零戦(冷戦)
使用人・宗像ノエルと、侵入者・桜坂小旗が対峙している時、
他の者も、同じように対峙していた。
「…………」
村の廃屋に居たネイカは、
鎌を持ったヘッドホンの男と対峙していた。
「……観光客、ってわけじゃなさそうね」
ネイカは男を警戒しながら、2丁拳銃を取り出し、
一つを男に向ける。
「あんた、誰よ?」
「……悪いが、お前に名乗る名前はない」
「……あぁ、そう!」
その台詞を合図に、戦闘開始となる。
村の端っこあたりに居た薬院硯は、
ライフル銃を持った痩身の男と、
大槌を持った筋肉質の男と対峙していた。
「……『鬼神衆』、ですか」
硯は鬱陶しく、その単語を呟く。
「『鬼神衆』所属、『室見金閣』」
痩身の男は名乗った。
「『鬼神衆』所属、『室見銀閣』」
筋肉質の男も名乗った。
「「『珍品蒐集家』薬院硯と、お見受けする」」
そして、金閣と銀閣は、一緒にそう尋ねた。
「……私は、巷ではそう呼ばれているんですね。やれやれ、珍品集めも程々にしなくては」
「その必要は無い」
硯の台詞を、金閣が被せる。
「お前は、もう集める必要は無い」
「何故なら、お前は死ぬからだ」
金閣が言った後に、銀閣が喋る。
「我々によって、お前は死ぬ」
「遺品は気にするな。我々が責任を持ち、また世に広めてやる」
「だから」
「だから」
「「安らかに、逝け」」
その、重なる言葉とともに、金閣と銀閣は動いた。
銀閣が、大槌を振り回し、硯に飛びかかり、
金閣が、ライフル銃を構え、銃口を硯に向ける。
動けば銃殺。
動かなければ撲殺。
その二つは、確実だった。
しかし、
薬院硯は、慌てなかった。
「……やれやれ」
鬱陶しく、短く呟いて、懐にあるホルスターから、黒い鉄の塊を引き抜いた。
「闇付遊具は、使いたく無いんですがね」
そして、鉄の塊を、銀閣に向けた。
その鉄の塊は、
単発式の拳銃だった。
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「…………」
「っ……!」
現在、桜坂小旗は、窮地に立たされていた。
小旗の周りには、無残にも破壊された銃器。
そして小旗自身の身体も、ボロボロである。
「(あ、あり得ない……!こいつには『裏世界』としての気配が感じない!なのに、何故俺は、膝をついている!?)」
「別に、恥ずべきことではありませんよ」
困惑する小旗をよそに、ノエルは喋る。
「貴方は、実力としては素晴らしいものです。ですが、ただ単に、力がわたしに一歩及ばなかっただけに過ぎないのですよ」
「だが矛盾している!お前は『裏世界』の実情を知らない!この国の裏歴史にして黒歴史を刻み続ける世界だ!非合法脱法は当たり前!殺人も最早日常の如く起きている!そんな殺伐と異常に跋扈した『裏世界』を、俺は生き残っている!だが、そんな俺を何故、お前は圧倒している!宗像ノエル!」
そう、不自然だ。
桜坂小旗は、それなりに実力を持った人間。
所属している組織の中でも、斬り込み隊長としての腕を持ち合わせている。
その上、『裏世界』は、表の法律を全て否定した無法地帯。
素人や一般人が遊び半分で関わろうものなら、最早明日を生きていくような軽い希望も呆気なく崩れる。
残酷で、非情で、凶悪的な、世界なのだ。
「確かに、わたしのような表に居る人間では、貴方を殺すのは容易ではありません。ですが」
す、と瞳が一気に赤く変化する。
「それは、わたしの中身を除いた場合によるもの、中身を含めるとするなら、話は別です。わたしは、中身が普通の人間とは大まかに違います。構造、運動、メカニズム全て、人間とは違うんです。異常です。いえ、
例外的なんですよ」
目の色が変わったことにより、ノエルの雰囲気がガラリと変わる。
普通の人間であるノエルが、
殺気を孕んだ『裏世界』の人間に変わっていた。
「ふ、巫山戯るなぁ!」
ボロボロの軍服から、ロケットランチャーを取り出し、銃口をノエルに向ける。
「吹き飛べやゴラァ!」
躊躇いなく、トリガーを引く小旗。
勢いよく、銃口からミサイルが飛び、ノエルに向かっていく。
「…………」
ノエルは、そのミサイルを弾こうとする。
だが、その前に、
木彫が、片手でミサイルを受け止めたのだ。
「!」
「なっ!?」
鷲掴みでミサイルを受け止め、平然と立つ木彫。
事実、ミサイルは人間の手では弾くどころか、掴む事も出来ないモノ。
そんな事をすれば、人間の腕は爆散するどころか、身体がバラバラに吹っ飛ぶ。
しかし、貝塚木彫は違う。
両腕が義腕で、尚且つ『戦闘型義手』向けの金属。
これをミサイルで受けとめられないわけがない。
「おいおい、人の家で花火を打つんじゃねーよ」
ひゅん!と窓に向けて、掴んだミサイルを投げ飛ばし、そのままミサイルは地面に直撃し、爆発した。
「き、木彫……さま?」
「無事か?二人とも」
「い、いえ、わたし達は無事ですが……しかし、木彫さまのその腕は……」
「『戦闘型義手』だ。お前と似たような代物だぜ」
「っ……」
一瞬、ノエルは怯んだ動作を見せた事を、木彫は見逃さなかった。
しかし、今の木彫は、それどころの話じゃない。
「まぁ、それよか、あいつは誰だ?あいつも、この里に訪れた人間か?」
すっ、と満身創痍同然の小旗に指差す。
「……侵入者です。津屋崎一派を皆殺しにしようとしています」
「そう」
それだけ言って、木彫は小旗とまともに対峙する。
そして、右手の義手から、『漆黒銅剣』を抜刀。
完全に『裏世界』のプロプレイヤーに変わっていた。
「……んー?お前どっかで見たことあると思えば、『鬼神衆』の連中か?」
「…………」
木彫の問いかけに、小旗は黙り込んだ。
「でもおかしいよな?
確か『鬼神衆』は十年前に壊滅させられたとかなんだとか」
突然、拳銃を抜いて、早撃ちの如く発砲。
弾丸は木彫の真横を通り過ぎた。
「……それ以上、口走るんじゃねぇ、『監察官』!」
「…………」
〈観察中断〉