ロッカールームのつぼっち
口も悪いしちょっとツンとした所もあるけれど、湯北君を大好きなのが一目で分かる。湯北君に近づく女の子にはもちろん容赦なく、その美貌で「私に勝てる?」と無言の圧力をかけまくる恋するアマゾネス。
私はそんなある意味素直な紗希ちゃんを、実は気に入っている。
おっとり姫のユナちゃんは、特別美人ではないけれど、一緒にいると何故か落ち着く優しい雰囲気の持ち主。男女共に人気があるのも頷ける癒しタイプで、転んだら優しく絆創膏とかくれちゃいそう。
しかしおっとり優しい雰囲気に騙されてはいけない。仕事も早いし言うべき事はビシッと言えるしっかり者なのだ。
グチる紗希ちゃんをやんわり叱っているのを見たのは一度や二度じゃない。とっても頼りになる後輩だったりする。
そんな三人との新人研修は、私にとっては時間は圧迫されるものの、楽しくもある時間だ。
なんせこれまでウチの部署は男性ばっかり多くって、女性はパートの岩城さんだけ。年も30近く離れているため、軽~い女子トークに飢えてるんだもの。
あ、いけない。
湯北君に会ったもんだから、つい流れで今年の新人ちゃん達の事を考えてたけど、ぼんやりしてる場合じゃなかった。午後の研修に入る前にロッカーに寄らないと。歯磨きして化粧直しして……意外と時間ないな。
「もうっ!つぼっちチョーむかつくっ!いちいち細かいんだから!お茶の出し方なんかどーだって大差ないっつぅの!!」
ロッカールームに入るなり、アマゾネス紗希ちゃんの叫び声が聞こえてくる。お茶の出し方って今朝教えたばっかりだから…これは間違いなく私への愚痴だろう。
とすると『つぼっち』って私だろうか。
何故にフルネーム他、かすりもしないそのあだ名……
あれか?まさかお局様からきてるのか?プラスぼっち、とかだったら地味に泣きたい。
「もう……紗希ちゃんったら。相手の役職によって出し方が変わるなら、間違えたら問題じゃない。相手に失礼だし躾がなってない会社だと思われるからすっごく大事だって、先輩言ってたよねぇ?」
私が凹んでいる間に、おっとり姫ユナちゃんがいつもの如くおっとりと窘める。
「分かってるわよ……だから頑張ってるじゃない。でも、誰が先に配られようが、1分も変わらないでしょ?全くちっちゃい事気にしちゃってさ、これだから地位にしか興味のないオッサンは困るのよ!」
あらら、いつの間にかムカつく対象さりげなく変わってるし。
まぁ個人の意見はどうあれ、とりあえずはロッカールームででっかい声で愚痴はいけない。ここは一発ガツンと言うべきだろう。
つぼっちとしては。