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視線(死線)

最早、推理ドラマよろしく殺人現場と化した部屋。



そこには、中洲川端金助の遺体が転がっていた。



首から上は切り落とされていて、そこから噴き出す血によって血まみれになった床。



まさしく、非日常の光景である。



「酷い……誰がこんなことを……」



口を覆い、悲しげにその言葉を口にするノエル。



確かに、これは普通の人間がする行動ではない。



裏世界(ウラセカイ)の人間の凶行だと、木彫は断定した。



「ノエル。至急鬼門に報告してくれ、あと、他の四人には、このことを喋るな」


「え?な、何故ですか……?」


「これは外部の犯行だ。もしこの部屋に仕掛けられた(カラクリ)の仕業だったとしても、鬼門は殺人現場(これ)の確認なんてさせないはず。だとしたら、鬼門自身も知り得ない事。


外部の犯行だとすれば、四人の内誰かが、殺したに違いない」



この時点で、容疑が固まっているのは、殺し屋・祇園鹿鳴と、賞金稼ぎ・茶山ネイカの二人、



しかし、非戦闘員扱いの二人の蒐集家(コレクター)・薬院硯と次郎丸蕨も、少なからずシロとは言い切れない。



「……わかりました。では、海門さまにもこのことを」


「あぁ、出来れば他言無用のことも言っておいてくれ」



ノエルが足早に、廊下を走って行く。



その最中、木彫は静かに、生き物として温かくもなく冷たい金助の身体を、じっくり検分する。



「(……首以外の外傷は無し、毒物による中毒死の線も無し。死因は首をばっさり斬られたことによるショック死か)」



切り口にムラは無く、綺麗に斬られていて、断面も、保健の教科書で見るような感じに仕上がっていた。



「(頭部が無いのは、まぁ、蛇足な行動だろう。深い意味はない)」



コートを改めて羽織って、外を睨むように見る。



「……嫌な予感がする」



ーーーーーーーーーーーーー



「成る程。そういうことが……」



金助の殺害を聞き、鬼門は深くため息をついた。



「まさか、とは思ったが、やはり『悪童(アクドウ)』目当ての凶行か」



悪童(アクドウ)』、と聞いてノエルは、びくりと震える。



「どういたしますか……?このままだと、津屋崎本家、即ち鬼門さまと海門さまの身に危険が及びます」


「ノエル。わたしはね。いつかは予測はしていた。父の『カラクリ』作品は、争いにも生じる代物だと、その標的が、よりにもよって最高傑作の『悪童(アクドウ)』だということが」



津屋崎鬼門は、父・津屋崎新左衛門の『カラクリ』としての情熱は、痛いほど知っており、その情熱が、新左衛門の作る『カラクリ』に現れ、傑作品と称されるほどに名高い代物となる。



だからこそ、新左衛門作の『カラクリ』は、価値が高い故に、それを取り合う輩も少なくはない。



芸術性が高いこそ、金に眩む。


大金を得るだけのただの道具として見ている。



下賤な輩が沸く故に、新左衛門の作品を売る気なんて、鬼門は最初から無かった。



というより、鬼門は嘘をついていた。






居場所は、我々家族でも解らない。



それが、彼がついた嘘だ。



「ノエル。君に人を殺める命令を出すわたしを許してくれ。そして、解って欲しい。これは、父の作品を守る為であるということを」


「……承知しております。『父』の為なら、私は」



と、言いかけた時だった。



「!鬼門さま!」



ノエルが突然、鬼門の服を掴んで後退した。



その直後、部屋に銃弾の雨が降り注ぎ、畳やテーブル、ふすまが穴だらけになる。



その光景に、鬼門は驚いた表情を浮かべていたが、ノエルは冷静だった。



「くっ……ノエル」


「粗相に扱ったことをお許しください。しかし、状況が状況ですので」


「そうじゃない。敵は何人だ?」


「……一人です」



乱雑に、穴だらけの畳を踏みしめる音が響く、そこには、一人の男が居た。



回転式機関銃を片手に持った迷彩服の男。



見た目からして、軍人のような姿である。



「……よぉ、津屋崎一派皆殺しに来たぜ」



その一言の直後、男は引き金を引いた。



目にも止まらぬ弾幕の嵐。



弾幕によって生じる煙幕は、相手二人を覆い隠した。



それでも弾幕は収まらない。


男の気が済むまで、弾幕は飛び続けた。





いつまで弾幕が飛んだかわからない。一分、二分、三分経ったのかもしれない。



男はそこで、引き金を引く指の力を解いた。



「流石にやり過ぎたか、遺体が蜂の巣になっちまったら、殺したか殺してねーかわかんねーもんな」



男は、()ったと確信した。



銃口から飛んだ弾丸は、コンクリートも破壊する威力を持つ、



もし人間が、数千発の弾丸をその身に受ければ、間違いなく塵となるのは目に見えていた。






しかし、家政婦・宗像ノエルだけは、違った。



「……ん?」



煙幕が晴れる。



次に映るのは、二人の遺体と予想していたが、


その予想は、見事に大外れとなった。



最初に映ったのは、メイド服。



次に映ったのは、拳を覆う手甲。



そして、また次に映ったのは、傷一つ無いノエルの顔だった。



「……あぁ?」


「流石に驚きましたね。躊躇いなく銃口を向けて発砲するなんて、『裏世界(ウラセカイ)』の人々はみんな血の気が多いですね」



淡々と、ノエルは語る。


服に弾痕も乱れも無いと思えば、後ろに立っている鬼門、ノエルの周りから後ろまで、



弾痕が一つもない綺麗な床が形成されていた。



「(……なるほど、この女。飛んで来た弾丸を、弾いたのか)」



男はまた確信した。



この女は、只者では無いと言うことを、



自分たち、『裏世界(ウラセカイ)』の人間と対等に立ち会える実力者であることを。



「鬼門さま、この礼儀のなっていない侵入者をどう致しましょう?」



主人である鬼門に、命令を要求するように、後ろを少しだけ向くノエル。



「……相手は、我々津屋崎一派を皆殺しにしようとしている。相手が殺す気でくると言うのなら、














殺せ。ノエル」


「……承知しました」



命令を聞き入れ、また男を見る。


ノエルの目は、一気に殺意一色に染まっていた。



「恐れ入りますが、お名前を、申し上げて頂いてもよろしいですか?」



その、改まったような敬語に、男は不気味にも思ったが、すぐに気にせず、名乗ることにした。



「『鬼神衆(アスラ)』所属、『桜坂(さくらざか)小旗(しょうき)』だ」


「津屋崎家使用人、宗像ノエルです」



戦闘開始。



〈観察中断〉

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