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SUNNY'S

「んっ。やる。だから、機嫌なおせって」

「はあ〜?そんな、アイスバー一本で許されると思ってるの!?」

 夜。ソファでムスッとしながら寝転がっていると、風雅がアイスバーを差し出してきた。

 こんなもので許されると思っているのか……。

「姉ちゃんがそんな本気でナギのこと好きなんて思わなかったから」

「……」

 むくりと起き上がった私は風雅の耳を思い切り引っ張ってやる。

「いててててっ!!」

「あんまり、ふざけたこといってると、その耳を引きちぎってやるから!」

 そういって、手をはなす。

 風雅は赤くなった耳をさすりながら

「……鬼婆……」

とつぶやく。

「はあ?なんかいった?大体」

 ピーンポーン

 二人してかたまる。

「えっ?こんな時間に誰?……」

 今は夜の九時半。……不審者?

「姉ちゃん、でて」

「はあ?男でしょ!?ここはアンタが……」

「姉ちゃんのほうがあきらかに強いし」

 ピンポーン

 こうなったら……

 二人同時にこぶしをつきだす。

「最初はぐー!!ジャンケン」




「なんで私こんなに弱いの……」

 無残に負けた手のひらを見やる。

 ピンポーン

「はあ……」

「姉ちゃん、はやく出ろって!」

 リビングから顔をのぞかせそういう風雅。自慢げにピースサインしているのが小憎たらしい……。

 私がパーさえださなければあ……などと思いながら玄関に急ぐ。

 ピンポーン

「はーい」

 そう返事をして戸をあける。と……

「こんばんは、莉音!」

 爽やかスマイルを浮かべるソラ。

 その後ろにはSUNNY'Sのナギ以外のメンバー。

「……」

 私はとりあえず、ニコニコしているソラを押し外にでた。

「なになに、どうしたのお?」

とたずねてくるソラ。

「一体何の用?」

 危うく興奮で吹くところだった。

 風雅がいたら、それを指摘されて平静を装えなくなりそうだったので外にでたのだが。

 四月の夜というのは冷えるらしい。肌寒くて身震いする。

「莉音ちゃん寒そう。ぼくがあっためてあげる」

 そんな声にそちらを見やろうとすると後ろから抱きしめられる。

「なっ!?」

「おい、ヨウやめろ。困ってるだろ。」

 そう厳しい声でヨウをいなし、ヨウを私から引き離してくれるのはネク。

「あ、ありがと」

「いや、当たり前のことをしたまでだ」

 そういって胸をはるネク。群青色の髪の毛がサラサラと風にゆれている。右目の下にあるホクロが可愛いらしい。綺麗な顔立ちだなあ……。

 なんて、思っているとヨウがずいっと前にでてくる。

「莉音ちゃん、僕のこともちゃんとみて?もう戻れなくなるくらいには夢中にさせてあげるよ」

 口元に浮かんでいる妖艶な笑みをみてゾっとする。

 薄く金がかった茶髪は柔らかなウェーブを描いていて、サイドを残してそれ以外は上にしばってある。ネクとは逆の位置、左目の下にホクロがある。ネクとは違いエロくみえる……。

 なんていうか、いかにもなチャラ男……。 こういうことを通りすがった女の子全員にいってるんだろう。

「あの……」

「おい、お前」

 ヨウから顔をそむけどいて欲しいと頼もうとした途端にあらわれたのはユータ。助けてくれようと……?

「とっとと、家にいれろ」

「……」

 カチンときた。命令されるのが一番嫌いなのだ。それと同時にこいつとは気が合わないということを瞬時に悟る。

「はあ?なんなの、あんた」

「ああ?こっちは寒いんだよ、とっとと家にいれろっつってるだけだろ、アホ!」

「なっ……」

 俺様なんて消えてしまえ!なんなのよ、こいつ!!

 黒髪にルビー色の瞳。白い肌。がたいもいいし。普通にイケメンだ。

 けど、性格無理だ……

「ほら、ユータン落ち着いてよ〜。莉音、入っちゃダメなの?」

 ユータの後ろから顔をのぞかせそういうソラに

「ダメ。親はまだ帰ってきてないけど……」

「なら、いいじゃねえか」

 そういって、ドアノブに手を伸ばすユータの前に立ちはだかる。

 弟がいる。たったそれだけなのだが、なぜか弟をこいつらに会わせたくなかった。というか、会わせてはいけない、そんな気がしたのだ。

「ここ来るときに通った公園にしようよ〜。莉音もそれならいいでしょ?」

 ソラが助け船をだしてくれたことに驚きながら、うん、とうなずく。

「じゃあ、行くか。おいユータはやくしろ」

「そーだよ、ユータンおいてくよ?」

 幼なじみ二人にそういわれて

「ああ?わかったよ、いきゃあいいんだろ!?」

とむすくれていうユータ。

 いつも、テレビで見ているのと変わらないノリに圧倒される。

 アイドルって実在したんだな……。






 ガヤガヤしながらついた夜の公園は、チカチカしてる街灯がところどろにあるだけですごく怖い。

「ふぁー、疲れた」

 怖いのなんて嘘みたいに強い声をだす。

「大丈夫か?怖いならちゃんといえよ。」

 そういうネクはお父さんのようでなんだかホッとしてしまう。

「全然平気!」

 元気にそう答えるが、そこであることに気付く。

 これって、深夜徘徊!?

 ……はやく、終わらせよう。


 ネクに声をかけてもらってからなんだか怖い気持ちもおさまったみたいだ。

 微かな春の夜風にギィギィと音をたてるブランコにかけていく。

「ふっ!」

 掛け声をかけてブランコに飛び乗る。

 危うく足をはずしかけたが、なんとかバランスをとる。

 ブランコとか久しぶり。

 立ちこぎって気持ちいいなあ⋯⋯

「おい、ネク、ほんとにアイツがあの方の⋯⋯」

 こちらを汚物でもみるような目で一瞥したユータがネクにたずねる。

 あの方って誰だし。

「ユータ」

 そう声を潜めていって首をふるネク。

 触れるな、といいたいらしい。

 ⋯⋯あの方ってほんと誰だよ!

「ふわあぁぁ。眠い⋯⋯。莉音ちゃん、落ちないでね。まあ、落ちてもぼくが受け止めるけどね」

 そういってウインクしたヨウはベンチに座る。他の三人もベンチに座ろうとしてる。

 話があるらしかったし、ブランコから降りたほうがいいだろうか。そう思ってブランコからおりる。

「試しに……まず、やってみっか」

「え?」

 ブランコからおりて、ほこりをはらっているとユータが近づいてくる。

「な、なにさ!やる気?」

 身の危険を感じてボクシングのポーズをとる。

 が……


 ビシャッ


 唐突に水をかけられる。相手が水ともなるとボクシングのポーズも完全に無意味だった。

「つめたっ!!」

 顔にかかった水がヒタヒタとたれてきて衣服がぬれてしまう。それだけは避けようと必死に顔をぬぐうが……

「なにすんのさ!」

「やっぱり……」

 そう納得したようにいうユータにイラッとする。なにがやっぱりなの?てか、なんで顔に水かけるかな。怒りで言葉がでない、とはまさにこのことだ。腹が立ちすぎて喋る気も失せる。



 先ほどまでは心地よく感じていた微かな春風も今は体温を奪うだけだ。

 さむ……ほんと最悪……


 そんな凍える私を見兼ねてソラがスッとジャケットをはおわせてくれる。

 優しい花のような香りが私を包む。

「ごめんね、莉音」

 そういって、困ったように笑うソラ。

 本来これをすべきなのは水をぶっかけてきたユータ君なんだけどね。そう思いながら、

「平気。ありがと」

と答える。

「でも、この行為に何の意味があったのか教えて」

 自分で思っていたよりも鋭い声がでる。

「君がこれを持ってないのかを確認したんだよ」

 そういって、ヨウが胸元から取り出したのは薄紫色の巻貝。

 なんだろう。なにか、すごく強い力を感じる。

「それはなに?」

「一言でいえば、人魚である証、だな。」

 そういって、こちらを真っ直ぐにみてくるネク。

「……それが私にあるかどうかの確認?……」

 私が?人魚か?人魚なわけないでしょっ!あんな貝だってみたことないしね、と心の中でつぶやく。

「とりあえず、話してやればいいんじゃね?」

 投げやりにそういって水の入っていたペットボトルを捨てに行くユータ。もう戻って来なければいいのに、なんて思っていると、ソラがそっと手を握って

「これからするお話し、受け止めきれなかったらいってね」

といってくる。

「はあ?……」

 まあ、おとぎ話が実は現実、な訳だしな。今でも、充分受け止めきれてないけど。それ以上に受け止められないことなんてあるのか……

「とりあえずベンチに座るぞ」

 その声にハッとしてソラから手を離す。

「エスコートしよっか?」

 気づくと隣にきていたヨウが腰に手を添えてくる。

「大丈夫です」

 このたった一mほどの距離にエスコートが必要といってくるとは……。私のことを老人か何かと勘違いしてないか。そう思いながらスタスタとベンチにいく。

これから、衝撃的な事実が自分を待ち受けているのなんて知りもせずにーー。







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