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正直モノのバカを見よ!

「シュン」

「だから動くな。次に動いたらコイツを撃つ」

 おどしではないようだ。俊はまだ、後ろ手に縛られていた。男はその手首をぎりぎりと持ち上げ、あごの下に銃を押しつけている。俊は半分つま先立ちで苦しそうにあえいでいた。男は俊を引きずりながら、じりじりと倉庫の外に出た。


 痩せぎすで背は高い。拓人なんか跨がれてしまうだろう。日に焼けた顔に傷、ばさりと被った半白髪が無造作に片目を覆っている。が、見えている方の目は残酷にぎらついている。しかし物腰は冷静そのもの。彼は薄い唇をにやりと曲げた。傷がひきつれてますます情け容赦ない顔に見える。

「オマエのその服、丈夫なようだな」

 男は落ち着いた口調だった。それだけによけい危なっかしい。

「話だけは、どこかで聞いたことがある。ニンジャのようなヤツらがいる、と。名前はそう、ヘンカ、だったかヘンナノ、だったか……」

「何でもいいだろう」良くないけど。特にヘンナノ、はやめて欲しいものです。

「と言う事は、他にもいるんだろう?」

 ものから団とは直接関係がないらしいが、もっと大人の事情的に、ヤバイヤツらのようだ。

 薔薇変化は時間を稼ごうとして、ゆっくりと言った。

「オマエらは、一体何なんだ」

「ただの派遣社員さ」男はせせら笑う。

「頼まれて、オシゴトに来ただけだ。小僧を二人、お守りするように、ってさ。何だか作文をしてくれるように、いや、見た通り書いてもらうからカキカタの授業かな。ちゃんとできて百点取れたら、お家に帰れる。赤点取ったら、港で泳ぐ魚の餌に、かな」

「遺言状か」

「小僧らのオヤジさん、資産家なんだろう?」

 打撃から立ち直ったのか仲間の男たちも、銃を構えたまま近づいてきた。無線連絡を受けたらしく、もう2人ほど倉庫の裏側から走ってくる。全部で敵は7人。

「片がつくまで、オマエにもオマエの仲間にもジャマさせられたくないんでね。悪いが」

「仲間は来ない」

 あ~何でこういう時に素直な高校生なんだオレは! 言ってから心の中で地団太踏むバラ変化。

 嘘つき! とあかねにしょっちゅうののしられるクセに、命がかかった肝心な時に妙に正直もの。

「なら好都合だ」男は銃の先を少し動かした。

「コスチュームを脱ぐんだ。確かボタンがあるんだろう? エリか、腕につけてるんじゃないのか」

 変化章のことも知っている。かなり色んな修羅場をくぐり抜けてきたのだろう。マルチまがいのセールスで一日百軒ノルマ持たされたり、所持金ゼロでラーメン喰い逃げしたり、若い頃だって……高校野球でいい線まで勝ち進んでからボロ負けして泣いて悔しがった経験もあるだろうか。重いコンダラを引っぱって走って転んで顔に傷ができたのかも。

「そのボタンを出せ、その腕の、そう、それだ」

 しぶしぶ腕時計型の装備を外す。変化章内蔵のそれを外すと、自動的に変化は解けた。

 彼は元の生嶋拓人の姿に戻った。ゆうべ俊から借りたパジャマ姿のまま、拓人は両手を挙げてゆっくりと彼らの前に歩み寄り、変化章のついた装備をその男の目の前に投げた。男は目線を外さずにかがみ、それを拾い上げて上着のポケットに押し込んだ。

「弟のほうだったのか」

「オレが兄貴だ」結局、護れなかった、シュンを。

「まあいい、どちらにせよ。こちらで書き方の補習授業をしようか」

 男はようやく、俊を掴む手を緩めた。俊は苦しげにううっとうなってその場にしゃがみこむ。

「シュン……」つい彼に寄り添おうとして「おっと」今度は生身に銃を突きつけられた。

「パジャマパーティー、早く終わりにしたいだろう? 車の方に来るんだ、そのまま」

 後から来た二人が俊の縛られた手をぐいっとまた引っぱって立たせようとした。よほど痛かったのか俊はとうとう悲鳴を上げた。「助けて!」奴らはイヤらしい目で笑っている。

「許さねえ、キサマら」遂に拓人の怒り爆発。考える間もなく、頭からキズ男に突っ込んでいった。百戦錬磨はそんなことはお見通し、すでに彼を迎え撃つ用意、が、その速さまでは読めていなかった、衝撃で銃を取り落とす。そして意外なことが更に。泣き顔の俊が急にゲリラ兵の貌に変わった、身を低くかがめ腕を一振り、ロープは解けていたのだ。右腕に溜めた力をすぐ左の男に、しかも股間直撃。「ぐうぇっっっ」すっかり笑いが消えた右の男にもそのまま低い位置から頭突き。

「野郎ぉぉ」キズ男が本気になった。本気と書いて『ころす』。横に飛んで銃をすくい取るようにまた手に収め拓人に向けた。撃たれる、遂に終わった、俊にも怒り狂う二人の男が襲いかかる、ついに八つ裂きか? と、その時!


「見参!!!」


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