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田舎から来た緑髪チート少女、街のダンジョンで百合ハーレム始めました  作者: タルタロス


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第49話:謁見と褒美

 車輪が石畳を噛む音が、重苦しい静寂を刻んでいた。

 迷宮都市の象徴たる「ラビリンスホルド城」。夕日に染まる白亜の巨城は、眼下に広がる街を見下ろすようにそびえ立っている。

 城へと続く長く緩やかな坂道を、一両の豪奢な馬車が進んでいた。


 車内の空気は、甘く、重く、そしてどこか熱を帯びて澱んでいた。

 座席に座る六人の少女たちは、いつもの機能的な冒険者装備ではなく、王都から取り寄せた最高級のドレスに身を包んでいる。


「……くっ、……暑いな」


 向かいの席で、セリアが低く呻き、襟元を指で広げようとした。

 彼女が纏っているのは濃紺の軍礼装風ドレスだ。厚手のベルベット生地は高級感に溢れているが、今の彼女にとっては拘束具でしかない。首元まで厳格に詰まった立ち襟が、汗ばんだ白い肌に張り付いている。


「この馬車、空気が薄いんじゃないか? どうも息苦しくて敵わん」


 セリアがぶっきらぼうに吐き捨てる。その口調はいつものように気丈に振る舞おうとしているが、頬は微かに紅潮し、背筋は定規で測ったようにピンと伸びている。

 無理もない。彼女たちの身体には、昨夜の記憶と感覚がまだ鮮明に刻み込まれているのだ。

 領主の娘レティシアに振る舞われた「特製魔力ポンチ」。その副作用による身体の火照りは、一晩経っても完全には引いていない。慣れない正装で皮膚を圧迫されたことで、逃げ場を失った熱が内側に籠もっているのだ。


 アリサは、自分の膝の上に置かれた手を見つめた。

 深い緑色の髪をまとめ上げ、真紅のイブニングドレスを着ている。背中が大きく開いたデザインだが、そこを流れる空気さえも生暖かく感じる。

 隣に座るミオの甘い体臭。斜め向かいのルナから漂う芳醇な香水の香り。それらが混ざり合い、鼻腔をくすぐるたびに、アリサの脳裏には昨夜の光景がフラッシュバックした。


(……ダメ。思い出したら、余計に熱くなる)


 アリサが必死に理性を保とうと太ももに力を入れた、その時だった。


「……可愛いねえ。そんなに我慢しちゃってさ」


 粘り気のある、甘く危険な声が耳元で響いた。

 一番奥の席に座っていたはずのカリスが、いつの間にかアリサの隣に身体を寄せていた。

 彼女だけはドレスではなく、いつもの黒いゴスロリ衣装だ。「影の護衛」として同乗している彼女は、真紅のツインテールを揺らしながら、愉悦に歪んだ瞳でアリサを覗き込んでいる。


「カ、カリスさん……? 近いです」

「近い? 昨日はもっとくっついていたのに?」


 カリスは猫のようにしなやかな動作で、アリサの二の腕を指先でツーっとなぞった。冷たい指先が、火照った肌に吸い付くように這う。


「君、すごい匂いがするよ。……ドレスの中で、相当蒸れてるんじゃない?」

「っ……! や、やめてください……みんなが見てますから」

「見てないよ。みんな自分のことで精一杯さ。……だから、ボクだけが知ってるんだ。君が今、このドレスを脱ぎ捨てて、セリアたちに飛びつきたくてウズウズしてるってことをね」


 カリスは楽しげに喉を鳴らし、テーブルの下でアリサの太ももをそっと掴んだ。

 Aランク暗殺者である彼女にとって、この車内の緊張感など退屈しのぎにもならない。彼女の興味はただ一点、欲望と理性の狭間で揺れるアリサの「必死な顔」を愛でることにあるのだ。


「いい子だ。……その飢えた目、ゾクゾクするよ」


 カリスは短く囁くと、満足げに身体を離した。

 アリサは大きく息を吐き出し、震える手でドレスの裾を握りしめた。


「アリサちゃん……私、なんだか暑くて……ドレスの中、汗ですごいことになっちゃってるよ……」


 今度は反対側から、甘ったるい声がした。

 ミオだ。彼女は涙目で訴えながら、アリサの腕にぎゅっとしがみついてきた。

 金髪が汗で額に張り付き、熱を帯びた豊満な胸が、アリサの二の腕にむにゅりと押し当てられる。


「っ! ミ、ミオさん!?」

「んぅ……アリサちゃん、冷たくて気持ちいい……。もっとくっついていい?」


 ミオは無自覚に身体を擦り付けてくる。薄いドレス越しに伝わる、彼女の柔らかさと高すぎる体温。

 アリサは息を呑んだ。右からはカリスの甘い挑発、左からはミオの無自覚な誘惑。理性が焼き切れる寸前だった。


「あらあら、二人とも。もう少しの辛抱よ」


 ゆったりとした、鈴を転がすような優しい声が響いた。

 ルナだ。

 紫のシルクドレスに身を包んだ彼女は、聖母のような穏やかな微笑みを浮かべている。豊満な肢体を上品に包み込んだその姿は、この場にいる誰よりも落ち着いて見えた。


「みんな、初めての謁見で緊張しているのね。……大丈夫、私たちは『フローレシア』。胸を張っていきましょう」


 ルナの言葉には、不思議と場を落ち着かせる包容力があった。彼女こそが、この個性的なパーティを影で支える精神的支柱なのだ。


     *


 馬車が止まり、重厚な城門が開かれる音が腹の底に響いた。

 案内された「謁見の間」は、天井が見えないほど高く、最奥の玉座にはラビリンスホルド伯爵が座っていた。

 鋼のような銀髪、鷲のような鋭い眼光。鎧を着ていなくても、その身から発せられる覇気だけで肌がピリピリと痛む。

 六人は玉座の前に進み出ると、流れるような所作で跪き、頭を垂れた。


「面を上げよ」


 重厚な声が広間に反響する。

 顔を上げると、伯爵の視線がゆっくりと六人を巡回した。


「よくぞ参った、フローレシア。そして、影のカリスも」

「はっ……お目通り叶い、光栄の至りに存じます」


 セリアが応えた瞬間、空気が変わった。

 先ほどまでのぶっきらぼうな口調は鳴りを潜め、そこには洗練された礼儀作法を身につけた、完璧な淑女の言葉があった。

 深く頭を下げ、指先まで神経の行き届いた所作。それは、彼女がかつて名門貴族のメイドとして仕込まれた技術の結晶だった。


 伯爵は深く頷き、感嘆の息を漏らした。


「娘から、全てを聞いている。……凶悪な魔物に対し、装備の大半を溶解されながらも、なお一歩も退くことなく、自らの身を盾として娘を守り抜いたそうだな」


 セリアの喉がごくりと鳴る。

 アリサの心臓も早鐘を打つ。あの全裸での逃走劇が、一体どう伝わっているのか。


「防具を失うことなど恐れず、己の肉体のみを武器として立ち向かう。その『羞恥を捨て、任務を全うせんとする不退転の覚悟』……真の冒険者の姿を、そこに見た思いだ」


 ……え?

 アリサは思わず瞬きをした。

 違う。そうではない。あれは覚悟などという高尚なものではなく、単なるパニックと不可抗力だった。

 だが、伯爵の瞳は一点の曇りもなく彼女たちを称賛している。その真っ直ぐすぎる誤解が、逆に彼女たちの胸に鋭く突き刺さった。


 恥ずかしい。死ぬほど恥ずかしい。

 セリアの耳が真っ赤に染まっていくのが分かる。だが、彼女は決して顔を背けなかった。羞恥に震えながらも、毅然とした態度を崩さない。


「も、勿体なきお言葉……恐縮に存じます。我らはただ、為すべきことを為したまでにございます」


 震える声だが、言葉遣いは完璧だ。そのギャップが、彼女のいじらしさを際立たせていた。


「そこで、我が家からの礼だ」


 伯爵が合図を送ると、重厚な黒塗りの木箱が運ばれてきた。

 蓋が開かれると、謁見の間に「ほう」という感嘆の吐息が漏れた。

 箱の中に収められていたのは、武具という概念を覆すほどに美しく、そして異質な輝きを放つ装備の一式だった。


 深い夜空のような色をした漆黒の革。星屑のように煌めく、極細の銀色の鎖。

 名付けて『聖守護者の礼装アーク・ガーディアン』。


「伝説の魔法金属『ミスリル・オリハルコン』を糸状に加工し、最高級の『夢魔の絹』と組み合わせた。……お前たちの美しさと強さを、より際立たせるデザインにしたつもりだ」


 セリア用と思われる装備は、彼女の剣士としての機動力を殺さないライトアーマーだが、太ももや腰回りの可動域を確保するために大胆なカットが施されている。

 アリサ用のものは、背中が大きく開放されたコルセット型の鎧。

 エレナ用の装備に至っては、青い宝石が埋め込まれたベルトと、最低限のプレートのみで構成されており、彼女の「肌で空気を感じる」特性を最大限に活かす設計だ。


「気に入ったか?」


 伯爵の問いに、セリアは一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに完璧な礼で応えた。


「はい……! このような素晴らしい武具を賜り、身に余る光栄でございます。我らフローレシア、この御恩に報いるためにも、身命を賭して迷宮都市の平和を守り抜く所存です」


 カリスもまた、箱の隅に置かれた黒い短剣を手に取り、刀身の輝きを静かに確認した。


「……悪くないね。これなら、いい仕事ができそうだ」


 カリスは短く呟き、不敵な笑みを浮かべた。

 過剰なギミックも、無意味な装飾もない。ただ純粋に、彼女たちの「個」としての強さを極限まで高めるために作られた、最高級の贈り物。それが、伯爵からの信頼の証だった。


「お父様! 皆様、喜んでくださっていますわ!」


 玉座の脇から、レティシアが純白のドレスを揺らして駆け寄ってきた。

 天使のように無邪気な笑顔。彼女の善意には一点の曇りもない。昨夜の騒動も、彼女なりの優しさだったのだと思うと、アリサたちの胸の内にあったわだかまりも溶けていくようだった。


     *


 謁見を終えた一行は、そのまま城の空中庭園へと招かれた。

 白いクロスが掛けられた円卓には、豪華な料理が次々と運ばれてくる。月明かりと魔導ランタンの光が、ドレス姿の少女たちを美しく照らし出していた。


「さあ、堅苦しい挨拶は抜きだ。今夜は私の客人として、心ゆくまで楽しんでくれ」


 上座の伯爵がワイングラスを掲げる。

 緊張から解放された少女たちの表情は、柔らかく解れていた。


「……んんぅ、おいしい! このお肉、口の中でとろけちゃうよ!」


 ミオが頬を膨らませて歓声を上げる。口元にソースがついているのも気にせず、幸せそうに咀嚼する姿は小動物のようだ。


「あらあら、ミオちゃんったら。お口についてるわよ」


 ルナが苦笑しながら、ナプキンで優しくミオの口元を拭ってやる。

 まるで母親が子供の世話を焼くような、自然で温かい手つきだ。


「ふふ、いっぱいお食べ。今日は戦いもないんだから、ゆっくりしていいのよ」

「えへへ、ありがとう。ルナちゃんも食べてね!」

「ええ、いただくわ」


 ルナは優雅に微笑み、グラスを揺らす。みんなが美味しそうに食事をする様子を、彼女は本当に嬉しそうに見守っている。


 エレナは、慣れないフォークとナイフに苦戦しながらも、目の前の料理に夢中だ。一口食べるたびに「んっ……」と小さな声を漏らし、美味しいという感覚を全身で味わっている。


「……平和だな」


 アリサは小さく呟き、夜空を見上げた。

 隣に座るセリアが、グラスを置いて静かに同意する。

 謁見の時の完璧な淑女の姿は消え、いつものぶっきらぼうだが信頼できるリーダーの顔に戻っていた。


「ああ。……こんな時間は久しぶりだ。いつも泥と血に塗れてばかりだったからな」


その時だった。


「皆様ーっ!」


 庭園の入口から、鈴を転がすような高い声が響いた。

 純白のフリルドレスに身を包んだ少女が、小走りでこちらへ向かってくる。領主の娘、レティシアだ。

 彼女はアリサたちのテーブルまで駆け寄ると、息を弾ませながら満面の笑みを咲かせた。


「間に合ってよかったですわ! お父様のお話が長引いているんじゃないかって心配で……!」


 天使のように無邪気な笑顔。その背後からメイドたちがワゴンを押して現れる。ワゴンには見たことのある色の液体が入ったボトルが並んでいる。


「昨日は助けていただいて、本当にありがとうございました! これ、私からのお礼です!」


 レティシアが差し出したボトルを見て、セリアとミオの顔が一瞬引きつった。

 昨日のあのポンチの色だ。


「あ、あの……レティシア様? これは……?」 「ふふっ、ご安心ください! 昨日の反省を活かして、今回はアルコールも強壮成分も抜いてありますの!

 ただの美味しいフルーツジュースですわ!」


 レティシアは自信満々に胸を張る。

 セリアはおずおずとグラスを受け取り、一口だけ口をつけた。


「……! うまい」

「でしょう!? これなら安心して飲んでいただけますわよね!」


 レティシアはアリサの手をきゅっと握った。その手は小さくて温かい。


「アリサ様、あの時の斧の一撃、本当にかっこよかったですわ! 私、ファンになってしまいましたの!」

「ふ、ファンだなんて……」

「またお城に遊びにいらしてくださいね! 今度はもっと楽しいお茶会をしましょう! お菓子もたくさん用意しておきますから!」


 レティシアの真っ直ぐな好意に、アリサの胸の奥にあったわだかまりが完全に溶けていく。

 彼女は本当に、ただ純粋にみんなと仲良くなりたかっただけなのだ。少しばかり加減を知らなかっただけで。


「はい、ぜひ。……楽しみにしてます」

「約束ですわよ!」


 レティシアは満足そうに微笑むと、他のメンバー一人ひとりにも丁寧にお礼を言い、名残惜しそうにメイドに連れられて去っていった。

 嵐のような、しかし温かい風が過ぎ去った後のテーブルに、和やかな空気が残った。


「……本当に、憎めないお嬢様だな」


 セリアが苦笑しながらグラスを傾ける。



     *


 宴がお開きになり、六人は用意された客室へと戻った。

 貴族が使うような広々としたスイートルームの中央には、先ほどの木箱が鎮座している。


「……さて。改めて、確認するか」


 セリアが鍵を掛け、振り返った。

 その瞳には、戦士としての真剣な光が戻っている。ドレスの窮屈さから解放されたいという欲求と、新しい力を試したいという好奇心が、部屋の空気を熱くしていた。


 ミオが真っ先に自分の装備を手に取った。

 金色の魔道衣。光にかざすと透けるほど薄いが、触れると確かな魔力の脈動を感じる。


「わぁ……これ、すごいですぅ! 袖を通しただけで、魔力が身体に吸い付くみたいです!」


 ルナもまた、紫色のローブを手に取り、その手触りを確認している。


「あら、ミスリルの鎖帷子が、まるで絹のように柔らかいわ。これなら、詠唱の邪魔にもならないでしょうね」


 セリアが、自分の紺色の軽装鎧を抱きしめるように持っている。

 彼女はアリサの方を向き、少し躊躇いながら、けれど信頼を込めた瞳で言った。


「アリサ。……手伝ってくれるか? この留め具、一人じゃ難しそうだ」


 その言葉は、アリサにとって何よりの招待状だった。


「はい、喜んで」


 アリサは一歩踏み出す。

 ドレスを脱ぎ捨て、真新しい「皮膜」を纏う瞬間。それは、彼女たちが「ただの少女」から、迷宮都市最強の「戦乙女」へと変貌する儀式となるだろう。

 そしてその夜は、互いの新しい姿を確かめ合い、称え合う、長く甘い夜になる予感がしていた。


 月光が窓から差し込み、六人のシルエットを美しく照らし出している。

 白亜の城の夜は、まだ始まったばかりだ。

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