「これはもう、割るウイスキー側への冒涜なのでは……?!」
酒は飲んでも呑まれるな。
このお話の主人公・雑葉大は、酒を飲むと大抵碌なことにならないというジンクスを抱えています。
散々引っ張っておいて今更ながらに掲載された今回は、なんというか、そんなおはなし。
「ねぇ、ねぇ。これでもう十七回目だよ? どうせモノにならないんならさ、ちょっとくらい休憩したらー?」
「だからって、放っといて良くなる物でも無いだろう。他に選択肢はない」
仮面の下で荒い呼気を漏らしながら、血塗れのガーディアン・ストライカーが起ち上がる。その脚は稲妻を絵に描いたような歪さで、少し身体を振らすだけでぺきぼきと音が響く。
ひょんなことから彼と『一蓮托生』になった女子高生、神永茉莉花は即席の携帯座椅子に腰掛け、薄ら笑いを浮かべ彼の『特訓』を見守っている。
能力を他から奪えたとして、それが自在に扱えるかどうかはまた別の話。
伝説の九人なる『マッハバロン』から"超加速"を奪い取ったストライカーだったが、死闘から一週間経ってなお、それを己が血肉と変えられずにいる。
またも力を振り絞り、一息に駆け出すストライカー。直線コースは問題ないが、少しでも傾け、曲がろうとすれば途端に転倒。加重をもろに喰い、地面を擦って周囲の建物と口付けを交わす。
腕なら使わなければ済むが、脚がこの調子では戦闘どころか退却すらも侭ならぬ。まるで死したマッハバロンが、生者たる自分に枷を嵌めているかのよう。
「文句を言うなら手伝ってくれよ。お父さんからコツか何か、聞いていないのか」
「パパ」あっけらかんとしていた茉莉花の顔が暗く淀む。
「そのパパを殺したのはあなたでしょ。なのに教えを請おうとか、都合良すぎなんじゃない?」
「確かに……な」
彼女が『父』に抱く感情は複雑だ。自身の人生を縛る枷であり、同時にその愛を一心に受けた一人娘。それを、殺した張本人に指摘され、憤慨しない筈がない。
「解ったよ。自分で何とかする。君はそこで黙って見てろ」
やはり練習あるのみか。ストライカーはヘルメットの奥で血を吐いて、再び加速の態勢を取った。
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※ ※ ※
「ええと。次は……オギクボさんだったわね。居室担当の如月さん、何か直近の懸案はある?」
「嚥下は良好。抜歯と共に食事形態を変えたのが上手く行ってるみたいです。
ただ、マヒ側の右手の硬縮が酷くなってきてますね。脇を締めたまま殆ど動きません。接触部の皮膚めくれや汚れの溜まりが心配です」
「車椅子上で動かないものね。取り急ぎでタオルかクッション保護。就寝時の体位も見ておくべきかしら。じゃあ次はイワマさん。担当は……」
職員みんなが円卓を囲み、真剣な顔付きで利用者の近況や問題点を洗い出す。月イチ行事のフロア会議。休日の者も涙を呑んでそれを返上し、一時間半強の会合の為だけに職場に赴く。
残念ながら、今回その『贄』となったのがこのおれ。しかも後々職員全員で共有する『議事録』を作る書記官の役目まで押し付けられてしまった。
来たくはないが、次の日からこの会議を基準に介護の方針転換が成されることもざらだ。後で困るのは己のみ。となれば出向かない理由は無い。
「大ざっぱ! ざっぱってば。ぼけーっとしない!!」
「え……」うるさいな。こちとらそちらさんの会話転写するので精一杯なんだっつーの。了解も無しに次から次へと、書き手の辛さも解っておくれよ。
「あぁ、はいはい。イワマさん……でしたよね」
各居室の担当者が近況と問題点を述べ、皆に意見を求め、改善案があるなら看護師やケア・マネージャーの了解を得て変更――。流れとしてはまあ、そんなところだ。
「先月の転倒で大腿骨を骨折し、車椅子での移動に変わってから、またちょっと帰宅願望が強くなってます。夜間帯もあまり眠れていないようですし、夕食後ないし、就寝前の睡眠導入剤をもう少し強くすることは出来ませんか」
「なんでもかんでも、薬に頼りすぎるのは良くないわ」飯田フロアリーダーはおれの言葉を聴き、苦々しげな表情を浮かべて応える。「あなただって解っているでしょ。就寝薬は強力なものにすればする程」
「『身体に残る』、でしょう?」
寝付きを良くする睡眠導入剤も、グレードが上がって度が過ぎると、薬効ばかりが蓄積され、朝の起床介助に支障が出る。それどころかクスリがもたらす気怠さは日が高くなってなお残り、当人から活気を奪うことにも繋がってしまう。
「まあでも、皆の労苦もわからなくはない。看護師さんに頓服で薬を調整してもらいましょう。今は、取り敢えずそれで構わないわね?」
皆、一様に了承の頷き。妥当な判断だ。現時点で、他にしてやれることはない。
(納得は出来ても、歯切れは悪いよのなあ)
話された話題をメモにまとめながら、イワマさんの病状に顧みて溜息を一つ。何か出来ればと口ではみんな言うけれど、負担が増え、他に割ける時間が減り、一に残業二に残業となると、誰もが二の足を踏んでしまう。
こんな調子じゃ、する側もされる側も良い気がしないだろうに。ままならぬ問題を前にして、うんざりと溜息をひとつ。
「何か、気晴らしでもあればなあ」
などと、無い物ねだりで独り言ちる。一応下書きは出来上がったし、後は明日の出勤時に纏めるか。
そう思い、鞄に手を入れ、携帯端末を探ると、通話アプリにメッセージ受信の通知。
(菜々緒……?)ガーディアン・ストライカーの締め切りはまだ先だってのに何なんだ。タイムラインを下に送り、新規受信に目を通す。
“ホンの方で話がある。今日の六時、指定した飲み屋に来てくれないかしら”
「呑み……」
図らずも、現実逃避の羽根伸ばしのチャンス・到来。
※ ※ ※
家から最寄り駅までバスに乗り、そこから道なり徒歩十分。桐乃菜々緒の指定した小料理屋件居酒屋『雅』は、なんともまあ、絶妙に遠い位置にあった。
「いきなり呼び立ててごめんなさいね。あちらの都合で『近い』ここを指定したものだから」
「それ、本当に申し訳無いって思ってんすか」こっちの都合はガン無視で、あちらさんの為ってとこがナナちんらしい。
「で。なんで酒場に呼び付けたんです」
アイツがただおれを呼ぶのなら、うちに程近い喫茶店を指定する筈。だのに何故居酒屋だ。これから逢う相手は相当な酒豪か。
「うん、まあ……。ちょっとね」菜々緒はばつが悪そうに間を取ると。「お酒が無いと、『喋れない』タイプなのよ」
「『喋れない』」
妙に歯切れの悪い返答だな。というか、おれは別にヒトの属性を聞いた覚えはない。
「なんか論点がズレてません? 結局誰なんです。これから逢う何某ってのは」
「あんたのラノベの挿絵担当さまよ。ヒロインについて、直接話がしたいんだって」
「はぁ。挿絵……って、えぇ!?」
ガーディアン・ストライカーは紙媒体に綴られ、主役の力強いイラストを表紙とするライトノベルだ。それを描く絵師がいるのは当たり前。
むしろ、書き手たるおれがこれまで接点が持たなかったこと自体おかしい。
水鏡ギギ。このガーディアン・ストライカーを仕事と選び、力強いヒーローたちの挿絵で話を彩る功労者。一体、どんな人物なのか――。
「これまで、何も言わずに絵を描いて送り付けてたあのヒトが、なんで今更」
「連絡は取ってたわよ。今まで私が箇所を指定して発注掛けてたわけだし。こっちで完結してたから、あなたにまで話が行かなかったってだけ」
「成る程……」いやいや、待て待て。こんな馬鹿な話があるか。
「なんで挿絵の話がタントーと絵師との間で完結してるんだよ! 肝心の原作者が蔑ろになってんのォ!?」
「原作、だなんて生意気な」菜々緒は悪びれることなく、涼しい顔で切り返す。「それに、これは茉莉が頼んでいたことよ。外部との交渉事は私に任せる。『あたしが書いて、あなたが売り込む』、適材適所だ、って」
「ウッソだろお前……。だって挿絵だよ!? 書いている当人が、キャラデザをマルナゲってあり得ないでしょ」
「いつだかと、立場が逆ね」言って、お冷に手を付ける彼女の顔は真剣そのもの。「本人が『いない』から示しようがないけれど、この取り決めに嘘はない。それだけは、ホントのことよ」
「うむむ」真面目な顔でそう返されてはぐうの音も出ない。しかし、それが本当だとして、マツリは何故そんなことをしようと思ったのか。
まるで、おれにスムーズに後を継がせられるよう、取り計らったみたい――。
(いや、いや。そんなワケあるか)連載中途ならまだしも、その興りからレールが敷かれているなんておかしいぞ。
もういい、よそう。居ない相手の考えを邪推したって、何の解決にもなりゃしない。
「あっ、来たわね。ここよー。ここ・ここ」
そうこうしているうちに、ナナちんの顔が呑み屋の入り口の方へと向いた。件の絵描きのお出ましか。
あれだけ男くさく、ストライカーや敵役たちの描き込みに拘るヤツだ。果たして如何な強面か。拝んでおいて損はない。
「あ、ア、あ……」
そう思い、身構えたおれの目に飛び込んで来たのは、肩口までで切り揃えられた薄茶の髪に、大きな楕円の黒縁眼鏡。
胸の膨らみを嫌というほど強調する灰色のリブ生地セーターに、黒い無地のロングスカート。伏し目がちにこちらを見やる、恐ろしく気弱そうな女の姿だった。
「ギギ。コイツが前々から言ってたガーストの書き手よ。ほら、挨拶・挨拶」
「あう、う……」
席に着くなり菜々緒に促され、歯の根を鳴らしてこの調子。守ってあげたい、というより――。ただただ、不安だ。
「水鏡・偽義……。イラストレーター、やっ、てます。はい」
「は、はあ」
何と言うか、物凄く言葉の歯切れが悪い。いっそ気持ち良いくらいにコミュ障だ。これで常人の生活が送れるのか、疑問ばかりが沸いてくる。
「というかナナちん。いいのかよ? 絵師さんにおれ紹介しちゃって」
「心配御無用。マツリが戻って来たら、こいつは夢野美杉を語るニセモノだって答えるから」
「あっ、そ……」
こっちはこっちで抜かりない。これまで向こうに顔を見せなかったがゆえの荒業か。
「はい、はい。挨拶したなら次は注文。ほら、選んで選んでー」
「なんでそう急かすかね……」
このままじゃ間が持たないって意味じゃ正解だが、流石にちょっと忙しすぎやしないか。
促され、ドリンクの頁を追い掛けるおれの目に、『スマック・ハイボール』という末恐ろしい字面が飛び込んで来た。
「な、に、い……!」
あのただひたすらに甘ったるいご当地飲料を、上等なウイスキーと交わらようというのか? なんという悪魔的所業。お酒の風味はどうなんだ? そもそも、ハイボールとして成立させてよい代物なのか!?
「じゃあ、私は生……」
「スマックハイボール!!」
意図せずして菜々緒と声が被った。おれの中のボウケン心が囁くのだ。『取りあえず生』の不文律を破ってでも、この歪な飲み物を注文せよと。
「ちょっとそれ……冗談でしょう?」
「冗談なものか。見付けたからには呑まずには帰れん」
ドン引き顔に冷ややかな声で否定されると流石に堪える。いいじゃんスマック。この街の数少ない御当地モノだぜ。万人受けはまあ、期待できないだろうけど。
「まあ、いいわ……」付き合い切れないと会話を切られ、菜々緒の顔はギギなる女性の方に向く。
「あなたは……」
「あ。店員さーん。『知多』のストレートでお願いします。ええ、注文は以上で」
視線がそっちに集まった瞬間これだよ。話題がおれたちの中で完結してたからしようがないけど、その隙に一杯注文するって無駄に豪胆だな。
というか、一発目がウイスキーのストレート!? おいおい、幾ら何でも早すぎやしないか……?
「ひぁっ!? ご、ごご、めんなさい。聞かれちゃったので、つい」
「いや、謝られる程のことじゃあ」
「貴女を置き去りに口論を始めた私達にも責任があるしね」
タイミングを見計らえず、自分のペースで物事を進めてしまう。成る程、結構なレベルのコミュ障だ。まあ。絵師の人柄と産み出す画は一致しないとはいうけれど……。
「さっ、みんな集まったわね。それじゃあ、乾ぁ杯!!」
「かんぱーい」
「か、かんぱ……」
優柔不断と生意気なおれの手引をし、ナナちんの無駄に甲高い声が店内に響く。
はてさて、ウイスキーの琥珀をスマックの白濁色が侵食するかのハイボール。お味は一体、如何なものか。
「う、ぉ、お……っ!」
凄ェ……。スマックの甘みをウイスキーの風味が滲ませて、ウイスキーの渋みがスマックの風味でぐしゃぐしゃに澱んでやがる。
まじで? まじでこれメニューにいれていいの? やばくない? 流石にちょっと、ヤバくない!?
「で、どうなの? 美味いの」
「互いが互いの良さを殺し合ってる……」
「でしょうね」
だが、それでも呑まずにゃいられない。恐るべきはこのミルキー炭酸飲料か。どっちの良さをも掻き消し合うこのえぐ味が、何故だかどうして、癖になる。
グラスに注がれた半分程で酔いが回り、それまで溜まってたもやもやが消えてゆく。視界明瞭、アタマもばっちり冴えてきた。珍妙な組み合わせだが、意外に凄いぞスマックハイボール。
さてさて、それではもう半分を……。
「すみませーん。『菊正宗』の熱燗、お願いしまぁーす」
「えっ」
何処へ出しても恥ずかしい赤ら顔で、リブ生地の上から乳を揺らし、空のグラスを掲げて注文を飛ばすギギなる女。
というかアツカン? 手にしたグラスもウイスキーのとは違うし……、既にもう三杯目!? いやいやいや、どこまで呑むんだよ!
「ぷっ、はー! 濃厚な辛みが口の中でとろけて、五臓六腑に沁・み・渡・るぅうううう」
出会い頭の人見知りは何処へやら。酒はヒトを変えるというが、あそこまで極端なのは正直どうよ。
「善し。大分『あったまって』きたし、そろそろ本題に入りましょうか」
そこへ来てこの編集者さまは、咎めるどころか書類を探って話を進めに掛かってる。なんだこれは、マトモなのはおれだけか?!
「それじゃ、頼んでいたヒロインのラフを」
「ふぁい! これこれ、これでっす!」
オーバーな手振りと、タガの外れた素っ頓狂な声。菜々緒さん、これが『ハナシの出来る状態』だと言うのですか。とてもそうとは思えない。
「頼まれていた『神永茉莉花』ちゃん。私の独断でざーっと描いてしまいましたが、如何でしょーかっ。
髪色はそのままだと地味だったので、マッハバロンと同じものでグラデをほんのり掛けて波打つように。学生服って事以外あまり仔細がなかったし、後はほぼほぼ此方の趣味でやらせていただきましたァん」
「おいおい……マジかよ」
渡されたクロッキー・ノートには、『準備稿』と前置かれた立ち絵と表情幾つかが所狭しと並ぶ。
どれもこれも、イメージソースとなったマツリを漫画的にディフォルメしたものだ。登場して間もない、情報も少ない現時点で、ここまで書き手の意を汲んで描けるものなのか。
どうせみんな酔ってるんだ、少しくらい……。神妙な顔でイラストを眺める菜々緒に手招きし、彼女にそっと耳打ちをする。
「あの、菜々緒さん。このヒト、本当に初対面?」
「信じられないのも無理ないわね」画を見つめるその顔は、心なしか苦々しげだ。予想外なのはお互い様か。「彼女はプロよ。試してみる?」
菜々緒は再度ギギの方を向き、ちょいちょいと手招くと。
「ギギ。文字書きさまが貴女のウデをご所望よ」
「ははーっ。お安い御用ですジョウオウサマ」
言われるが早いか、ギギは熱燗からペンに持ち替え、ノートに幾重もの線を走らせる。筆さばきに迷いがない。引いては消して、間違いを継ぎ足しで誤魔化すおれとプロとの差なのか。
「はい、ジャスト・ワンミニッツ。出来上がりっ、と」
そうこうしているうちに、菜々緒を介し、彼女が仕上げたノートが送られて来た。
今まさに飛び蹴りを放たんとする、躍動感溢れたストライカーを、力強いタッチで描いたイラストがそこにあった。
「お、おぉ、おお……!」
「どう? これで納得出来た?」
いつも着色済みの完成版を見てはいたが、やはりナマは迫力が違う。おれは、否マツリは。こんなヒトに支えられていたのか……!
「あんなとぼけた設定のキャラが、こんなに格好良く描かれるなんてサイコーだ。しかもこれ、アレでしょ!? 『オーゼット』が放つ必殺キックの予備動作! ネタのチョイスがまた渋いなぁッ」
「おぉ。流石ユメノさま。お目が高い〜」これまでずっとナナちんとしか話をしなかった彼女が、喜色の目をおれに向ける。
「そーなんですよ。巷じゃ仰け反り過ぎてダサいダサいって言われてますけど、接触と同時にもう片足でトドメを叩き込む姿がシビレますよねぇ!」
「何だよ、何だよおいおいおい! キミめちゃくちゃ解ってるじゃない!!」
オーゼットとは、現在の子供向け特撮番組シリーズの前身となった劇場版単独作だ。これ一本で打ち切られ、永きに渡って客演に恵まれることなく不遇をかこって来たが、『冬の時代』を経験したおれたちの世代には、話に尾ひれが付いて神格化される程の傑作である。
「そりゃあモチのロン。あの頃の特撮は七十年代からの古参と、八十年代のリバイバルブームを経た連中にクソミソに言われて肩身の狭かった時代。今こそ! そう、今だからこそ! ワタシは言いたい!! 九十年代はリメイク・リブートに媚びたワケじゃない! あの時代の子どもの為に、いい歳したオトナたちが心血を注いで造った珠玉の作品群であったと!!!!」
「そう! それだよギギっち! そうなんだよ!! おぉし生もう一杯追加! も少し話を聞かせてもらおーじゃないの」
「HEY! オトモしますよユメノさま!!」
話の分かる異性との会食で、酒が進まぬ訳がない。向こうは五本。こっちは三本。目につくままに酒を注文し、無駄に敷居の高い特撮談義に花を咲かす。
あれ? そういえば、おれは今日、何故ここに来たんだっけ……?
「ああ、なんで、こんなことに……」
※ ※ ※
「では、本日はこの辺で。ユメノさまも、菜々緒さんも帰り道、お気を付けてッ」
「え、ええ……」
「ふぁいよ~。ギギちゃんこそ、暗い小道に入らないようになー」
浴びるように酒を飲みつつ早二時間。気の利かない菜々緒が無理矢理に話を切り、かの会合は知り切れトンボでお開きとなった。
イチ呑みで総勢七本は自己最高新記録タイ。ナナちんの手を借りず、なんとか自分の足で歩けるのは、ひとえに楽しい話題が悪酔いを打ち消してくれたが為。
「なのにあんたって人は。あんたって人はァあ」
「酒臭ッ。アンタほんと酒臭ッ……。そんな状況でちゃんと帰れるの?」
「おれに不可能はないッ。お前が望みさえすれば、あの送電鉄塔だって、駆け足で登り切って見せるぅぅう」
「……タクシー呼ぶからそこで待ってなさい」
やばいな……。やべえなこれ。もしかすると、もしかするかも。
何がって、あれだよ。なんというか、こう……。
我 が 世 の 春 が 来たァアアアアアアアアアアアッ!!
おれの元に来ッ、たあああああああああっ!!!!
い、やっ、ふぉおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!!!