カラクリ(絡繰)
カラクリとは、
日本特有の自律型機動人形。外国ではアンドロイドと呼ぶが、日本の機動人形は、カラクリと呼ばれている事が多い。
「っ!」
自律型機動人形・『神楽』は、敵対組織に対する秘密兵器として、この組織に飼われていた。
この『神楽』一機だけで、十人馬力の力を有しており、誰もこの組織に逆らうものは居なくなった。そのおかげで、この組織は、頂点に上り詰めたのだろう。
そして、木彫は運が悪かった。
相手は、半永久的に駆動する殺戮兵器なのだから。
「『一線』」
『神楽』の口がぱかりと開き、そこから長槍が飛び出す。
咄嗟に、その長槍をかわし、距離を置く木彫。
「(……ここは一時撤退だ。今の俺には、持ち物が足りなさ過ぎる。それに、あの『カラクリ』のことを洗いざらい調べなきゃ駄目だ)」
相手が悪いと判断し、そのまま上階へと逃げ込む。
上の階の窓から、飛び出して脱出しようという考えだ。
「『三戟』」
上の階の廊下まで来た瞬間に、床から長槍が飛び出し、行く手を阻んだ。
乗り越えようとしても、隙間を埋められ、長槍が天井まで突き刺さっている。
仕方なく、ここで木彫は突破を諦め、『神楽』を迎え討つ事を決めた。
「(拳銃の弾丸数は五つ、これだけで決まらなかったら、こいつを使うしかないな)」
そう黙考していると、階段から『神楽』が現れる。
片手には、日本刀が握られていた。
「拳銃相手には刀、ってか。そりゃ心強いだろうけど、一つ先人の言葉を教えてやるぜ。『銃は剣より強し』。ってやつだ!」
ばん!と前置きなく、早撃ちガンマンさながらの動きで、『神楽』に向けて発砲する。
その重い弾丸を、『神楽』は手慣れた動きで弾く、
そしてそのまま、素早い動きで木彫に距離を詰めていき、刀を振り下ろした。
「無駄ってやつかよ!」
かわすにも、『神楽』の動きは早過ぎた。
木彫はかわす事は出来ないと判断し、自身の持つアタッシュケースを、盾にして刀を防いだ。
「……?」
刀の刃が通らないことに、『神楽』は人間らしく、首を傾げていた。
「……少しはあっと驚いただろ。こいつは特殊な金属を用いたアタッシュケースでな。ダンプに踏まれてもびくともしない硬さだぜ」
そう言って、零距離の『神楽』に銃口を向け、発砲した。
がん!と音をさせ、床に転がる『神楽』。
転がりながら、すぐに起き上がる。額に弾丸が突き刺さっており、眉間あたり剥がれた塗装の下には、銀色の装甲が見える。
「ぎぎ、損傷十五、パーセント。全力で、まっ、殺、『二刃』」
手のひらから、ぎらりと不気味に光る刃を出し、びゅん、と振るった。
「……っ!?」
あまりの早い動きに、木彫は拳銃が斬れたことにも気づかなかった。
銃身が真っ二つに斬られ、もはや拳銃としてはもう使い物にならず、そこらへんに捨てる。
これでもう手元には、『神楽』と渡り合える武器を持ち合わせていない。
もはや、万事休す。
しかし、本人は全く、追い込まれたと思ってはいなかった。
彼は今、迷っていた。
『これ』を使うか、使うまいかを。
だが『神楽』は、そんな木彫を気にかけることはない。
常に侵入者は、即、抹殺である。
「まっ、殺!」
日本刀と刃を交差させ、木彫に斬りかかり、
ぎらりとした輝きをするその刃を、木彫の身体へと流した。
耳に入ったのは、肉が裂けた音では無かった。
その変わりに、耳を少しだけつんざくような高い金属音が響く、
そのあとに、からーん。と金属が床に落ちる音をさせた。
「……!」
ここで初めて、『神楽』は目を見開かせて、驚いた。
何故かと言えば、『神楽』の持っている日本刀、
刀身が途中から、斬られたように真ん中からへし折られていた。
切っ先は、床に転がっている。
「……やっと驚いたか?『カラクリ』でも驚くことがあるんだな」
『神楽』は思わず、木彫から距離を置いた。
木彫の手から伸びる、黒い剣を見て、危険と判断したのだ。
「『戦闘型義手・漆黒銅剣』、新宮工具店お手製だぜ」
ぶん!と黒い剣を振るう。
剣は木彫の右手のひらの、手首近くから出ていて、
その右手も、普通の人間の手ではなく、機械のような黒色の義手だった。
「…………」
「俺の両手が義手だとは思わなかったのか?流石に『カラクリ』も、服の上じゃあ解らないか」
まぁ、どっちでもいい。
黒い剣の切っ先を、『神楽』に向ける。
「来いよ『カラクリ』。お前のその、自慢の身体をズタズタの鉄クズにしてやるぜ」
趣味が人間観察の木彫らしからぬ台詞だが、これが彼の本来の実力で、本来のやり方だ。
情報屋とは、情報を売る仕事。それはもっと言えば、極秘で機密の情報をも、知り得なきゃいけない。
しかし、機密性の高い情報を得るにも、リスクも同時に受ける。死ぬ場合もある。
だからこそ、情報屋はそのリスクに立ち向かえる程の実力を、持ち合わせていなければならない。
なので、木彫があそこまで強いのは、ごく自然で、普通なのである。
「……戦闘レベル最大。セーフティロック解除。抹殺完了率、百。完全に抹殺すべく、『塞終兵期』を展開」
そう言うと、『神楽』の両手の袖から、銃身や刀剣が飛び出し、襟からも銃身を出す。
「……なるほど、そいつがお前の本気ってか?いいねぇ。全部鉄くずにして売り飛ばしてやるぜ」
木彫は黒い剣を振るい、『神楽』は銃身を向け、刃を振るう。
「まっ、殺!」
「いいや、お前が死ね!」
貝塚木彫と、『カラクリ・神楽』が起こした激戦は、その組織のアジトであるコンクリートビルが、警察が動く程の大破を物語らせ、
勝敗は、『監察官』貝塚木彫に軍配が上がった。
そして、警察が来た頃には、木彫と『神楽』は姿を消しており、
ほぼ廃墟同然となったコンクリートビルで、カエルのように伸びていた男たちが見つかった。
それからしばらく、警察がその組織の悪行を暴き、組織の連中は仲良く牢屋に入ったのだ。
結局木彫の得た情報や、得るために費やした苦労は、全て無駄で無価値となったが、
それと同時に、ある村へと導かれるきっかけになるのだった。
〈観察中断〉