もしかして、本気だった?
「そ、即答……」
がっくりと肩をおとした湯北くんの姿に、あれ? もしかして本気で言ってた? と不安になる。だとしたら申し訳ないことをしてしまった。あまりにも想定外な言葉だったものだから、脊髄反射しちゃったんだと思うんだよね。
「少しぐらい考えてくれたっていいじゃないですか……」
「ご、ごめん。でも湯北くん、私が好きな人いることも知ってるし。……もしかして今の、本気だった?」
「当たり前じゃないですか!」
思いっきり睨まれた。でも真っ赤な上に涙目だったから、怖いどころか不覚にもちょっとキュンとしてしまったじゃないの。
……これは、モテるわ……破壊力が違う。
「本気じゃなきゃ、わざわざこんな店に二人でって誘いません」
「そ、そうか。ごめん」
「めちゃくちゃ勇気だしたのに」
「ごめんなさい……」
困った。去年彼の基礎教育を担当したばっかりに、慰めて元気づけたくなる。年下男子へのうまいサラリとした対応が全然思いつかないんだけど……どうしたらいいの、コレ。
一人で内心悪戦苦闘していたら、湯北くんはようやく視線を外してくれた。私もホッと息をつく。
桃のコンポートを所在なくつついていたら、うつむいてテーブルの上に組まれた自分の手をじっと見ていた湯北くんは、ワインをぐっとあおると、またも私をまっすぐに見据えた。
「久美先輩が、課長のことを好きなのは知ってます。俺、課長と似たとこ全然ないけど、でも……!」
うんまあ、課長は小柄でぽっちゃりしたゆるキャラ系だもんね。シュッとしてハキハキ元気な湯北くんとは属性が違う感じはする。
「うん、まぁ似てはいないよね」
「どこが好きなんですか」
「へ!?」
「どこが好きなんですか。教えてくれたっていいでしょう」
ええ~なんで湯北くんとそんな恋バナ的話をしなきゃなんないんだ。苦行すぎる。しかし涙目の後輩に詰め寄られると弱いんだ。どうしたら逃げられるんだよ、コレ。
「せ、性格……?」
「なんで疑問形なんですか」
「い、いや、そんな深く考えたことないから」
「赤くなってる! あの久美先輩が!」
なるわ、そんなん! 親友のまゆかとだってこんな話したことないよ。そりゃテンパるでしょ。もともとこういう話は苦手だ。照れくさくってこれ以上ガマンできない。
「もういいでしょ、この話はここまで。明日も仕事あるんだし、もう帰ろう」
「収穫なしじゃ帰れません! せめて課長の好きなとこ教えてください。俺、努力するんで」
詰め寄られて、私は静かにキレた。簡単に、努力するなんて言わないでよ……!
「無理。悪いけど帰る。……お金、置いていくから」
問答無用で、私は席を立った。
 




