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連絡先

 九月中旬。

 夏が遠ざかり秋の足音が聞こてえきたこの時期。

 美味しいものからの誘惑や、少しずつその影が見え始めてきたクリスマスに心が弾むこの時。

 私はそのワクワクのままに髪の毛をきった。ちょうど腰のあたりまで伸びていて邪魔だったので肩のあたりまでバッサリと。

「あんた、髪の毛切ったんだ」

興味なさげにそういうともちゃんに

「そだよ〜」

と答える。

「これからどんどん寒くなってくのに、ご愁傷さま」

 出来ることならそこには触れて欲しくなかったけど正論なのでぐうの音も出ない。

「そういえば昨日HRNテレビでてたわね」

「そうそう!れん兄相変わらずかっこよかったよね!」

 興奮してそういうとジトーっとした冷たい目線を向けられる。

「そうね。リア充は楽しそうでなによりね。けど、それよりも」

 そういってから一つ間をおくとうっとりとした表情で

「あんたの弟、ほんと可愛いわ⋯⋯」

というともちゃん。

 可愛い?あいつが?⋯⋯。

 ともちゃんは前々から風雅のことを「可愛い可愛い」といって気に入っているけれど、私には風雅を可愛いという感覚がわからない。どこが可愛いというのだろう。

「可愛いってナギみたいなのじゃなくて?」

 そういうとともちゃんは呆れた様子で

「可愛いにも種類があるでしょうが。フウガきゅんの可愛さは元気でやんちゃな弟みたいな属性よ。母性をくすぐるようなタイプよねえ」

「そ、そっか〜」

 そういう私の顔はかなりひきつっているだろう。

 さっき、聞き間違いじゃなければ『フウガきゅん』って言った?⋯⋯

 しかもともちゃんに母性とかあるんですか?⋯⋯

 そんな悶々とした頭を抱えていると

「愛川呼ばれてんぞ〜」

とクラスの男子からお声がかかる。

「わかった」

 そういって戸口の方を見やれば、れん兄がいて優しげな微笑をこちらに向けていた。

 れん兄の姿を確認した途端若干のパニックに陥る私。

「ど、どうしよう!大丈夫かな、私」

 そういって髪の毛を手ぐしでとかす。

「は?別にいつもと変わんないんじゃない」

 そういうともちゃんに「だ、だよね!」というと戸口へ駆ける私。


「あ、あの、おはよう」

 ぎこちなくそういうと優しく微笑みかけ

「おはよう」

と言ってくれる。

 緊張したり慌てたりなんてしないれん兄に、れん兄は本当に私のことが好きなのだろうか?とたまに不思議に思う。第一、私一回フラれてるわけだしね。

「莉音、髪切った?可愛いね」

「え?⋯⋯うん!あ、ありがとう」

 そうぎこちなく返しながら胸の中のモヤモヤは少しずつ消えていく。

 大丈夫。

 れん兄も私と同じ気持ちでいてくれてる。きっと⋯⋯。

「それで、用って?」

「今日一緒に帰れないかなって」

 そういって優しく目を細めるれん兄に「帰れるよ」と元気よく返事をする。

「じゃっ」

「うん、じゃーね」

 去っていくれん兄の背中は付き合ってからも付き合う前もずっと遠いまま。

 どれだけ手を伸ばしても届かないようなところにいつもれん兄はいる。

 そんなれん兄を見てキャーキャーいう女の子達を見てると余計に遠い人なんだ、と実感させられ、自然と気分も暗くなってくる。

 やっぱり、私なんかじゃれん兄に釣り合わないよねえ······。

 気づいてたことだけど、改めて考えさせられると辛くなってきた。

 お菓子でも食べて元気だそう。

 そう思ってUターンして歩き出すとすぐに誰かにぶつかる。

 俯いて歩いてたから全然気づかなかった。

 慌てて

「ごめん」

という。が、返ってきた言葉は、

「しけた面」

だった。

「はっ?」

 とても謝罪に対する答えじゃない言葉に顔をあげれば、そこにはナギが立っていた。

「⋯⋯いつの間に?」

 朝はいなかったのに⋯⋯。

「さっき登校してきたんだよ。そしたら後ろの戸はリア充さんが占領してて入れなかったから、前から入ってきたの」

とどこか嫌味ったらしくいうナギ。

「⋯⋯あっそ」

「そうだよ。じゃーね」

 それだけいうと自分の席にいこうとするナギ。そんなナギの周りにはすぐに女子が集まる。

 ナギが自分の席についちゃうと近くにいけないからね(何故かというと、ナギくんは学校の裏番の隣の席だから。女子がぞろぞろと自分の近くに来たらともちゃんには絶対にキレるだろうし何をされるかわからない)


 女子に囲まれ優しい笑みを浮かべて話すナギを見ながら肩のあたりで切りそろえられた髪の毛を指に巻き付ける。


 れん兄は気づいてくれたのにナギは気づいてくれなかった。

 ⋯⋯まあ、あいつが気づこうが気づかまいがどうでもいいけどね。

 そんなことを思ってるくせに私はいつも無意識のうちにナギを見ている。今だって、きっと明日だって⋯⋯。

 そして何かが胸の奥に沸き起こりそうになる度に胸がこれ以上ないほどに痛み、サッと顔を背ける。その想いからも、ナギからも。

 大抵そんなとき頭の中に浮かぶのはれん兄の顔だ。

 私はつくづく汚い女だと思う。

 別に綺麗な女になりたいとも思わないけれど。




 〜昼休み〜

「はあ⋯⋯。眠いわね〜⋯⋯」

 そういって大きくあくびをすると窓の外を眺めるともちゃん。

「ほんとだね〜」

 なんて返しながらふとあることを思いつく。

「ねえねえ、今度ともちゃん家に行っていい?よくよく考えたらいつも遊ぶのってうちか外だしさ」

「はあ?うち?別に何も無いけど⋯⋯。それでもいいなら勝手に来なさいよ」

「えっ!?ほんとに!?やったー!」

 ともちゃんの両親はどちらもお偉いさん。確かお父さんが会社の社長さんでお母さんが会社の副社長なんだとか。

 絶対豪邸なんだろうし、私なんかが行っていいのか、という思いから今まで口に出していなかったけど、言ってみて良かった。

 それに、昔のともちゃんは親が大っ嫌いで家も大っ嫌いって感じだったからね。余計口になんてだせなかった。でも今は昔よりは幾分か関係も良くなったようだし。

 あ〜、今から楽しみだなあ、なんて思っているとメールの着信音がなる。

 見てみるとエロからのメールだった。

〈スズ姉が莉音ちゃんのメアド知りたいらしいんだけど教えても大丈夫?(・ω・*≡*・ω・)?〉

 その文面を見てすぐに

〈大丈夫だよ〉

と返信する。

「誰にメールしてるの?」

「うわあっ」

 私の肩越しにヒョイっと顔をだしたのはナギ。薄茶のくせっ毛が私の頬をくすぐるくらいに距離が近い。

「いきなり来ないでよ」

 そういってナギを押しのけるる。

 緊張なんかしてない。意識なんかしてない。⋯⋯よしっ、大丈夫。

「ああ、ヨウから?あんまり他の男と仲良くしてると彼氏さんが怒りだしちゃうよ」

「あんたも男でしょ。あんまり近寄らないでよね」

「僕は女顔で通ってるからいいんだよ」

「なにその屁理屈」

 なんて口喧嘩しているとともちゃんが誰かと電話しているのが視界の端にうつる。

 そのことはなんらおかしくなどないのだが、あのともちゃんが、満面の笑みを浮かべて話しているのだ。

 驚いてともちゃんを見つめる。

 一体誰と話てるんだろう。

「うん。フウくんもね。ふふ、そうなんだ。じゃあ」

「⋯⋯⋯⋯」

 あんぐりと口を開けて固まる私。

 フウくん?聞き覚えがあるような⋯⋯。

『フウガきゅん』そうともちゃんが言った時のことが蘇る。あの時の表情と今の表情はなんら変わりない。つまり⋯⋯

「ちょっと、人の話聞いてんの?」

 ごめん。衝撃が強すぎてなにも聞いてなかったよ。なんて心の中でナギに謝罪すると

「ともちゃん⋯⋯さっき電話してたの誰?」

 とたずねる。

「フウくんよ。あんたの弟の、ね」

「⋯⋯えっ!?なんで?⋯⋯」

「ヨウくんに教えもらったのよ」

「ヨウが?ほんとに?」

 私の記憶では風雅とヨウは電話番号を交換するほど仲が良さそうには見えなかったけれど⋯⋯。

「冗談よ。あんたから教えもらったの」

 考え込んでいた私にともちゃんが衝撃の発言をする。

「私⋯⋯教えましたっけ?⋯⋯」

「ちょっと拝借しただけよ」

 ケロッとしてそういうともちゃん。

 拝借って⋯⋯。なんちゅー⋯⋯。

「見して」

 ともちゃんに気を取られていた私の手から携帯をとりあげるナギ。

「ちょっ、勝手に⋯⋯」

「フウきゅん⋯⋯」

「ちょー、ともちゃんも」

「男の数は⋯⋯うん、まあこの数ならあのメガネが潰すだろうしね⋯⋯」

とかなんとか意味のわからない独り言をつぶやくナギ。

「ちょっと、ナギいい加減」

 そういって携帯をとろうと手を伸ばした時、ナギが急に膝から崩れ込む。

「ゔっ⋯⋯」

 苦しげに胸を抑え、携帯を落とすナギ。

「ちょっ、大丈夫」

 そういってナギの横に座り込もうとすると

「近寄るなっ」

 と鋭い声で言われる。

 思わず手を引っ込める私。

「はあ⋯⋯はあ⋯⋯」

 荒く息をしながらも立ち上がり、私の手に携帯を手渡すナギ。

「······ごめん、落としちゃって。······じゃあ」

 私が受け答えする暇もなくナギは教室を出ていってしまう。


 れん兄と付き合う前の私なら躊躇うことなくナギを追いかけられたのだろうか。


 強く唇を噛み締める。

 口の中に血の味が広がっていく。手のひらに置かれた携帯電話を見つめて、私はより強く唇を噛んだ。


 私はつくづく嫌な女だーー。





 〜ナギ〜

「くそっ⋯⋯くそっ⋯⋯」

 学校の屋上になんとか辿りつくと力も尽きて膝から崩れ込む。

 最近はメガネ⋯⋯連斗に協力していないせいでヤツを抑える薬も貰えていない。

 ヤツが自分の中で膨らんでいくようだ。

「あ〜、もう⋯⋯」

 胸をおさえて倒れ込んだ自分が、好きな人を大嫌いなやつにとられてしまった自分が、いつだって想いを封じ込めてる自分が、

「嫌いだ⋯⋯もう⋯⋯いやだ⋯⋯」

 消え入るようなその声は誰の耳にも届くことはなかった。

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