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ゴースト・ライト  作者: イマジンカイザー
ガーディアン・ストライカー第三十六話・激突!白熱! 強敵ファンタマズル!
14/30

後篇

「成る程、ね。つまり、カレがこの世界に於ける『まほうのペン』の継承者ってワケ」

「どうやらそうらしい。ガーディアン共の居ないセカイ。皆、平和ボケした顔をしている」


 敵の追跡を振り切り、片田舎の山道で足を止めたストライカー一行は、自身らに起こった怪異の謎を整理する。

 此処は自分たちの元いた世界ではない。一般市民の生活を脅かすヒーロー崩れ(ガーディアン)は存在せず、ヒトがヒトを搾取して生きる社会。


 本来交わることのない二つを繋いだのが、鈍い銀色に輝く葉巻型のこのペンだ。紙に書いたことが実体化するこのチカラに依って、元々活字の固まり、色鮮やかな濃淡の集合体が此の世に召喚されることと成ったのである。


「あ、あのう」

 主役とヒロインが事態を把握して頷く中、会話にあぶれたその作者は、申し訳なさそうに手を挙げる。

「それで、ぼくはこの先一体どうしたら」

「ここで今更それを訊くのか」己が創造した主人公は、呆れたように溜息を一つ。

「俺たちをここに喚び出した以上、事態収拾の為に動いてもらう」

「いや、そう言われましても、その、締め切りぃ……」

「作家さんは良いわよね、締め切りさえ護ればおカネが出るんだから」己が想像したヒロインは、明らかに軽蔑した眼差しでこちらを睨む。

「こっちは今、生きるか死ぬかの瀬戸際なの。その平凡な生活を守って欲しけりゃ協力しなさい」

「ご、ゴメンナサイ」


 締切まで後一週間。書き出しから一文字も動かず、此方も結構な修羅場なのだけど――。とは言い出せない雰囲気。

 作家は落胆に肩を落とし、茉莉花をちらと視た上で、手帳を開いて新たに文字を書き加える。


「え、何この、何」

 瞬間、光の粒子がジャンパーの形を取って結実し、ひとりでに茉莉花の袖へと通ってゆく。ほんの少し丈が長く、捲くらないと手が出ない。

 更にその上、桃色のマフラーのおまけ付き。ひとりでに、丁度よい具合に巻き付いてゆく。

「ほら、この時期、肩出しの衣装は寒いでしょ。勝手に衣装書き換えちゃったし」

 肌寒そうなヒロインにジャンパーを。自身の趣味丸出しで喚び出したことへの、ささやかな謝罪の意。

 茉莉花は羽織ったジャンパーをぎゅっと掴んで俯くと、「ありがと。それにごめん。ちょっと言い過ぎた」



「あの。一つ、考えがあるのですが」

 茉莉花の謝辞に会釈で答えた後、作家はおずおずと手を挙げる。

「こうしたことが可能なら、いっそのこと、直接ファンタマズルを消してしまえば良いのでは?」

 詳細を記すことで物にカタチを与えられるのなら、描写に二重線を引くなり、事由を描き込み自殺に追い込むことだって出来る筈。我ながら冴えた考えだ。


「それが出来たら苦労はしない」

 しかしストライカーは、そんな作家の提案をにべもなく切り捨てる。「いいか、物事には筋立てってものがある。小説家であるキミに、その重要性を説く必要は無いな。俺や茉莉花、あいつだって一緒さ」

 元は文字列の連なりがカタチを成した存在だ。順逆を違えるのは此の世の理に反する。

 けれど、エントロピーを無視して現出した存在がそれを語るか? それこそ理に適ってないと言いかけ、無駄なことかと喉元で押し留める。


「では、一体どうしろと? ぼくやあなた達としても、指を咥えて観てる訳には」

「慌てるな。ここからが本題だ」ストライカーは気取って咳払いをし、「キミは、水面に映る波紋をどうやって消すか知ってるか?」

 昔、どこかの漫画で見たような問いかけだ。「同じく、小石をぶつけて波紋を起こし、双方打ち消し合う……」

EXACTLY(その通り)」物語の主人公はわざと気取ってそう言うと。「ペンから現れた事象は、同じくペンから生まれたチカラじゃなきゃ消せない。つまり」


「あなたが、あいつを斃すのを手伝えと」

 ストライカーは何も言わず頷き、「使い方はもう十分解ったはずだ。やってくれるな」

「そりゃあ、まあ、その……」

 まさか、自分の書いたキャラクターに発想で上を行かれてしまうとは。作家は煮え切らない表情で彼を見、曖昧な表情で茶を濁す。

 元を正せば自分自身が撒いた種だ。摘み採らない訳にも行かぬ。

 だがそれは、誰がどう見ても殺人ほう助だ。罪に問う・問われるではなく、キモチとして賛同するには気が引ける。



「そうら、お出でなすったぜ」

 このまま悩んで粘り逃げを願ったが、そうは問屋が卸さない。

 あの時と同じく音も無く、黒い影がトンネルの出口に降り立つ。

 虹色のストールを優雅に羽織り、裾が末広がりになったマーメイドラインのドレス。

 威圧感のある、白の不気味なヴェネツィアン・マスク。

 伝説の九人がひとり、ファンタマズル。もう此方の居場所を嗅ぎ付けて来たか。


『ホホホホホ。袋小路とは正にこのこと。ストライカー、貴方は差し詰め、ワタクシの掌を這い回る無知な猿。じっくり・たっぷり・ねっとりと。甚振って、差し上げますわ……♡』

 仮面の魔女は嫌味に語尾を上げ、勝ち誇ったように高笑う。獲物を前に舌なめずりか。読んで字のごとく『舐められている』。


「余裕かましてくれるじゃねェか」勇敢なるヘルメットの主人公は、殺意に満ちた敵を前にし、好戦的な態度を崩さない。「見せしめに死ぬのは俺じゃない、あんただよ」


 格好良く右の人差し指を突き立ててはいるが、もう片方を身体で隠し、後ろ手で此方に『なんとかしろ』とジェスチャーを打っている。

 自信も無いのにヒトを危険に呼び込みやがって。誰がこんな奴にしたと憤慨し、それは己だと自省する。



『面白いですわね』そして、彼に迷っている暇はない。

 かの啖呵をイタチの最後っ屁と睨んだファンタマズルは、上体を沈ませ、急加速で一気に間を詰める。


 至近距離で『分解』能力を受けたら躱しようがない。

 今、彼を何とか出来るのは自分だけ。

 己を含め、時間の流れが鈍化する。

 退っ引きらならない状況に置かれ、ようやっと脳細胞が覚醒したか。



(やる……しかない……)

 作家は空白のページにまほうのペンで文字を埋め、黒点を打って一旦のエンドマーク。

 敵の悪しき右掌が必殺の距離にまで迫る。間に合うか? 否、間に合え! 光の粒子がストライカーの全身を覆い、足の裏に集約されてゆく。



『な……にっ!』

 ファンタマズルの手は目標を掴めず空を切る。

 彼は何処だ? 困惑し、首を上向けたその顔に、ストライカー渾身の急降下キックがクリーンヒット!



「は・は・は。コイツは上々!」

 全身で風を切り、縦横無尽に空を往く様に、ストライカーは仮面の裏で喜色の声を漏らす。

 彼に重力低減・自在移動能力を。咄嗟に記したその一文が、窮地に陥るストライカーを正に天に昇らせせしめたのである。


『こ、の、ぉ……!』

 有効打を喰らい、ファンタマズルの口元から笑みが消えた。ひび割れた仮面を投げ捨て、背負っていた大鎌を伸張。浮遊するストライカー目掛け再度跳び上がる!


「おっと、来た来た来たぜ。作家先生、次はどうする?」

「調子良いんだから、もう……」

 敵の反応が空中に絞られた今、彼を気にする者は誰も居ない。

 作家は構造や続く展開を夢想しつつ、手帳に文を書き込み、句点で区切る。


「ストライカー! 腕だ! 奴に向かって腕を伸ばせッ」

「うで……?」要点を伝えないのは、敵に知られるリスクが為か。彼は仮面の下で不敵に笑い、右拳を固く握り締めた。


「いいぞ、今だ!」

「いっ、くぜぇえええッ」

 弓のように引き絞られた拳を、鎌を振るファンタマズル目掛け解き放つ。

 これが、まほうのペンの力の一端か。ストライカーの第一関節から下が撥条バネの形を成し、風を切って一直線に突き進む。


『喰らいなさい、これが深淵二ノ太……ぐぇふッ』

 鎌と拳の異種格闘クロスカウンターは、僅差でストライカーに軍配が上がった。文字通りの鉄拳は麗しい乙女の顔に情け容赦のない一発を刻み込み、彼女を地表に叩き落とす。



「よっしゃ、読み通りッ・狙いドンピシャぁあ」

 "ストライカーの腕を撥条にし、敵を思い切り突き飛ばせ"――。

 支えもなく、絶えず重力の誘引を受けている以上、空中浮遊・移動も楽じゃない。

 ホバリング飛行を行うヘリコプターも良い例だ。揚力・推力・抵抗・重力、どれが欠けてもその高度を維持出来ない。

 今のパンチに敵を抉るチカラなど無い。相手の不意を突き、『押し』さえすれば良かったのだ。空飛ぶ女神は翼をもがれ、チカラの均衡を崩して地に堕ちる。



『こ、こんな……馬鹿なっ……』

 ストライカーどころか、ガーディアンですらない一般人に見下されるなんて。死線をして潜り生き延びた戦士として、それ故特権階級に収まる矜持として、これ以上無い屈辱!


『ならばッ』ファンタマズルの麗しき紺碧の瞳が殺意に淀む。『ペンもろとも、消し去ってくれるゥゥゥウ』

 取り零した鎌を拾うことなく、掌をかざして分解消滅を図る。

 彼らは射程の範囲内。頼みのストライカーも上空からでは手が出ない。


 だが、作家の顔に恐怖はない。既に次の展開を『読んで』いたからだ。

 彼は傍らに立つ茉莉花とアイコンタクトを取り、一方後ろに引き下がる。


「これで、どぉだっ」

『な……に!?』

 "茉莉花のマフラーが生き物のように波打ってたわみ、敵の掌を弾いてずらす"。

 照準が狂い、分解念波が曇天の空を衝く。一際大きな入道雲が消失し、それを構成していた水蒸気が文字通り霧散してゆく。

 先の衣替えは茉莉花を慮っただけでなく、この展開を見据えていたが故か。


「やるねお兄さん、ちょっと見直した!」

「そりゃそうさ、作者だもんなー。ぼくってば」

 成功続きで調子に乗り、鼻高々に頭を掻く。

 だが、ヒトには腕が二本ある。片腕を弾いただけでは無力化には程遠い。


『馬鹿ね、それで、防いだつもり!?』

 ファンタマズルの能力は分解と再構築。彼女の左手は二人ではなく、その後方に位置する切り立った崖と林の木々へ向いている。

 風船が割れ爆ぜる音が響いたかと思うと、土塊が弾け、まるで投網を放るように作家と茉莉花を呑み込んでゆく。


「おい、ちょっとこれまずくね」

「う、うごけ……ない……」

 盛土の上で頭だけが突き出たその様は、まるで割られるのを待つスイカのよう。そして空には根を削がれた細い木々。叩くのではなく、真中から串刺しにして中身を取り出すつもりか。


『おホ・ホ・ホ。こうなればペンもマフラーも無用の長物♡ その血をガーディアン社会安寧の贄となさァい!』

 残る左手をさっと振り、勢い付いた木が一直線に堕ちて来る。

 処刑にしたって物騒過ぎる。これが元ヒーローのやることか。自身の創ったキャラの悪行を直に味わい、絶体絶命の窮地に目を伏せる。



 だが、それでも彼の中に諦念など微塵もない。ファンタマズルは怒りのあまり、自身の頭上に位置する『彼』の姿を失念していた。


「とぉぉおおおっ!!」

 物々しい掛け声と共に黒い影が空を切り、左腕が肩口から断たれ宙を舞う。

 同時に木のコントロールが解け、枝葉を揺らして在らぬ方向へ飛んでゆく。


『ぐ……あぁ……おの、斧、おのれ……!』

「注意一秒怪我一生。お前の相手は奴らじゃない。この俺さ」

 作家から授けられた飛行能力に加え、右手に置換された鋼鉄化と両足の加速。それら総てが組み合わされば、ヒトの手をもぎることなど造作もない。

 ストライカーは危なげなく着地すると、左腕を盛土に埋まったふたりに向け、力を込める。

 古株ガーディアン、ハイプレッシャーから奪った、超・高圧縮空気を打ち出すチカラで、彼らを強引に土塊から引き摺り出した。



「待ってたよ。やっぱりキミは、来てくれた」

「そりゃあそうさ。あんたがいなきゃ、俺たちは勝てない」

「そうじゃない、そうじゃないんだ」


 子供の頃、夢中になって活躍を追い、幾度となく夢想したあの背中。

 大人になって捻くれて、そんなのダサいと切り捨てて、忘れてしまったあのときめき。


 ピンチに陥った時、間一髪で救けに来てくれる正義の超人。

 実態はその逆なのだが、今の彼には間違いなくそう視えていた。悪を挫き、正義を貫く無敵のヒーロー!


「行けっ、頑張れ、キミは、ぼくらのヒーローだ!!!!」

 いつしかぼくは叫んでいた。

 何故そうなったかは分からない。けれど、この血の滾りを止めるには



……………………

…………

……



※ ※ ※


「キモッ。ナニコレ、キモッ……」

「いや、言いたいことは解かる。解かるけどさ」

 少しばかり、気取って文章を盛ったことは否定しない。

 しないが、最後まで読まず、エチケット袋にゲロを吐く程ってどんだけ?! おれ何か悪いことした? してないよね?



「確かに、私は『少し』陽性のハナシを作れと貴方に言いました」ハンカチで口を拭い、 若干の残留物に噎せ込みながら。「だからといって、こんな自慰臭さぷんぷんのゴミクションを書けとは一言も申し上げておりません。お分かり?」

「そ、そこまで言う……」

 クソ・クズ・ゴミ・メタフィクション、まとめて略してゴミクション。散々な言われようだが、なんとなく的は射ている。



 ガーディアン・ストライカーという作品が出版社から一定の理解を得、その対価として、内容の上方修正を求められた。

 おれは口うるさい担当編集者の希望を聞き、期待に応えるべく持てるチカラを出し尽くし、明るいハナシを書いた、というのに……。


「そもそも、メタの何が悪いんだよ。異世界転生チートだって似たようなモンだろ」

「あら。あらあら・あァら」売り言葉に買い言葉。どうやら虎の尾を踏んでしまったらしい。

 菜々緒の顔が、やまだかつて見たことの無い、ブキミな笑みを帯びてゆく。

 そしてそれは程無くし、血の気の失せた、蒼白い顔へと変化した。


「じゃあ言わせてもらいますけどね。そもそもストライカーこんなキャラじゃ無かったでしょ。どうして笑顔でゲストに接するの。なんでこんなに好漢なの。カレは無愛想で人付き合いを極力避けるタイプだったでしょ。書き手のアナタが解釈違いを起こすなんて前代未聞よ。それに結局まほうのペンって何。作家の締め切りは。ファンタマズルとの決着は。あらすじと本編の剥離はどういうこと? だいたいね、茉莉花を貴方の欲望の捌け口にするやり方からして気に入らないわ。あの子は『あの娘』の分身なのでしょう、それを手前勝手に着せ替え、きせかえなんて破廉恥な。しかも服のセンス無さすぎ。もっとふりふりひらひらした服を仕立ててあげなきゃ、あの子の魅力が台無しよ」


 此方の返答を聴く気も、そもそも質問する暇すら与えず、早口で、息切れなく、問題点をひたすらに洗い出してゆく。

 確かに、編集者としては優秀なのだろう。書いていてまずいなと思う所が端々から見て取れる。

 でも、途中から私怨が入ってるのはどうなんだ。そりゃあ、まあ、服のセンスの無さは認めるけども。


「結局、ボツですか」

「当たり前でしょ」

「でも、締め切りまであと一週間」

「言い訳は聞きません」


 はいそうですか、そうですよと寄る辺もなく断られ、総ておれの過失で手打ち。

 ヒマと命を削って創った快作は、この瞬間ホンモノのゴミクズへと成り果てた。


「ねぇ、大雑把」

「はい?」

「あぁ、うん……」

 やっぱり今の取り消しね☆ なんて甘い言葉を期待し立ち止まるが、向こうにそんな意志はなく。没を喰った原稿を繁々と見つめている。


「ごめん、何でも無いわ。多分、私の勘違いよね」

「何が」

「まほうのペン。昔どこかで、そんな話を聞いたような」

 聞かなかったような……。菜々緒は喉に小骨が引っ掛かったような表情でうむむと唸る。

 何を言うか。これはおれの創作だぞ。類似ガジェットなどあるもんか。自信満満に言ってやったが、やはり向こうは渋い顔。

 やめてくんない。なんか自信なくなって来るから。やめてくんない?



※ ※ ※



(菜々緒の野郎……。たまには、こんな話があったっていいじゃんかよ)

 確かに、ガーストとは、アウトロー《悪》がヒーロー《正義》を殺す陰鬱なピカレスクさが売りだ。そこから脱線しちゃいけないって気持ちは解かる。

 でも、書いている当人は違う。

 言葉にはチカラがある。何の変哲の無い一文が塞ぎ込んでた誰かに活力を与え、その後の運命を左右する程に。

 そして逆もまた然り。ずっと鬱屈としたハナシを書いてたら、書き手だっておかしくなっちまう。


「まあ、アレか。ガス抜きなら、他でやれと……」

 プロならプロらしく、作品ひとつで勝負せんかい。どっかの誰かが言ってた台詞を、肩を落として反芻する。



「しかし、残り一週間で、別の話かあ」

 夕刻の寒空の下、公園のベンチに腰掛け、鞄から箱書き用手帳を取り出し、中身をさっと検める。

 他に使えそうなネタは無し。今から作って仕上げるって言われてもなあ……。


「あれ」

 仕方が無いかとペンを取り出し、罫線上を滑らせるが、何度引いても字にならない。

 おいおい、こんなところでインク切れかよツイてねえ。代わりを探し、鞄を探り、身を屈めたその瞬間、『葉巻』めいた物体が目に留まる。



「あ・れ……ぇ?」

 こんな場面を、何処かで見たことがある。

 否、視た? 観た? それとも読んだ? 兎角初めてな気がしない。

 恐る恐る、それを手に取りじっと見る。使い古され、柄に『N』なるイニシャルが印字されたボールペン。


「アルェ……、ァルゥェェェ……?」


 おい、おいおいおいおい。

 流石に、こりゃあ、ジョーダンだろ……?



『冗談ではありませんわ』



 不意に背後で響いた声。

 まさかと思い振り向くが、そこには影も形もない。

 いや。いやいやいやいや。

 有り得ない。アリエール? アリエナイ。だっておれ作者だよ? あのハナシ考えたのおれよ?

 それが、なんで、こんな。



『あなたは新たなるペンの継承者。迸るイマジネーションと情熱を伴い、創作をカタチにすべき宿命を背負う者――』



 やめろ。ヒトのアタマん中に入って来るな。おれはしらふだ。ラリっちゃいない。スーパーナチュラルでも超人でも無いんだよォオオ。



『私の名はファンタマズル(空想)。さあ、貴方の手で紡ぐのです。物語を! 超人を! ピカレスクを!! ホホ、オホホ、オホホホホホホ』



 やめろ。

 やめて。

 やめろ。

 やめ、やめ。

 あぁ、あぁあ。


 きえてゆく。

 おれのなかの大切ななにかが。

 きえて、とけて、きえて……


おわれ。

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