これぞ兄弟愛
俊がどうにか縛られたままの手を伸ばしているのが分かる。
「届いた」
「時計みたいの、ついてるだろう」「ああ」よかった。奴らに外されてないようだった。
「気をつけて、裏側に指、届くか」「なんとかね」
しっかり縛られていたせいか、俊の指が手首とブレスレットの間に入った感覚もない。
「待て。言うまでいじるなよ。裏につまみが二つついてる。オレの体に近い方には触るな。絶対」俊は注意深く聞いている。余計な質問は一切しない。さすがオレの弟、感心しつつ、拓人もできるだけ冷静さを装う。
「指側のヤツ、回るようになってる。反時計まわりに90度。」
やばい、二人は頭を上げた。足音と声がする。
見張りだけではなく、他の連中も戻ってきたらしい。
「なんでサークルKしかねえんだよ、この辺は。」食事を買いに行っただけのようだ。拓人囁く。
「回せ」
「爪が……ひっかかんないよ」少年らしいグチっぽい口調になった。
「待って。クソっ」俊も手がしびれているのだろう。あせっているようだ。その間に、足音はどんどん近くなる。俊の側に出入り口のドアがあるが、すでに奴らの姿が見えたようだ。
「落ち着いて。大丈夫」つまみをひねったら、どうなるのか、そんな心配は全くしていない。昨日初めて会った相手なのに、ここまで信頼しているのか。これが血のつながりというもんなんだろうか。皮肉だ。
「やった、爪がかかった。で……」
ひねった瞬間、白い閃光があたりを覆った。
「おいっ」男たちがドアに手をかけたのと、変化とはほぼ同時だった。
しゅうしゅうと、水蒸気の吹き上げる音がひびく。あたりはすっかり霞み、彼らがせき込んでいるのがわかる。俊もかなり咳が出ているようだった。
しかし、拓人、今や薔薇変化はたちこめる煙の中にすっくと立ち上がっていた。
「誰だっ!」一番先に入って来た黒服が叫んだ。銃だろうか、腰の近くに構えている。
「オマエら」薔薇変化の姿に、居並ぶヤローども、ひっと息をのんだ。
「な、何なんだオマエ」
「それを聞くのか」にやりと笑ってみせた。
「正義の味方に向かって、聞くんだな、それを」
「小僧が一人いないぞ」後ろのヤツも叫ぶ。そいつも銃をもっていた。
「とにかくソイツを殺れ」
いきなり、前の男が発砲した。ぱっ、と片手をのばし、薔薇変化は飛んできた弾をつかんだ。一発、また一発。
「終わりか?」薔薇変化が跳んだ。男たちの後ろに着地。一番後ろにいた男のケツを蹴りあげ、よろけた所をぐい、と持ち上げた。そして後ろにぽい。
次の男も、腕を取って背負い投げ。次はパンチ。そして次。けっこうおおぜいいる。
後ろから撃ってきたやつの弾が当たった。しかし、コスチュームの表面で止まり、ぐるぐるとコマのように回転している。うっすら煙がでるが、やがてぽとんと地面に落ちた。
「いったい……何なんだコイツは」
怯えて、逃げだそうとしているヤツもいる。
「だから言ったろ、正義の味方だって」
言い放ったとたん、はっとなった。シュンはだいじょうぶなのか? その時
「動くな」
中に入って隠れていた男がひとり、俊に、銃を突きつけて立っていた。




