剣と魔法の世界に転生した俺が、なぜかメイドロボさんと魔王退治の旅に出る話
「ついにここまで来ましたね、ご主人様」
「そうだね、なんで俺こんなとこにいるんだろうね」
今ここには二人しかいない。
俺とメイドロボの『ユキカゼ』さんだけだ。
そして目の前には禍々しい感じの巨大な扉が。
俺たちが今いるここ、どこだと思う?
……残念、実はここは魔王城でしたー!
せっかくなので、今日に至るまでの熱い戦いの日々を振り返ってみようと思う。
俺の名はカイン。冒険者にして元日本人。まぁ簡単に言えば俺は転生者だった。
この世界はラノベによくある剣と魔法のファンタジー世界。
変わってるところといえば超古代文明の遺跡が存在していたことくらいか。
超古代文明の遺跡とはいっても、転生者の俺には見慣れたものばかりだった。
この世界の人が言う『謎の小さな四角い部屋』はエレベーターだったし、『魔力反応もないのに自動で動き出す階段』はエスカレーターだったし、『変な模様の書かれた謎のガラス張りの部屋』は喫煙室だった。
そのため俺は超古代文明に異常に詳しい冒険者としてそれなりに有名だった。
その俺がある遺跡に潜った時のことだ。
「え、パソコン!? しかも画面ついてるよ……」
遺跡の最下層で俺はパソコンと、それに繋がった棺を発見した。
パソコンの画面には『起動しますか? (チェックを入れなければ先に進めません)』と日本語で書かれていた。
もちろんエンターキー押したよね。
すると棺の中からメイド服を着た美しい黒髪の女性が現れたんだ。
「あ、あなたは一体?」
「私は「グオォォォォォォ!」
その時、突然大型の魔物が襲ってきた!
そいつはオーガの中でも最強種と言われるグレイトオーガだった。
俺は『あ、死んだなこれ』と思った。
だって俺あんまり強くありませんし? 知識と知恵を買われて一目置かれてるだけだし?
だが。
「うるさい」
何が起きたのかわからなかった。
メイド服を着た女性がオーガに対してハラパンをしたと思ったら、オーガの胴体に穴が空いていた。
そして、返り血一滴すら浴びていない女性はこちらに向き直り語りはじめた。
「私は対魔王戦を目的に開発された汎用メイド型決戦兵器『ユキカゼ』と申します。以後、よしなに。」
「……あの、今、何をされたんですか?」
「何、とは?」
「あの、オーガ、穴空いてますよね。アレ。」
「単なるメイドブローですが?」
「……めいどぶろー、ですか。」
「はい。私の中に内蔵されているヤマトニウムエンジンから生み出されるヤマトニウムを拳に集め、敵に叩き込む技です。」
「えっと、その、うん、よくわからない。」
これが俺とユキカゼさんの出会いだった。
ユキカゼさんが言うには『私は魔王を倒す為に作られたので、魔王を倒しにいきましょうご主人様』ということだった。
でも魔王の話なんて生まれてこの方聞いたことないけど。いつの時代の話なんだろうか。
そして俺がご主人様確定なのか。美人さんだからちょっと嬉しい。
しかし、この時の俺はユキカゼさんの性能とやる気を甘く見ていた。
森に魔物が増えているということで魔物討伐に来たら、なんかいきなり二足歩行する百獣の王さまに出会ったんだ。
「フハハハハハ! 人間は皆殺しだぁ!」
「な、なんだお前は!?」
「フハハハハ! 冥土の土産に教えてやろう。俺様は新生魔王軍、七大将軍の一人! ガ」
ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!
すさまじい銃撃音。
体中が穴だらけになり倒れ付すガなんとかさん。
そして、煙を立ち上らせている何かを構えているユキカゼさん。
「……ユキカゼさん、それは?」
「これはメイドサブマシンガンです。魔王軍の幹部ということなので牽制のつもりでしたが、案外雑魚でしたね」
「……それ、どっから出したの?」
「スカートの中ですが?」
「……そう」
「しかし、この魔物はなぜスキだらけの状態で長々としゃべっていたんでしょうか。バカなんでしょうか」
「……そうだね」
そういう口上はお約束なんだよ、とは口に出来ない弱い俺だった。
それからというもの、なぜか行く先々で新生魔王軍と出会うことになる。
あるダンジョンでは……
「よくぞ百獣のガウルを倒した、といいたいところだがアイツはバカだったからな。罠にでもはまったんだろう。しかし、この新生魔王軍七大将軍の一人、スカルディウスの八つの剣……かわせるものならかわ」
チュドォォォォォォォォォン!!
スカルディウスさんの口上が終わらないうちに、とてつもない爆発音が鳴り響いた。
「うあ……頭がガンガンするし目がチカチカする……」
「大丈夫ですか?」
「ユキカゼさん、今度は何したの?」
さっきまで八つの腕を持つスケルトンがいた場所は正に爆心地!といった状態だった。
「メイド手榴弾です。しかしこの程度で粉砕されるとはやわな骨でしたね。カルシウムが足りなかったのではないでしょうか?」
いや、まさかしゃべってる最中に手榴弾足元に転がしてくるとは思わないでしょ。
また、ある荒野では……
「このワシは元々ゴブリンでな。七大将軍でも最弱よ。ではなぜ新生魔王軍七大将軍の一人に数えられたか……秘密はこれよ!」
そのゴブリンの周りには数え切れないほどのゴブリンがひしめいていた。
「ワシが生きている限りゴブリンどもは永久に増え続ける! しかしワシを殺すにはこの十万を越えるゴブリンの大軍勢をどうにかせねばならぬ! もちろん倒しても倒してもゴブリンは増え続けるがね! さぁどうする人間ども! ぐっはっh」
ターン!
豆粒ほどの何か(多分新生魔王軍七大将軍の一人)が急に乗っていた御輿からいなくなると、ゴブリンたちも一緒に消えていった。
「それは俺もわかるよ。メイドスナイパーライフルでしょ?」
「さすがご主人様。ご慧眼であらせられます」
「けっこう慣れてきた」
「それはようございました」
そして魔王城に入る城門前では……
「我ら三人を」
「今まで倒してきた連中と」
「同じだと思われては困るな!」
「だ、誰だ!?」
魔王城の門の前には三匹の悪魔がいた。
「我は新生魔王軍七大将軍の一人、ガモー!接近戦なら新生魔王軍最強!」
「我は新生魔王軍七大将軍の一人、ウスーダ!遠距離攻撃なら新生魔王軍最強!」
「我は新生魔王軍七大将軍の一人、ツノマール!自動反撃能力なら新生魔王軍最強!」
「「「我らの三位一体の奥義、とくと味わうがいい!」」」
やばい、強そうだ。
一対一ならうちのユキカゼさんが最強だろうけど、三対一なんて卑怯だ。
俺は撤退を進言しようとユキカゼさんをチラ見する。
いつのまにかユキカゼさんの右手にはコ○ラがつけているような変な銃身がついていた。
「ならば近づかず、最速で、反撃を受ける前に瞬殺するだけです……ファイア」
ユキカゼさんの一言で視界が真っ白に染め上げられた。
少しすると光が収まる。
そーっと目を開ける。
「……うっそ」
「嘘ではありません。事実です」
魔王城の門はなくなっていた。
というより、魔王城には何かでくり貫いたような真っ直ぐな穴があいていた。
もちろんついさっきまでそこにいた三匹の悪魔たちの姿はない。
「ごめん、さすがに俺もわからないや。今のは?」
「今のはヤマトニウム・バスターキャノン砲です」
「……そっか」
俺はもう突っ込むのをやめた。
そして魔王城に入ったのだが、向かってくる魔物は全てユキカゼさんのメイドハンドガンでヘッドショットを決められて即死していた。
二階以降は魔物の気配がゼロだった。きっと逃げ出したんだろう。
そして。
「ついにここまで来ましたね、ご主人様」
「そうだね、なんで俺こんなとこにいるんだろうね」
冒頭へ戻りました。
伝えたかったことは、結局ユキカゼさん無双だったねってだけなんですがね。
「では、参りましょう」
「よしきた。隊列はいつも通りユキカゼさんが先頭で俺がバックアップかな?」
「はい。前衛はお任せください」
ユキカゼさんが巨大な門を開ける。
その後ろからコソコソついていく俺。
「よくぞここまできたな!」
子供みたいな甲高い声が響く。
キョロキョロとあたりを見渡すが、特に誰かいるわけでもない。
「どっから声が?」
「い、いるし! ここにいるし! 無視するな! ファーック!」
「いてぇ!」
俺たちの目の前には燃え盛るような赤色の髪を持つ幼女がいた。
どうやらこの幼女に蹴られたらしい。
「えっと、君が魔王なのかな?」
「はっはっは!わ」
パーンッ!
ユキカゼさんのメイドハンドガンが火を噴く。
幼女の足元にある絨毯に穴が空いていた。
「撃つなよ! しゃべってるときにその変なの撃つなよ! お前バカじゃないのか!?」
「魔王死すべし」
「ま、魔王じゃないし! わらわ魔王じゃないし!」
「え、じゃあ君だれ?」
「ふふふふ、わわわ、わ、わら、わーらーわーは!」
「言えてないじゃん」
「うるさいバカ! ファック! わらわは新生魔王軍七大将軍の一人! 鮮血のアルカディアよ! はーっはっはっはっは!」
この幼女が七大将軍最後の一人か。
最後まで色物だったな。
「残念じゃったな。 魔王さまはついさっき頭痛と腹痛と吐き気と便秘と花粉症と深爪がいっぺんにきたとのことで病院にいっておるわ!」
「魔王様のほうが残念だろそれ……」
絶対逃げ出してるよ。
「ではあなたを排除した後に魔王を追うことにしましょう」
「ふっふっふ。わらわに攻撃を当てられたらの話じゃがな! ばりやー!」
幼女が叫ぶと、幼女の周囲に結界が張られる。
「わらわは新生魔王軍一の魔法の使い手! 特に六重防御結界は魔王軍最硬じゃ! 破れるものなら破ってみよ! はっはっは!」
「では」
バンッ!
パリーン!
「え」
幼女ご自慢の六重防御結界の一つが砕け散る。
「ユキカゼさん、それは? ハンドガンよりゴツいね」
「これはメイドデザートイーグルです。さぁ始めましょう魔幼女。残りの結界は五つですね。まずひとつ」
バンッ!
パリーン!
「ふたつ」
バンッ!
パリーン!
「みっつ」
バンッ!
パリーン!
「は、はわわわわわ……」
幼女の顔が真っ青になっている。
「よっつ」
バンッ!
パリーン!
「いつつ」
バンッ!
パリーン!
「……むっつ。これでご自慢の六重結界も消えましたね。では」
「た、たす、たす、け……!」
真正面からを突きつけられ、歯をガチガチ鳴らしながら命乞いをする魔幼女。
ちょっとかわいそうだな。
「メイドより愛をこめ「ユキカゼさん待って!」
バンッ!
幼女の股の間に銃弾が撃ち込まれ、床に穴が空く。
「…………」
幼女は放心した表情で床に座り込む。
そして床に水溜りができた。
……水溜り? なんで?
その水溜りはなぜか湯気が立っていた。そして幼女を中心に広がっていく。
シクシクと泣きはじめ、両手で顔を覆う幼女。
これは、まさか……
「じゃって、じゃって……」
「あー仕方ないよね。怖かったもんな」
無言で首をコクコクと縦に振る幼女。
「なぜ止めたのですかご主人様」
「ほら、魔王が診察にいった病院を闇雲に探すより、この子に聞いたほうが早いじゃない?」
「なるほど。そこまで考えが回りませんでした。さすがご主人様」
ユキカゼさんは俺が何か言うと基本的に『さすがご主人様』で納得してくれるのだ。
「それで、魔王はどこの病院にいったのかな?」
「……すまぬ、聞かされておらぬ」
「殺しましょう」
「ひぎぃぃぃぃぃぃ!」
ああ、また床にチョロチョロと謎の水溜りが……
「頼む、殺さないでくれ!」
「寝言は寝ながらいってください。」 ジャキ!
「なんでもする! あ、わ、わらわを仲間にするのはどうじゃ!? わらわはもともと魔王軍には興味がないのじゃ!」
「ならどうして魔王軍に?」
「えっと、魔王軍にきたら毎日三食おやつをくれるというから……」
「やっす!」
「でも魔王軍に入ったはいいが、来る日も来る日もクッキーばかり。わらわの口の中はパサパサじゃ!」
ちゃんともらったクッキー毎日食べてんじゃねぇか。
「わらわはもっと甘くて美味しいおやつがほしかったのに……言ってみればわらわも魔王に騙された被害者なんじゃ!」
「ご主人様、どうなさいますか」
「ふむ。能力的にはユキカゼさんほどではないにしろ強いんだよね?」
「これでも七大将軍の一人じゃからな! 任せよ!」
「……よし、じゃあ仲間にしよう」
「では給料の件なんじゃが「殺しましょう」いりません!!」
ユキカゼさんの言葉に背筋ピーン!状態の幼女。
しかし無給で働かせて裏切られたら困るしな。
「じゃあ一日一個プリンをあげよう。頑張ったら二個。」
「わらわ、生まれた日は違えども、死ぬときは主殿と必ず一緒じゃ!」
忠誠心上昇率たかっ!
プリン、恐るべし……
「では契約を結びましょう。幼女、この契約書にサインしなさい」
「わかったのじゃ! え~っと……住所? わらわ、ヤカマガ砦と実家と二つ住んでるところあるんじゃが、どっち書くべき?」
「普段住んでる場所でかまいません」
「じゃあヤカマガ砦、と。生年月日はー冥王暦687年の~」
「冥王暦ではなく人類暦で書きなさい」
「えー人類暦ー? えっと、待てよ、冥王暦687年は人類暦だと何年じゃ?」
「とりあえず字が汚いですね。ご主人様の下僕にふさわしくありません。まずは習字からやらせましょうか」
「うへぇ……」
床に契約書を置き記入し始める幼女と、バリバリのキャリアウーマンのように指導を始めるユキカゼさん。
なんだかいいコンビになりそう、か?
「……よし、できたのじゃ! 主殿、見てたもれ!」
「えっと……うん、いいんじゃないかな」
「これからよろしく頼むのじゃ!」
契約書に目を落とす。
『俺に逆らった場合、ピーーをピーーした上でピーーをピーーでピーーーーーーーーーー』になってるけど、この子、ちゃんと内容読んだのかな。
後半とかもうピーーしか書かれてなくて何書いてあるのか判別不能だし。
でも本人の印鑑も押してあるしな。別にいいか。
「ではご主人様。魔王を追いましょう」
「俺いる意味あるのかいまだにわかんないけど、ユキカゼさんがいくなら」
「頑張って一日にプリン二個ゲットするのじゃー!」
こうして俺たちに新たな仲間が加わったのだった。
さぁ、新しい旅に出発だ!
完!
ご愛読ありがとうございました!
藤原ロングウェイ先生の次回作にご期待ください!
この作品は元々笑いあり涙ありたまにシリアスありの長編として考えていたのですが、書く機会がなさそうなので短編で書いてしまいました。
後半に出てくる幼女は書いてる最中にふと思いついたキャラです。
あねおれのノエルさんといい、なぜかふと幼女キャラが書きたくなってしまうってもしかして私は病気なんじゃないだろうかと思っています。