第1話 始まりは突然に ②
今朝はいつも通り家の前に待っていた陽に学校へ行く途中雪乃さんのことを相談することにした。
「なあ陽。僕好きな人できたかも」
はあ?!妹にしか興味の無い超の付くシスコン野郎のタカに好きな人が?」
ボロクソ言ってくれるなこいつ。
「…もしかしてその相手って美月か?」
陽は心配そうな顔で僕を見てくる。
「そんなわけないだろう」
「そ、そっか。だよなぁ。ははっ」
あからさまにホッとしてるなこいつ。
「で、誰なんだ」
「えーっと、3年の綾瀬先輩」
陽は飲んでいた飲み物を吹き出した。
「綾瀬先輩って綾瀬 雪乃のことか?」
「ああ、陽は知ってたのか?」
「知ってるも何も去年のミスコン優勝者じゃん」
「マジで?!」
まあ、あれだけ可愛ければ納得だけど。
「悪いことは言わないから諦めろ」
酷えなこいつ。
「今回は相手が悪い。だって雪乃さんといえばこの学校の3大難攻不落女子の中の1人だろ」
「なんだその肩書き」
「タカは3年の北島先輩って知ってるか?」
北島先輩といえば去年のミスコン優勝者でサッカー部主将。
更には読モまでしているらしい。
「その北島先輩も撃沈したらしいぞ」
「マジかよ」
「そのせいで色んな噂が飛び交ってるんだよ。他校の超絶イケメン御曹司の許婚がいるとか百合疑惑があったりとか」
た、たしかにあんな美少女をほっとく奴なんていないかもしれないけど。
「でも僕今週の日曜日雪乃さんと遊ぶ約束してるぞ」
多分カレシがいるなら僕なんかと日曜一緒に会ってくれないんじゃないか。
「はあ?!マジかよ!…まあ、タカならありえるかもしれないけど」
「なんで僕ならあり得るんだよ」
「だってタカって結構モテるじゃん」
…こいつ嫌味か?
「何言ってんの?お前と違って告白されたことなんかほとんど無いんだけど」
流石にゼロとは言わんが幼稚園の頃のゆりちゃんに前の街でお隣さんだったくーちゃん、後は…まあ、アレはいいや。
とにかく記憶に残ってるのを絞って見ても3人しか思いつかなかった。
「そりゃお前の近くには恐ろしい番犬が2匹も睨みを利かせてるしな」
なんか小声でブツブツ言っているが聞こえなかったことにした。
「まあいいや。俺としてもタカが雪乃さんとくっついてくれる方が好都合だし。ここは特別に俺がタカに恋愛というものをレクチャーしてやろう!」
「おお、それは願ってもないことだ!」
この学校には陽以外にもイケメンはいるがその中でも陽が多くの女性から慕われている理由の一つは女性の気持ちをよく分かっているからだと言えよう。
それもそのはず。
陽は姉が4人もいる5人姉弟唯一の男のため女性の扱いに長けていた。
そんなこんなで陽からのレクチャーを受けているうちに学校まで着いた。
教室に行くと1人ニヤニヤした奴がこっちに向かってきた。
「あ〜ら、クラス委員さん。昨日はあのプリントを1人で職員室まで持って行くなんて大変だったね〜」
全く悪びれる様子の無い桜は脇腹を突いてくる。
「おかげさまでな。まあ、お前と違って心優しい子が手伝ってくれたからなんとかなったよ」
「えっ…」
「あ、そういえばこないだお前から貰ったクーポン券使わせてもらうぜ」
そう言うと驚いた顔をして迫ってきた。
「な、なんで?!だってそれはタカがあたしに奢ってくれるって言うからあげたのに」
「別にクーポン券なんか無くたって奢ってやるから勘弁な」
クラス委員にしたバツとして桜には奢ってもらおうと思っていたがこのクーポン券のおかげで雪乃さんを誘えたわけだし奢ってやるくらいはしてやるつもりだ。
「やだ!そんなのやだ!!」
駄々をこねやがって。
もしかしたら優羽より精神年齢低いんじゃないか?
「しょうがないだろ。しかもこのクーポン券って今週の日曜までだし」
「だからあたしはタカと日曜に行くつもりだったの!!」
「悪いけど日曜には用事があるから」
「な、なんで!…っ。それ誰に使うつもりなの…」
「さっきも少し言ったかもだけど一緒にプリントを運ぶの手伝ってくれた3年の綾瀬先輩とだよ」
「だめ!だめだめだめ!タカはあたしと一緒に行くの!他の子と一緒に行くなんて絶対許さないから!!」
「いい加減にしろ!我儘ばっかり言うな!!」
クラスが静まり返る。
僕も言ってから冷静になり感情に任せ怒鳴ったことを後悔した。
恐る恐る桜のことを見ると彼女は声を出さずにただその大きな瞳から大粒の涙をポロポロこぼしていた。
「いや、その…」
謝ろうとしたが桜は言葉を待たずに教室を抜け出し駆けていった。
「今はお互い冷静じゃないだろうから俺が行ってくるよ」
「…頼む」
こんな尻拭いまがいのことを陽に頼むのは気が引けるが僕が桜の元へ行っても余計にややこしくするだけだ。
「おーおー、さすがの鬼畜っぷりですなぁ〜。小鳥遊くん」
誰もが呆気にとられたまま固まっている中で日比谷さんだけが話しかけてきた。
「ゆかりん…」
「誰がゆかりんじゃこら」
「…やっぱ言い過ぎたよな」
「それ以前の問題だと思うけどな〜」
それ以前にと言われても出来る限りのフォローはしたはずだし。
確かに桜に何も言わないでクーポン券を使うのは悪いと思うが、ちゃんと奢る約束もしたし桜からしたらプラマイはゼロの筈だ。
正直、怒鳴ったこと以外自分に非を感じない。
「…やっぱり分からん」
「はあ。1年間も見てればいい加減慣れてきた光景ではあるけど、、。私だったらこんなことも分からない小鳥遊くんとは付き合いたくないな〜」
「手厳しいな」
「でも今はそっちの方が嬉しいでしょ?」
「そう、だね。…振られたばっかでなんだけど僕、日比谷さんと付き合ったら1番上手く行く気がするんだよね」
「そうなんだよねぇ。私もそう思うから…だから君とは尚更付き合えない」
一瞬、日比谷さんのいつもの笑顔が曇った気がした。
「地味に人生初告白だったのにな」
「日曜に浮気する気まんまんのカレシなんてやだよ」
「そりゃそうか」
その後陽に連れられ桜は戻ってきたものの僕とは一切口を聞く気がないらしく、時間だけが過ぎていき日曜日の朝を迎える。
綾瀬 雪乃
本編のヒロイン候補。
高3には見えない背格好で白い肌に漆黒のショートカット。
くりっとした丸い瞳は小動物ような印象を与える。
孝也の一つ上の先輩で初恋の相手。
そのルックスは数多くの男子を魅了し、ミスコンで優勝するほどのものである。
成績も優秀だが、自分の利点を鼻にかけない性格のため、同性の友達も多い。
唯一運動が苦手。
小鳥遊 優羽
孝也の妹。
明るめの茶髪をサイドテールにしている。
幼い頃から兄と2人きりの生活をしていたため、兄ほどではないがブラコンである。
基本的に何事も人並み以上にこなすことが出来る。
そのルックスと誰にも優しい性格からファンクラブが出来るほどの人気がある。
日比谷 柚花
孝也たちのクラスメート。
小学生並みの幼児体型で薄桃色のショートボブ。
孝也とは1年の時も同じクラスでお互い桜繋がりで気の許せる間柄になるくらいには仲良くなった。
桜のことはずっと応援しているが、2人のあまりの噛み合わなさをどこか楽しんでいる節がある。