シンデレラの告白
なんでこんなに腹がたったのか自分でも分からない。
駅までの道を足早に歩きながら、私は自分でも混乱していた。たぶん私、湯北くんのあの物怖じしないところとか、グイグイくるところとかがきっとダメだったんだろう。だって。
……あの人に、似ている。
ふっとその言葉が浮かんで、急いで首をブンブンと横に振った。違う。絶対に違う。
「待ってください、久美先輩!」
後ろから聞こえてきた呼び声にビクッとして、私はそのまま走り出した。
もちろん、たかだか一、二分で追いつかれて腕を掴まれてしまったのは仕方がないことだ。こちとら完全に運動不足だし、ヒールだし、大学でも野球やってましたなんていうスポーツ男子に勝てるはずがない。
「めっちゃ息上がってますね」
「……」
たかだか数分で息が上がる我が身が憎い。初夏の蒸し暑さも相まって完全に戦意喪失してしまった。駅前の広場で、湯北君が自販機で買ってくれた冷たいお茶を呑みながら、私はぐったりとベンチに体を委ねる。
「大丈夫ですか?」
心配してくれるのすらいたたまれない。早くこの場を立ち去りたかった。彼の質問に答えれば、私は解放して貰えるんだろうか。そう思って、さっきの質問への答えを捻り出す。
「なんで課長を好きかってきいたよね。それは、誠実だからだよ。絶対に奥さんを裏切らないって……それをちゃんと有言実行できてるあの誠実さが、好き」
「俺も、誓えます。もともと浮気性じゃないし」
「最初はみんな、そう言うのよ」
あの人も、そうだった。今の湯北くんくらい、まっすぐな目をしてたのよ、付き合い始めた頃には。その言葉を飲み込んで、私は少しだけ笑う。
「久美先輩、ひとつ聞きたいんですけど……もし課長が離婚したり、浮気したりしたら、そのまま好きでいられますか?」
その質問に、私は一瞬口ごもる。
「それは……たぶん、無理」
「ですよね」
納得した表情で、湯北くんが立ち上がる。私を見下ろすその顔は、さっきまでよりもずっとスッキリとした表情をしていた。
「とりあえず、俺は諦めなくっていいってことだけは分かりました」
「!?」
な、なんで今の会話でその結論になるの……!? 驚き過ぎて、声すら出なかった。
「久美先輩が好きなのは『裏切らない保証がある人』でしょ。それなら、俺にだってチャンスがある筈だ。これから示していけばいい」
「無理。無理よ、だって」
だって。それ以上は言えなかった。胸が痛くて、唇から声が出ていくのを体がで全力阻止している。
 




