第2話 暴走初デート ②
うーむ。
側から見たらまるで別れ話をしているカップルみたいだな。
なんか店員さんもめっちゃ来づらそうにしてるし。
「雪乃さん。とりあえずなんか注文しません?ほら昨日言ったみたいにクーポン券ならありますから!」
そう言ってポーチの中から券を出すと雪乃さんの泣き顔は一瞬にして笑顔になり機嫌よく注文し始めた。
「チーズケーキにモンブラン、シュークリームはカスタードとストロベリーを1つずつ、後はエクレアとチョコレートパフェの特盛りと…」
…What happened?
若干引き気味の僕を余所にテーブルはとてつもない量のスイーツで埋め尽くされていく。
「…?孝也さんは何か頼まないんですか?」
「あ、ああ。じゃあ僕はコーヒーを1つ」
店員さんは憐れみの目を向けカウンターへと下がって行った。
「それしか頼まなくていいんですか?」
いいえ、雪乃さん。
こらからのことも考えるとこれくらいしか頼めないんですよ。
いくらクーポンがあってもこの量頼まれれば相当な額になるからね。
これだけ頼んでも平然としているあたりもしかしたらどこか良いとこのお嬢様なんだろうか。
「それにしても先程は恥ずかしいところを見せてしまい申し訳ありませんでした」
恥ずかしいところというのは今机に広がっている空のお皿の事では無く、恐らくは泣いていたことだろう。
「いえ、僕もスゴく感動しました。あのヒロインの子の芝居も良かったですしね」
「ああ、青空 るみちゃんですよね!最近すっごく人気でこの前のドラマでもヒロインをしてましたよ!」
「ああ、そう言えば出てましたね」
確か桜に勧められてみた月9のドラマだったかな。
優羽もあのドラマから青空 るみのファンになってたっけ。
「へぇ、孝也さんもそういうの見るんですね!意外です」
「ああ、桜が…幼馴染みがよく勧めてくるんですよ。あと妹もいるんで」
「桜…それって小清水 桜さんですか?」
「え、ええ。まあ」
あいつも意外と知名度あるんだなぁ。
まあ、運動部関係の人達からは相当な人気があるからなあいつ。
「孝也さんは小清水さんとその、あの、つ、付き合ってるんですか?!」
雪乃さんは顔を赤らめ尋ねてくる。
え、なんでこんなこと聞いてくるんだ?
ま、まさか雪乃さんも俺のことを…。
「い、いえ。ただの幼馴染みですよ!兄妹みたいなものですから」
「そ、そうですか。…ちなみに孝也さんは年上ってどう思いますか?」
え、なんでそんなことを聞いてくるんだ?
これはイコール私はどうってことだよな?
そ、それってマジでみ、脈アリってことか!
「い、いいと思いますけど…」
急に照れ臭くなり会話が途切れてきた所で雪乃さんは呟くように僕に質問を投げかける。
「もし、…もし本当にあんなことになったら孝也さんならどうしますか?」
「…何の話ですか?」
「映画のことです」
それはつまり僕が妹に恋をするかどうかってことを聞いているのだろうか?
「…あり得ないと思いますよ。これは映画の批判という訳ではありませんが、最後のシーンみたいに親の反対を振り切って駆け落ちをしたとしてもその後に相当の苦労をすることは目に見えています。世間体であったり金銭面であったり。僕だったらそんな苦労を好きな人にはさせたくないって思います」
「そう、ですか。孝也さんらしい良い答えだと思いますよ」
「…雪乃さん?」
「そろそろ出ましょうか。長居しても申し訳ないですし」
「…そうですね」
会計の際福沢先生が死んだことは言うまでもないことだった。
「ど、どうせまだ時間もありますし他にもどっか遊びに行きませんか?」
ここで『はーい解散っ』なんてマジで笑えないからな。
「はいっ。今度は孝也くんのいきつけの場所がいいです!」
「えっ」
せっかく水族館とか遊園地とか色々考えてたのに…。
俺の行きつけの場所って言えば…。
「ここですよ…」
着いた場所は喫茶店からそう遠くない駅前のゲーセンだった。
というか僕の放課後の行動パターンは大体、ゲーセンorカラオケor直帰に分類されるんだが…。
「いいじゃないですか!ゲームセンター。私実は入るの初めてなんですよ。お父さんが許してくれなくて」
ゲーセン禁止なんてやっぱいいとこのお嬢様なのかな。
「じゃあエスコートしますよ」
ゲーセンに入ってすぐさま目に飛び込んできたのはUFOキャッチャーだった。
「た、孝也さんっ。なんですかこれは!」
雪乃さんは中に入ってるぬいぐるみに目をキラキラさせていた。
「これはUFOキャッチャーって言って上についてるアームを動かしてこのぬいぐるみたちを取るげーむですよ」
「私これやりますっ!」
そう言って財布の中から1000円札を取り出した雪乃さんは入れる場所がなくあたふたしていた。
「雪乃さんっ?!何やってるんですか?」
「どこにもお札を入れる場所がないですっ」
まさかこんなことも知らないなんて…。
「いや、このゲームは100円で出来るので千円札を使う時にはあそこの両替機で100円玉と交換してからやるんですよ」
「ええっ。こんな可愛いぬいぐるみさんが100円で取れるんですかっ?!1000円でも安いと思ったのに…」
そう言ってそそくさと千円札を両替した雪乃さんは早速UFOキャッチャーに挑戦した。
雪乃さんは何故か超絶なまでの才能を持っていて次から次へとぬいぐるみを落としていく…わけもなく、1つのぬいぐるみを取るのにもう3000円くらい費やしていた。
「〜〜っ。ど、どうしてですかっ!今のは絶対掴んだハズですよっ!あり得ませんっ!ぬぬぬっ、孝也さん!これを両替してきて下さい!」
そう言って雪乃さんは遂に財布から一万円札を取り出した。
「ちょっ、ちょっと待って下さい!これ以上やっても無駄ですから!」
なだめようとしたのが逆効果だったのか雪乃さんはさらにムキになる。
「つ、次に取れるかもしれないじゃないですか!」
「お、落ち着いて下さい。ここは一回僕に任せてくれませんか?」
別に僕も得意って訳ではないがこの位なら千円も使えば取れるだろう。
渋々といった様子でこの場を離れた雪乃さんは斜め後ろから僕の様子を見守る。
そして700円費やしてようやくお目当のぬいぐるみを手に入れる。
ぬいぐるみを受け取った後もまだ機嫌は治らず、というかむしろ700円でぬいぐるみを取ってしまった僕に対抗心を燃やしていた。
「孝也さん!次はこれで勝負しましょう!」
連れていかれた先にはエアホッケーがあった。
これ以上機嫌を損ねない為に手加減してるとバレないようにうまく敗けると雪乃さんの機嫌もいくらか良くなった。
雪乃さんは案外負けず嫌いな所があるのかもしれない。
「これで一勝一敗ですよ!」
上機嫌の雪乃さんが次に向かったのはゾンビの出てくるガンシューティングのゲームだった。
「これは2人で協力するゲームですよ。ここはお互い力を合わせて頑張りましょう」
「そ、そうですね。ここは一時休戦します」
そんなこんなで遊んでいるうちに日は西へ傾き既に空は赤く染まり始めていた。
「孝也さん。これはなんですか?」
「これはプリクラって言って写真を撮ることが出来るんですよ」
「これが噂のプリクラですか!最後にこれやっていきませんか?」
「ええ、是非」
そうして今日のデート記念としてプリクラを撮りゲームセンターを後にする。
「…いつまで笑ってるんですか」
「だって、だって、、孝也さんの目がこんなに大っきくなって面白くて〜」
雪乃さんは先ほど撮ったプリクラが相当気に入ったのかさっきから眺めては笑いを繰り返していた。
「お気に召したのなら何よりですよ」
「はいっ。こんなに楽しかったのは久しぶりです!結局勝負も引き分けで終わっちゃいましたしね」
いや、実際は10勝9敗なんだけど…まあ、いいか。
「じゃあ、次にまた決着を付けましょう」
「そうですね!次こそは自分の手でぬいぐるみを手に入れてみせますっ」
…まだ根に持ってたのね。
そうしているうちに僕たちは駅前へと着いた。
「…雪乃さん。今日は楽しかったですか?」
「はいっ。色んな初めての体験が出来て本当に楽しかったですよ!また今度遊びに行きましょう。ではさようなら」
そう言って雪乃さんは駅の方へ向かっていく。
「ゆ、雪乃さんっ。ぼ、僕雪乃さんのことが好きですっ!よかったら僕と付き合って下さい」
まだ早過ぎたかもしれない。
でも、自惚れでなければ雪乃さんは僕のことを1人の男として意識してくれてるはずだ。
全く男の影がないのに僕とデートしてくれたり。
桜と付き合ってるかどうか確認したり。
年上はどうかって聞いてきたり。
それってつまりは雪乃さんは僕のことを…
しかし、僕の期待とは裏腹に振り返った雪乃さんはとても悲しそうな表情をして、僕が声をかける前に走って改札に行ってしまった。
「…ああ、そっか。まあそうなるよな」
「タ、タカっ」
茂みから隠れていたであろう桜と陽が出てくる。
「いや、なんかなー。恥ずかしいなぁ。勝手に脈アリかもとか思い込んで…」
せめて2人の前では普段通りに振る舞おうと思っていたが、2人の顔を見た途端顔が熱くなり瞳から涙が溢れてきた。
「タカ、タカァっ」
桜も顔をぐちゃぐちゃにして僕のことを抱きしめてきた。
陽はそんな僕たちを何も言わず見守った。
そうして僕の初恋は1週間と待たず呆気なく破れ去ったのであった。
井口 恵理
孝也たちのクラスメート。
スレンダーな体型。
セミロングの金髪少女。
見た目や言動からキツい印象を与えるが実際は面倒見の良い姉貴肌。
そのため1年の頃からよく3人の相談相手になっていた。