初戦開始
一週間はあっという間だった。
猛特訓してとりあえず走っている最中の方向制御はどうにか、ある程度出来る様になった。止まるのはまだ苦手だけど。ちなみにどれだけ速く走れるかタイムを計ってみたところ、100メートル2秒未満という猛スピードだった。とりあえず今はこれで死なない様に最善を尽くすしかない。
「ではユウト、アリス、トッド、頑張ってきてくれ」
クラムさんがコンテスト会場まで見送りに来てくれた。ちなみにトッドというのは今回の稼ぎ役だそうだ。この島のあらゆる物資はVPで取引されているため、定期的にコンテストに参加して賞金のVPを稼がないといけないそうだ。
「じゃあクラムさん行ってきまーす!」
アリスは元気よくそう言って会場の中に入っていった。それに俺とトッドも続く。
「ああ、ユウトちょっと待ってくれ」
「クラムさん、何ですか?」
「いや、ちょっとしたアドバイスをと思ってね。いいかい、どんなに特別な能力を持つ者でも完ぺきではない。相手をよく観察すること、そしてどうすれば勝てるかを考えるんだ。きっと答えはある」
「はい。分かりました」
「それから僕のプレゼントを上手く使ってくれ。必ず生きて戻るんだよ」
「はい。必ず」
受付で手続きを済ませると大部屋の控室に案内された。中には様々な年代、容姿の人間がいた。ざっと100人くらいか。その人たちの様子は2パターンに分けられる。不安でいてもたってもいられない者と、自信の表情を見せている者。前者が初参加で後者が経験者だろう。そんな二つの空気が入り混じった中で俺はできるだけ冷静でいようとずっと目を瞑っていた。
すると騒ぐ声が聞こえ、大柄な男二人に細身の男が抱えられて来た。何やら喚きながら必死にもがいている。
「こいつは初参加組だが逃げ出して街の隅に隠れていた。初戦は強制だと言ったはずだ。お前ら、存分に可愛がってやれ」
そう言って男二人は細身の男を投げ出し、部屋を出ていった。控室は異様な空気に包まれる。細身の男は頭を抱え、がくがくと震えていた。
コンテストの会場はコロシアムと呼ばれる円形の闘技場だ。
このコロシアムで行われるビギナーコンテストのルールは簡単だ。参加者全員が一度に戦う乱戦で、一定時間まで生き残れば勝ち。または戦闘中の人数が10人以下になればその時点でその全員が勝ち。気絶するなどして戦闘不能状態になったら負け。死んでももちろん負け。降参は無し。
つまり戦闘中ずっと逃げ続けていても勝ちになるのだが、戦闘時間は30分らしい。俺の体力だと能力を使っている状態でずっと走ったままでいるのは5分が限界なので、残りの25分どうやってやり過ごすか考えなければいけない。アリスとトッドとはお互いに攻撃しないことを約束している。・・・はたして俺は生き残れるのか。いや、生き残ってやる。
「参加者の皆さん、時間です。こちらへどうぞ」
指示に従って歩く。ああ、緊張してきた。その時、後ろから肩をポンと叩かれた。振り返るとニコッと笑ったアリスがいた。
「大丈夫だよ、ユウト。危なくなったら私が助けてあげるからね」
「ああ、ありがとう」
女の子に元気づけられるのは我ながら情けない気もしたが、それでもすごく気が楽になった。
俺たちがコロシアム内に顔を見せると観客席にいる人々が歓声をあげた。
そう。コンテストには観客がいるのだ。この人たちは帝国の貴族連中。道楽のためにここへやってきて俺たちの戦いを笑いながら見るのだ。誰が勝つか負けるかの賭けもやっているらしい。客入りは観客席の三分の一といったところか。最低ランクのコンテストを見に来るのはよっぽどのマニアだけなのだろう。観客席の所々にはテレビカメラも見えた。ビギナーランクはテレビ放映しないはずだが、誰が見るのだろうか。
「さあ!やってまいりました。初心者参加のビギナーランクコンテスト!今日はいったいどんな戦いが繰り広げられるのか、誰が生き残るのか一瞬も目が離せません!」
実況者がマイクを使い甲高い声で場の空気を盛り上げる。
「それでは早速まいりましょう!バトルスタート!!!」
こうしてついに俺の初戦が始まった。