あなたと再び出会える奇跡
今回の婚約破棄は方向性がなんか違う気が・・・
ざまぁではない婚約破棄ははじめてかも?
ではどうぞ(  ̄ー ̄)ノ
「リーシャ!お前とは婚約破棄する!そして、俺は愛しいシャロンと結婚する!」
そう高らかに宣言したのはこの国の第2王子で、私の婚約者だったダグラス殿下。
彼の隣には彼が結婚したいと言った女性・・・確か男爵家の令嬢のシャロンがいて、王子の腕に抱きついていた。
場所は国王主催の夜会でのこと。
もちろん、周りの人間はこの出来事にざわざわと騒がしくなる。
そして、当事者である私・・・王子の婚約者である私は静かに王子を見つめた。
「殿下。本気なのですか?」
「もちろんだ!お前のような無表情で気味の悪い女とは結婚しない!俺はシャロンとともに歩む!」
「ダグラス様・・・」
甘い雰囲気をかもしだす二人から私は様子を伺っていた国王陛下に視線を向ける。
陛下は突然の事態に唖然としていたが、私の顔をみると大きく横に首をふった。
どうやら、聞いていなかったみたいだ。
隣の王妃様も顔を青くしている。
私は二人に視線を戻すと静かに頭を下げた。
「婚約破棄、確かに承りました。」
そう答えるとポカンとこちらを見つめる二人、そして、ガタンと音がするほどに勢いよく椅子から立ち上がった陛下がこちらをみて慌てたように声をかけた。
「ま、待ってくれ!リーシャ嬢!今のは・・・」
「いいえ、陛下。いかなる理由があろうとも約束は約束です。確かに殿下から婚約破棄の申し出がでて、私は受けました。なので・・・」
そこで私は本当に久しぶりに表情を和らげて陛下に言った。
「契約の通りに私を殺してください。」
その一言に会場は水をうったようように静かになる。
最初に起動したのは意外にも殿下だった。
彼は訝しげにこちらをみて聞いてくる。
「契約とはなんだ?しかも殺せだと?」
「殿下はご存じありませんでしたか。なら、この世を去る前に最後の遺言としてお話ししましょう。契約とは私と陛下が交わした殿下との婚約についてのものです。」
「それがどう、死につながる?まさかお前は俺と結婚できなければ死ぬなどと馬鹿げたことでも言ったのか?」
胡乱気にこちらを見つめる殿下。
私はそれにくすりと笑いながら否定する。
「少し違いますね。正確には陛下に『殿下と結婚して子を成すまで死なないでくれ』と乞われたのですよ。」
「何故だ?」
「殿下は私の素性はご存じですか?」
「フィロライン家の令嬢だろ?」
やはり殿下は知らなかったのだろう。
私はそれに頷いてから言葉を続ける。
「はい。ただ、それだけではありません。殿下は《勇者の聖女》をご存じですか?」
「誰でも知ってるだろう。魔王を倒したことで死んだ英雄たる勇者の伴侶で万人を癒せる凄まじき力をもつ女性だろ?それがどうした?」
「私がそれなんですよ。」
「・・・はぁ?」
「ですから、私がその《勇者の聖女》だったんですよ。」
「馬鹿なことを言うなよ。勇者が死んだのが俺たちが生まれる前・・・20年前の話だぞ?」
「もう、そんなに経つんですね・・・早いものです。」
しみじみと言った私に苛立ったのか殿下はなおも私に何かを言おうと口を開こうとして、先んじて私が言葉を続ける。
「私は勇者が魔王を倒した時に魔王と・・・勇者の血を浴びてしまいました。その影響から体が不老となり老いることはなくなりました。ちなみに実年齢は38歳です。」
「そんな馬鹿な・・・」
「陛下と王妃様はご存じですよね?何しろ二人とは同級生だったのですから。」
その言葉に黙っていた陛下と王妃様は頷いた。
「ダグラス。彼女話は本当だ・・・」
「ち、父上?」
「私たちの世代のものなら皆が知っている。特にアリシア・・・お前とは仲良しだったな。」
「ええ・・・」
「は、母上・・・?」
「ダグラス。本当なのよ・・・リーシャは私と同い年で彼の・・・勇者の妻だったのよ。」
実の父と母からのカミングアウトに王子は凍り付く。
今まで年頃が近いと思っていた婚約者がいきなり親と同い年なんて聞けばそうなるだろう。
「リーシャ様ってそんなにおばさんなの!?」
「ちょっ・・・シャロン!?」
思わず叫んでしまったシャロンを殿下は慌てて抑えようとする。
そんな二人に私は構わず続ける。
「おばさんか・・・その通りね。まあ、そんな訳で私は特殊な体質をしています。一人で、魔王、勇者、そして自分の力が合わさった私の血筋は王家としては絶やしたくなかったのですよ。ただ、私は本当なら今生きてるつもりはありませんでした。」
「それは一体・・・」
「決まってますよ。夫が・・・勇者がいないこの世に価値なんてありませんから。だから本当なら全てが終わってから死ぬつもりでした。ですが、陛下がそれを許してはくれなかった。だから仕方なく陛下と契約を結びました。」
「それじゃあ、あなたは・・・」
「ええ、婚約破棄されたので私はようやくこの世を去れます。その点に関しては殿下と・・・そこの男爵令嬢には感謝してますよ。」
「わ、私?」
いきなり名指しされたシャロンは困惑したような表情を浮かべていた。
「ええ。契約とはいえ、私は夫以外の男に抱かれるのも、子をなすのも、妻にされるのも本当は嫌でした。子供さえ作ればいいとは陛下は言いましたが、嫌で嫌でたまりませんでした。本当に契約の条件で“婚約破棄された場合は契約を終了する”というものがあってよかったです。だから二人にはお礼を言います。ありがとうございます。」
「リーシャ・・・」
「リーシャ様・・・あなたは・・・」
「あと、陛下と王妃様・・・いえ、マーク、アリシア。今までありがとう。王家としての言葉も本当だろうけど、あなたたちが精一杯私が生きるための理由を探してくれていたこと知ってたのよ?」
「それは・・・!」
「でも、ごめんなさいね。私はやっぱりダメだった。新しく人を好きにもなれないし、私にとってあの人は特別すぎた。大切なんて言葉じゃ語れない・・・私にとって唯一だった。」
「リーシャ・・・」
「アリシア。あなたはいつも後悔してくれていたわね?夫を・・・彼を巻き込んでしまったことを。私を一人にしてしまったことを。でも、もう大丈夫なのよ。あれはあなたたちは悪くない。何が悪かったって・・・きっとなるべくしてなってしまったの。だからアリシア。私の親友。あなたは前を向いて生きて。私は死んでもあなたの親友なのは変わらないから。」
「りー・・しゃ・・・わ、わたしは・・・」
「泣かないでアリシア。あなたは笑顔が似合うわ。それに王妃たるあなたが簡単に涙をみせてはダメよ?いい女は涙を隠してなんぼよ?」
そう冗談めかして言うとアリシアは涙ながらに私に微笑んでくれた。
次に私は陛下を・・・マークをみた。
「マーク。私の親友の夫。あなたもありがとう。あなたの親友だった夫の死に誰よりも心を痛めていながらも必死に国のために頑張っていた。私に生きるための理由をくれようとした。」
「リーシャ・・・俺は・・・」
「マーク。謝るのだけは許さない。それはあなたが夫を侮辱することと同じよ。みんなを守って死んだ夫のことを思うなら・・・家族とともに幸せになりなさい。あと、アリシアを泣かしたら化けて出るから。」
「当然だ・・・俺は王だぞ?」
「そうね。愚問だったかしら陛下?」
「ああ・・・今までありがとう。リーシャ。」
「こちらこそ。マーク。」
最後に私は残った二人を・・・ダグラス殿下とシャロンをみた。
「あなたたちにも迷惑をかけたわね。仲良く生きていきなさい。殿下。決してその子の手を離しちゃいけませんよ?どんな理由であろうと誓ったら最後までやり遂げなくては王にはなれません。シャロンさん。あなたも王妃を望むなら覚悟しなさい。貴族は面倒なことや嫌なことばかりだから・・・でも絶対彼の手を離しちゃダメよ。」
「はい・・・・リーシャ様・・・」
「無論だ・・・」
「そう。よかった。それから会えたら私の家族にも伝えておいてくれる?『リーシャは彼のもとにようやく行けました』と。お願いね。」
私は陛下と王妃様の目の前まで移動してまず王妃様に抱きついた。
「アリシア・・・大好きよ、私の親友。元気でね。」
「リーシャ・・・リーシャ・・・私も・・・大好きよ・・・リーシャ・・・」
「ありがとう。アリシア。」
涙を拭って私は陛下の前にひざまずく。
「陛下。約束通りに、あなたが持つその夫の剣で私の首を切ってください。死体は残りませんので問題ありません。」
「・・・わかっておる。」
そう言って腰にさしていた夫の形見たる剣を鞘から抜いた陛下。
彼は震える手を抑えようと必死に剣を握りしめた。
「いつもの強気な陛下らしくないですよ?」
「当たり前だ・・・友の妻を・・・私の友を斬ろうとしているんだぞ?」
震える声には彼の心が詰まっていた。
今まで国王として必死に抑えてきた感情・・・長らくみていなかった素の臆病な彼がそこにはいた。
だから私は笑って・・・最後に彼に笑顔で言った。
「ありがとう。あなたも友と呼んでくれて。マーク。夫と私の友・・・あなたに斬られると思うと幸せよ。」
「リーシャ・・・ありがとう。」
「さあ、話は終わり。アリシア、マーク。頑張るのよ?」
「リーシャ・・・ありがとう・・・」
「ああ・・・さよならだ。リーシャ。」
そうして、マークは剣を大きく横に薙ぎ・・・私の首を一閃した。
私は最後に笑みを浮かべて呟いた。
ーーーさようなら。友よ。ーーー
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
その光景は神秘的だった。
俺、マークはリーシャの最後の望みを叶えるために彼女を・・・友を切った。
すると、彼女の体は輝きを放って霧散した。
後には光の結晶が降りしきるような光景が広がり、傍観していたものたちもその光景に目を奪われる。
「マーク!あれ!」
隣で涙を流しながらその光景をみていたアリシアに促されそちらをみた。
「・・・・!」
「笑ってるわ・・・幸せそうに・・・」
そこには幻覚なのかなんなのかはわからないが確かにリーシャと・・・友の勇者であり彼女の夫のジークが並んでこちらを笑顔でみつめていた。
二人は俺とアリシアに笑顔で言った。
ーーーマーク!頑張れよ!親友!ーーー
ーーーアリシア。私の親友。幸せにね。ーーー
「ああ・・・もちろんだ!親友よ・・・」
「リーシャ・・・もちろんよ。あなたも幸せにね・・・」
そう二人で答えると次の瞬間には二人の姿は消えていた。
会場の者はみんな一様に無言だった。
「父上。」
そんな空気のなかで、息子・・・ダグラスとシャロンとかいう令嬢がこちらにやってきた。
「すみません。父上。俺のせいで彼女は・・・」
「いえ!私の・・・私のせいでリーシャ様は・・・」
「謝るな。私たちにも責はある。それに悔やむならお前は俺を凌ぐ立派な王になれ。」
悔やむような二人に俺はしっかりと言ってやる。
「そうよ。あなた・・・シャロンだったかしら?あなたは本当に王妃になる覚悟はあるの?」
「はい!どんなことがあっても彼の・・・ダグラス様の側にいます。」
「ダグラス。お前も王になる覚悟はあるのか?」
「はい。私は父上を超えた王になります。」
二人の瞳には先程の軽いものではなく、真剣な力強い色が浮かんでいた。
そんな二人をみて、俺とアリシアは頷きあって言った。
「これまで同様に甘くはいかないぞ?潰れるなよ?」
「私があなたを立派な王妃にします。何があっても成し遂げてくださいね?」
「「はい!」」
力強い返事をくれた二人をみて、俺は心から彼らに感謝をする。
ーーーありがとう。ジーク、リーシャ。お前たちのお陰で前に進めるーーー
俺はアリシアと手を繋いで微笑んだ。
後に、ダグラスとシャロンは俺とアリシアを越えるほどのよき王、よき王妃になったようだ。
そんな二人を誇らしく思いながら俺とアリシアは二人の元へ旅立った。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
『ここは・・・・・』
『やっと起きたのか?遅い目覚めだな。親友!』
『ジーク?俺は・・・そうか、お前と同じところに来れたか。』
『まあな。リーシャもいるぞ?』
『大声を出さないでよ。アリシアが起きるでしょ?』
『リーシャ?アリシアもいるのか・・・』
『ああ、久しぶりに4人で揃ったな。まあ、あの世でだけど・・・』
『しかし、ジーク。お前は変わってないな。安心したぞ。』
『そうだな。お前は・・・姿は若いけどオヤジっぽくなったな。』
『うるそいぞ。馬鹿者。』
『うん・・・ここは・・・』
『目が覚めた?アリシア。』
『リーシャ?本物?』
『ええ。あなたの親友のリーシャよ。』
『リーシャ・・・リーシャ!』
『きゃっ・・・いきなり抱きつかないでよ。もう・・・』
『うふふ・・・リーシャの匂いだ・・・くんくん・・・』
『おいこら!俺のリーシャだぞ!』
『何よ!あんたもいたのジーク?』
『俺もいるぞ。』
『あらマーク。みんな一緒なのね。』
『ええ。久しぶりにね。』
『そう・・・懐かしいわね。』
『とりあえず、時間はまだたっぷりある。色々聞かせてくれよな?』
『ああ。そうだな。リーシャはどこまでジークに話したんだ?』
『あんまり話してないわよ。マークの楽しみを残しておいたわ。』
『まあ、ずっとイチャイチャしてたからな。』
『じゃあ、私もリーシャとイチャイチャする~。』
『ふふふ・・・ええ。しましょうか。』
『じゃあ、こっちは男同士でどうだ?』
『どうだじゃない。俺にはそんな趣味はない。』
『わーてるよ。固いな相変わらず。まあ、とりあえずお前の話を聞かせてくれよ。』
『ああ。そうだな。まずは・・・』
何もない真っ白な空間で4人は仲良く過ごす。
失っていた時間などなかったかのように楽しく。
彼らの魂はいつだってきっと・・・
お読みいただきありがとうございます。
考えてみると、作者の作品でこういう微妙なハッピーエンドかバットエンドか区別しにくい作品は書いたことないかも・・・
最初はリーシャオンリー視点のつもりが、親友のアリシアとマークにもいて欲しくてつい・・・
王子とヒロインっぽい子はある種空気の扱いになりましたが、二人は最初は軽い気持ちが、リーシャの覚悟やら親たちの態度・・・あと、最後の自分たちのせいの別れで決心して立派な王になったようです。
みんないい人なんですが・・・強いて言えば運が悪かったとしか言えませんね。
リーシャは親友二人は大切だけど、彼女にとって一番はジークの側にいること。
だから彼女には最初から生きる選択肢はなかったのです。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
ではではm(__)m