葬式済んで日は暮れて?
葬儀場に皆が入る頃には警察のオッサン回収作業も終了し、奴らが乗ってきた車両や武器なども証拠として全て押収された。関係者への事情聴取も簡単に済んでいた。大叔母とその孫息子ら数人が近くの警察署に連行され、結局故人の骨を拾うことはできなかった。
故人の骨より故人のカネに興味があったのは明白で、大叔母は特に文句もなく、しかし寄りそって立つ俊介と母親の日名子、それと拓人の方に挑戦するような目を向けてから、警官を引き従えるような尊大さで警察のバンに乗り込み、去っていった。
拓人は結局、出棺から葬儀まで一切列席することなくずっと外のロビーに座っていた。
頭を抱えて。
もう涙は出ない。というか、まだパジャマですし。かなりこういう黒っぽい場所では目立つ。吉井さんが親切に「とりあえず御着替えだけでも」と一式そろえて持ってきてくれたが、それに着替えるだけの気力ももう、残っていなかった。
すべてが済んだ午後2時半、ようやく俊介が会場から戻ってきた。
「あのさ」最初のクールな口調が戻っていた。しかし、目には優しい光があった。
「母さんが、ぜひ御礼を言いたい、って。今親戚に取り囲まれてるからまた落ちつい時にでも。それで……連絡先教えてくれないかな。また家に寄ってくれる?」
「遺産の件はもう大丈夫なのか」拓人はようやく顔をあげた。
「ああ……うん。宇都宮のオジサンが母さんとボクについて弁護士の所に一緒に行ってくれるって。あのオジサン、怖くて苦手だったんだけどボクももっとオトナにならないとね」
今のままで十分じゃん、と言ってやりたかったがそれでも拓人はかすかに笑ってみせた。
「オマエ……いやシュンくんも戦ってんだよな、がんばれよ」
「兄さんもね」握手、と手を差し出した。拓人はその手を堅く握り返した。
「ボクのことは呼び捨てにしてよ、兄さん。それにオマエ、って呼んでいいから」
俊はいたずらっぽく笑っていた。急に年相応な小僧の表情がみえた。
「それからさ」少し声を落とす。
「あの人、ピンクの服の人さ……今度連絡先一緒に教えてくんないかな」
「えっ?」拓人はぴんと背筋を伸ばす。「どうして」
「どうして……って」いやだこのコ、赤くなったワヨ。それでも俊はナマイキにもこうつぶやいた。
「ボク、やっぱり少し年上の女性が好みなのかも」
「ナンデスト??」
「なんだか凛としてさ……ファーストレディーにも相応しいかな、って少しね」
やっぱり、歪んでいる。しかしその笑顔は本当に邪気のないものだった。
「おおいシュンスケ」遠くで塩辛声が呼んだ。「はい」急にキマジメな声に戻り
「じゃあね」秘密めかした囁き声ひとつ、彼は自分の属する場所へと帰っていく。
拓人は大きくため息ひとつ、ようやく立ち上がってやはり、自分の場所へと帰っていった。
だいたい解決? しましたがもう少しだけ続きます。意外な事実と結末はそこで。




