートがそう尋ねてきたので、僕は頷く。


「まぁね。あんまりパーティーには良い思い出がないからさ」


 その台詞を聞き、コンラートは聞いた話を思い出したのか、言う。


「あぁ、リューの髪を見て、遠巻きにされたってわけか?」


「その通りさ。僕に近づいてくる女の子なんて、滅多にいなかったよ」


 厳密に言えばゼロでは無かったが、そういう者たちは色んな意味で一癖も二癖もあるような者ばかりだった。

 普通の付き合いなど出来る感じでも無く、パーティーなど出るたびに憂鬱な気分になったことを覚えている。


「それじゃ、確かにつまらねぇだろうな……まぁ、この学園ではそういうこともないんだ。楽しめるだろうぜ。俺がしっかりリューの貴公子ぶりは広めておいてやるから、きっとダンスなんかも引く手数多だ」


「それはそれで困るような……」


 そもそもの問題として、僕にはあまり女性に対する興味がない。


 別に絶対嫌だとか結婚する必要が無いだとか極端な思想を持っているわけでは無いのだが、かといって前のめりにどうにかしたいと思うほどの情熱も無いというか。


 それこそ、実家にずっといたら、僕はお見合い以外では結婚することは無かっただろうなと思うくらいだ。


 だからいきなり来られても困る。


「でも……いくらコンラートがそんな話を広めたからって、実物を見れば皆、散っていくんじゃない?」


 噂話で《貴公子が来た!婚約者候補に最適!》なんてコンラートが流したところで、実態は僕なのだから、あぁ、こんなものなのね、となりそうなものだ。


 しかしコンラートはそんな僕に呆れたような視線を向けて、


「……お前、なんだ。無自覚かよ……」


 そんなことを言う。


「何がさ?」


「鏡を見ろ! お前の顔を見て熱を上げない女なんていない!」


「……そうかな? 母国ではこの顔はずっと女々しいと言われてきたよ。こんな顔より、女の人なら、こう、屈強で爽やかな騎士のような男性を望むんじゃ無いかな」


「それは……確かに間違っちゃいねぇけどな。ただ最近はお前みたいな顔も流行ってるんだよ。この国でもここのところ演劇関係が広く浸透してきているからな。華奢で、女のように美しい顔の男の俳優が結構人気になったりしてる。似顔絵なんかも凄い売れてるんだぜ」


「演劇か……」


 近年、世界的に食料生産力が昔と比べてかなり上がってきているため、それによって生まれた余暇や経済力を文化芸術の方へと使われることが増えてきている。


 これは多くの国で同様の状況だ。


 僕の母国でも確かに言われてみると演劇は盛んに行われていて、貴族でも演劇の一座を囲うような者も少なくない。


 僕が女性に罵倒される台詞の中でもっとも多かったのは「女々しい」だが次点は「そんな顔してるなら役者にでもなれば良いのよ」だった。


 なるほど、そういうことなら、確かに少しくらいは好きになってくれる女性もいるのかもしれない……。


「じゃあ、学園でのパーティーにも期待しておこうかな。どうこうなろうとまでは思わないけど、少し踊ってくれるくらいの人でもいれば、母国にいたときみたいに寂しくなることもなさそうだ」


 僕がそういえば、コンラートは何か泣きそうな顔をして、


「お前……ほんと苦労してんのな。見た目で何不自由ないお坊ちゃんかと思ってた俺を許してくれよ」


「……そんなこと思ってたの?」


「まぁな! だがもう違うぜ。ともかく、パーティーは楽しみにしておけ。ま、百歩譲って誰も来なかったらそんときは俺とでも踊ろうぜ。これで、ダンスは得意だ」


「コンラートと……?」


 男同士でパーティー会場のど真ん中でダンスを披露している姿を一瞬想像して、なんだかげんなりした。

 コンラートも同じような想像をしたらしく、自分で言っておきながら、目つきが淀んでいた。


「……お互い、そうならないように最低限、相手は見つけたいところだね……」


「……そうだな。いくらお前の顔が女だったら美人だからって、男の腰を支えながら楽しく踊れる気はしないぜ……」

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