第41話:暴発する善意
翌朝。
ダンジョンの冷たい空気を切り裂くように、元気な声が響き渡った。
「皆様! 朝ですわよ! 今日こそは、わたくしも活躍してみせますわ!」
レティシアだ。
彼女は夜明け前から起きていたようで、純白のドレスを完璧に着こなし、やる気満々でテントの入り口をバサバサと叩いている。
「……うぅ」
テントの中、泥のように絡み合って眠っていたアリサは、その声にビクリと震えて目を覚ました。
最悪の目覚めだ。
現状を確認する。
全裸。
隣にはセリア、ミオ、ルナ、そしてエレナ。
全員が糸の切れた人形のように四肢を投げ出し、肌には昨夜の情事の痕跡――汗と熱い雫が乾いた跡や、キスマークが無数に残っている。
空気はむせ返るような「情事の残り香」で充満していた。
この状態で、もし張り切った令嬢に入ってこられたら、純潔な貴族の令嬢に見せてはいけないものを見せた罪で、市中引き回しの上、打首獄門だ。
「ま、まだ準備中です! 開けないでください!」
アリサが裏返った声で叫ぶ。
セリアたちも飛び起きた。状況を理解し、顔面蒼白になる。
「あら、そうですの? 執事が美味しい紅茶を淹れましたの。冷めないうちにと思って……」
レティシアの無邪気な声が、薄い布一枚向こうから響く。
近い。鼻先数センチのところに、純潔な令嬢がいる。
こちらの「乱れ」が匂いでバレるのではないかと、冷や汗が吹き出す。
「す、すぐに支度します! 五分……いや、三分待ってください!」
セリアが声を張り上げる。
そこからは地獄の早着替えだった。
昨夜脱ぎ捨てた、汚れと汗の染み込んだメイド服を拾い上げる。
湿っている。冷たい。
それを、シャワーも浴びていないベタベタの肌に直接着込む。
不快指数が限界を突破する。
下着はない。心許ない状態で布を纏う。
布が肌に触れるたびに、昨夜カリスや仲間たちに愛された肌がビクンと反応する。
「……匂い、大丈夫かしら」
ルナが自分の胸元の匂いを嗅ぐ。
「消臭魔法!」
ミオが杖を振り回し、気休めの風を起こす。
五人は逃げるようにテントから這い出した。
*
外には、爽やかな笑顔のレティシアが待っていた。
純白のドレスには埃一つついていない。
対して、五人は目の下に隈を作り、髪は乱れ、服のあちこちが着崩れている。
そして何より、隠しきれない色香が全身から立ち上っていた。
「おはようございます! まあ、皆様、お顔が赤いですわ。……テントの中、暑かったのですか?」
レティシアが首を傾げる。
「え、ええ……とても、蒸し暑くて……」
アリサが視線を逸らす。嘘ではない。熱気と湿気と、嬌声で満たされた熱帯夜だった。
「大変でしたわね。……あ、アリサ様。首元に虫刺されが……」
レティシアの手が伸びてくる。
アリサの首筋に残る、赤いキスマーク。昨夜、セリアが執拗に吸い付いた跡だ。
「ひっ! さ、触らないでください!」
アリサが過剰に反応して飛び退く。
レティシアが目を丸くする。
「ご、ごめんなさい。痛むのですか?」
「い、いえ! 伝染るといけませんので!」
苦し紛れの嘘。
だが、レティシアは納得したように頷いた。
「さすがプロの冒険者様。護衛対象への配慮が完璧ですわ!」
騎士たちが、後ろで気まずそうに咳払いをした。
彼らは分かっている。その赤い斑点が、虫刺されなどではないことを。
*
二日目の行程。
一行は六階層を進んでいた。
規則正しく積まれた石造りの壁と床が続く、典型的なダンジョンの回廊だ。
松明の光が届かない場所は深い闇に包まれている。
セリアを先頭に、慎重に進む。
カリスは最後尾で、あくびを噛み殺しながらついてきている。
「……静かね」
ルナが呟く。
魔物の気配がない。静かすぎる。
アリサのスカートの中、頼りない太ももの付け根が、予感に震えるようにキュッと縮こまった。
その時だった。
ヒュオッ!
唐突に、風が吹いた。
閉鎖された地下通路で、吹くはずのない突風。
「きゃあっ!」
ミオが悲鳴を上げる。
下から吹き上げる不自然な風が、軽いフリルのスカートを捲り上げたのだ。
バサッ。
腰まで。
透けたドロワーズと、その下にある白い柔肌が、一瞬にして露わになる。
後ろを歩く騎士たちが、反射的に視線を向け、そして慌てて逸らす。
「な、何なの? 今の風!」
ミオがスカートを押さえる。
だが、風は止まない。
今度は横から。
ルナの胸元を狙い撃つような風圧。
メイド服の襟がはだけ、豊かな谷間がこぼれ落ちそうになる。
「うぅ……! 服の中に、風が入ってきます……!」
自然現象ではない。明確な「悪意」を持った風だ。
「敵襲!」
セリアが叫ぶ。
剣を抜くが、敵の姿が見えない。
シュッ、シュッ。
風切り音と共に、アリサの二の腕に赤い線が走る。
切り傷。見えない刃が、肌を掠めたのだ。
「姿が見えない!? 『インビジブル・ストーカー』か!」
セリアが周囲を睨む。
風の精霊の亜種。実体を持たず、風に紛れて獲物を切り刻む厄介な魔物だ。
そして彼らの性質は、獲物をすぐに殺すことではない。
衣服を切り裂き、恐怖と羞恥を与えて甚振ることにある。
ヒュンッ!
また風が吹く。
今度はセリアを狙った。
ロングスカートのスリットが、風に煽られて限界まで開く。
太腿の付け根、黒いガーターベルト、そしてその奥の無防備なデルタ地帯までもが、一瞬だけ外気に晒される。
「っ……!」
セリアが顔を赤くして足を閉じる。
だが、見えない敵は、その恥じらう姿を見て嘲笑うように、さらに風を強める。
「お嬢様を守れ! 円陣!」
騎士団長が叫ぶ。
騎士たちが盾を構え、レティシアを囲む。
だが、風は盾の隙間をすり抜け、レティシアのドレスを悪戯に揺らす。
「きゃあ! スカートが!」
レティシアが楽しそうに悲鳴を上げる。
彼女にとっては、これもアトラクションの一環のようだ。
だが、『フローレシア』にとっては死活問題だ。
このままでは、なぶり殺しにされる前に、裸同然にされ、公衆の面前で晒し者にされる。
「くっ……! どこだ!」
アリサが斧を構えるが、手応えがない。
その隙に、見えない手がアリサのお尻を撫でた。
ゾワッ。
冷たい風の手。
エプロンの上からではなく、下から。
直接、生のお尻の肉を掴み、揉みしだくような風圧。
「ひゃぅッ! な、なに……!?」
アリサが腰を砕かれ、膝をつく。
攻撃ではない。セクハラだ。
冷たい風が、太ももの付け根を愛撫するように吹き抜ける。
乾燥と刺激。昨夜の開発で敏感になっている場所を、ピンポイントで攻めてくる。
「エレナ! 盗賊の勘で探知できないか!?」
セリアが叫ぶ。
盗賊職のエレナなら、空気の揺らぎや殺気を感じ取れるはずだ。
「……ッ、ダメです! 風の音が邪魔で……きゃあッ!」
影に潜んで隙をうかがっていたエレナが、何もない空間から弾き飛ばされた。
彼女の衣装は、メイド服とは名ばかりの、青いエプロンと極小の布きれを組み合わせただけの代物だ。
その背中の紐が、見えない刃で切断された。
ハラリ、と胸当てが落ちかけ、慌てて手で押さえる。
彼女の身軽さも、風には通用しない。
むしろ、極限まで露出した白い肌は、風の格好の標的だった。
「ミオ! 広範囲魔法だ!」
「む、無理だよぉ! どこにいるか分からないもん!」
ミオが泣き叫びながら、片手で胸を隠し、もう片手でスカートを押さえる。
その無防備な姿が、風の精霊をさらに刺激する。
ビュオオッ!
突風がミオの股間を直撃した。
「あぁッ……! 中……風が入ってくるぅ……!」
薄いドロワーズが肌に張り付き、食い込む。
その形がくっきりと浮き上がる。
その時だった。
レティシアが前に出た。
「皆様! 今こそわたくしの出番ですわ!」
レティシアが高らかに杖を掲げる。
「敵が見えないのが問題なのですわよね? でしたら、この魔法ですべて解決します!」
嫌な予感がした。
セリアが止めようと手を伸ばす。
「ま、待てレティシア様! 何を――」
「『風よ、嵐となりて地に平伏せよ! ダウンバースト・プリズン!』」
レティシアが放ったのは、広範囲に高気圧の爆風を叩きつける、貴族秘伝の上級風魔法だった。
彼女の狙いは、風の圧力で空間を制圧し、魔物の動きを封じること。
理論上は正しい。
だが、彼女は一つだけ計算違いをしていた。
彼女の魔法の威力(魔力量)が、桁外れに強すぎたこと。
そして、その爆風の中心に、最も守るべき『フローレシア』の五人がいたことを。
ドォォォォォォォン!!
爆音が響く。
魔物どころではない。
巨大なハンマーで叩かれたような猛烈な気圧が、五人の頭上から直撃した。
「きゃああああああああああ!」
五人の悲鳴が重なる。
逃げることも、防御することもできない。
圧倒的な風圧が、彼女たちを地面に縫い付けた。
そして、悲劇が起きた。
上からの強烈な風圧は、彼女たちの着ている「布」に対し、残酷な作用をもたらしたのだ。
垂直に吹き付ける風が、スカートを地面に押し付け、逆に裾を跳ね上げる。
ミオのフリルたっぷりのスカートが、風圧で一気に腰まで捲れ上がった。
ルナの胸元のボタンがすべて弾け飛び、左右に大きくはだけた。
セリアのロングスカートは地面に張り付き、スリットが限界まで裂けた。
全員が、四つん這いか、あるいは地面に這いつくばる体勢で固定される。
動けない。指一本動かせないほどの重圧。
石畳の冷たさが、胸や太腿に直接伝わる。
中でも悲惨だったのはエレナだ。
彼女は盗賊特有の低い姿勢を取ろうとしていたため、中腰の姿勢で固められてしまった。
風圧で頭を下げさせられ、結果としてお尻を高く突き上げる「バック」の体勢で固定される。
極小のマイクロミニスカートがめくれ上がり、紐だけのボトムがあらわになる。
白いお尻の肉が、風圧でプルプルと震えているのが丸見えだ。
「やっ……! こんな格好……見ないで……!」
エレナが涙声で訴えるが、騎士たちの視線は彼女の無防備な腰回りに釘付けだ。
「や、やった! 成功ですわ! 魔物の動きが止まりました!」
レティシアが無邪気に喜ぶ。
「うぅ……っ! お、お嬢様……魔法を……解いて……!」
アリサが呻く。
彼女もまた、最も屈辱的な体勢で固まっていた。
四つん這いでお尻を突き出し、エプロンとスカートが背中に張り付いている。
下半身丸出しだ。
下着をつけていない、真っ白なお尻。
そして、昨夜の情事で敏感になっている太ももの内側が、後ろの騎士団に向けて完全に公開されていた。
空気の圧力で、柔らかな肉が強制的に広げられている感覚がある。
そこから、透明な雫がたらりと垂れ落ちる。
「あっ……ああっ……!」
アリサは泣きそうだった。
後ろからの視線が熱い。
騎士たちが息を呑み、そしてゴクリと喉を鳴らす音が、風の轟音に混じって聞こえる。
見られている。一番恥ずかしい場所を。隅々まで。
さらに悪いことに、吹き飛ばされたはずの『インビジブル・ストーカー』たちが、この状況を好機と見て戻ってきた。
彼らは風の精霊だ。レティシアの起こした乱気流は、彼らにとって最高の遊び場だった。
風圧で動けない五人は、彼らにとって極上の玩具だ。
ヌルッ。
アリサのお尻に、冷たい風の手が触れた。
風圧で固定されているため、逃げられない。
見えない指が、左右のお尻の肉を強引に開きにかかる。
ギリギリと皮膚が引っ張られる。
「ひギッ!? や、やめ……!」
アリサが悲鳴を上げるが、風圧で声がかき消される。
騎士たちの目の前で。
見えない何かに、お尻を広げられ、際どい場所を覗かれている。
空気の指が、ヌプッ、と一番敏感な場所を圧迫した。
「んギィッ!!!」
アリサが白目を剥く。
異物感。冷たい風が、奥深くまで震わせる。
昨夜カリスに開発され、敏感になっている場所に、ザラついた風の粒子が擦り付けられる。
エレナも餌食になった。
突き出したお尻の膨らみに、鋭い風が吹き込む。
極小の紐パンが横にずらされ、大切な場所が露わになる。
「あぐっ……! そこ……っ!」
見えない舌のような風が、エレナの太ももの内側を舐め上げる。
冷たさと、擦れる熱さ。
普段は影に隠れている盗賊が、最も恥ずかしい姿で、最も激しく弄ばれている。
隣ではセリアが、仰向けに大の字で張り付けられていた。
スカートは捲れ上がり、黒いガーターベルトと、白い柔肌が天井(と騎士たちの視線)に晒されている。
彼女の上にも、見えない魔物が乗っかっていた。
胸を揉まれ、太ももの付け根をまさぐられている。
セリアは必死に首を振って抵抗しようとするが、風圧で体はピクリとも動かない。
ただ、快感と恥辱に喘ぐ顔を晒すことしかできない。
「くっ……んぁっ! 見……見るな……!」
セリアが騎士たちに向かって呻くが、その声は甘く震えている。
騎士たちは誰も目を逸らさない。いや、逸らせないのだ。
普段は高潔なリーダーが、手足を広げて固定され、見えない何かに組み敷かれて悶えている姿。
その太ももの間からは、透明な雫がとめどなく溢れ出し、石畳に水たまりを作っている。
ミオとルナも同様だった。
ミオはお尻を突き出した状態で、ルナは胸を突き出した状態で固定され、それぞれの性感帯を重点的に攻められていた。
風圧の拘束具。そして不可視の愛撫者。
レティシアの魔法は、完璧な拷問装置として機能していた。
「皆様? どうされましたの? そんなに震えて……」
レティシアが近づいてくる。
暴風の中を、優雅に。
彼女の周囲だけ、風が凪いでいた。
術者である彼女は『台風の目』。
彼女が歩く場所だけが、魔法の影響を受けない安全地帯なのだ。
だからこそ、彼女のドレスは乱れもしない。
だが、それが仇となった。
レティシアが近づくにつれ、彼女の周囲の「無風地帯」と、アリサたちを押し潰す「高気圧」の間に、猛烈な気圧差が生じたのだ。
レティシアが、アリサのすぐ後ろに立つ。
その瞬間。
シュゴオオオオオッ!
気圧差によって発生した吸引力が、掃除機のようにアリサの際どい場所に作用した。
「あ、あ、あああああああッ!」
アリサが絶叫する。
お尻の谷間と、敏感な場所が、強烈な力で吸い出される。
中の空気が抜かれ、裏返るほどの吸引。
体の芯がひっくり返るような感覚。
同時に、熱い場所の奥深くに溜まっていたものが一気に吸い出された。
「まあ! アリサ様、ここ、すごく濡れていますわ! 汗?」
レティシアが無邪気に指差す。
彼女には、気圧差による拷問が見えていない。
ただ、苦しそうに喘ぐアリサと、その柔らかな場所から滴る大量の液体が見えているだけだ。
「ひィッ! ちがっ、それは……!」
極限の恥辱。
騎士たちの視線。
魔物の指による圧迫。
そして、崇拝する令嬢による無垢な観察と、意図せぬ吸引責め。
キャパシティを超えた刺激に、アリサの脳が真っ白になる。
「あ、あ、だめッ……! もう……ッ!!」
ビクンッ!
アリサの体が大きく跳ねた。
風圧の拘束をも乗り越えるほどの、激しい痙攣。
限界を迎えた場所から、大量の熱い水が噴き出した。
ピューッ。
透明な放物線を描き、レティシアの純白のドレスの裾を濡らす。
「きゃっ! お水!?」
レティシアが驚く。
同時に、セリア、ミオ、ルナ、エレナも限界を迎えた。
吸引効果と風圧のダブルパンチで、全員が同時に極致に達し、白目を剥いてガクガクと震える。
石造りの回廊に、五人の絶叫と、水音が反響する。
カリスは、岩陰で腹を抱えて笑い転げていた。
「あはははは! 傑作! お嬢様、才能あるよ! 最高の調教師だ!」
しばらくして、レティシアの魔力が尽き、風圧が消えた。
五人は糸の切れた人形のように、地面に崩れ落ちた。
全員、ピクピクと痙攣し、服はぐしょ濡れだ。
目は虚ろで、口からは涎が垂れている。
完全に、尊厳を破壊されていた。
「あ……うぅ……」
アリサが涙目でスカートを引き寄せ、隠そうとするが、もう手遅れだ。
騎士たちは全員、その光景を目に焼き付けていた。
彼らの記憶に、淫らな英雄たちの姿が永遠に刻まれた。
「皆様……大丈夫ですの? 魔物は倒せまして?」
レティシアがきょとんとして尋ねる。
彼女だけが、自分が何をしたのか理解していなかった。
この純真な悪魔に、誰も文句を言える者はいなかった。




