第40話:行軍の背徳
スライムの襲撃は、物理的なダメージこそ皆無だったが、精神的な破壊力は甚大だった。
緑色の粘液が、アリサの「正装」――という名の薄布を濡らし、肌に張り付かせている。
特に被害が甚大だったのは、前衛のアリサだ。
エプロンとスカートの中に潜り込んだスライムの残骸が、まだ太腿の付け根にこびりついている。
歩くたびに、冷たくてヌルヌルした塊が体温で温められ、生温かいローションのように敏感な場所を刺激する。
ネチャ、クチュ。
一歩踏み出すたびに、太腿の内側で卑猥な水音が鳴る。
静寂に包まれたダンジョンの石畳の上では、その湿った音は驚くほど鮮明に響いた。
「……うぅ」
アリサは顔を伏せて歩いていた。
足を止めて、スカートを捲り上げ、この不潔な粘液を拭い去りたい。
だが、それはできない。
すぐ後ろには、数十名の屈強な男たち――『白銀騎士団』が行軍しているからだ。
ザッ、ザッ、ザッ。
統率の取れた金属音が、背後から迫ってくる。
彼らの視線が、物理的な質量を持って背中に突き刺さる。
アリサたちの濡れた背中、汗で透けたお尻、そして内股から垂れる粘液の糸を、彼らは兜の奥から凝視している。
決して口には出さない。騎士としての規律があるからだ。
だが、その沈黙こそがいやらしい。
空気の振動で分かる。彼らの荒い鼻息が、アリサの首筋を撫でているような錯覚。
(聞こえてる……絶対、音を聞かれてる……)
恥ずかしい。
けれど、この格好で、この状態で男たちの前を歩くという行為が、昨日カリスに弄ばれた場所をどうしようもなく疼かせる。
粘液が際どい場所を擦る。
その刺激に、アリサ自身から溢れた熱い雫が混ざり合い、太腿を伝ってニーソックスの縁へと垂れ落ちていく。
「すごい……! これが冒険者の戦いなのですね!」
中央を歩くレティシアだけが、興奮冷めやらぬ様子だった。
彼女はスライムに襲われ、喘いでいたアリサの姿を「魔物との死闘」として脳内変換しているらしい。
「あの粘液……魔物の猛毒なのですか? アリサ様、お顔が真っ赤ですわ。苦しいのですか?」
レティシアが心配そうに覗き込み、絹のハンカチを取り出した。
「拭いて差し上げますわ!」
「ひっ! い、いいえ! 大丈夫です!」
アリサが飛び退く。
もし拭かれたら、粘液に混じって、自分から溢れ出た情事の匂いがバレてしまう。甘くて、熱っぽい、火照った女の匂いが。
「これは……熱を放出しているだけで……魔力の一部のようなものですから! 触れると危険です!」
アリサは必死に言い訳をした。本当のことは、口が裂けても言えない。
一行は下層へと進んでいく。
湿度が上がり、空気は澱んでくる。汗が噴き出す。
セリアの黒いロングスカートは、立ち込める湿気と自身の汗で重くなり、スリットから覗く太腿にまとわりつく。
歩くたびに白い肉が波打つのが、後ろから丸見えだ。
彼女は汗を拭うこともできず、ただ背筋を伸ばして歩き続ける。
その凛とした姿勢が、逆に背徳感を煽る。
厳格な騎士然とした態度を取りながら、その下半身は心許ない紐だけなのだから。
「……おい、見たか今の」
「ああ……すげぇ締まりだ……」
「あのガーターベルト、反則だろ……黒い森の奥が見えそうだ」
騎士たちの、極限まで抑えられたひそひそ話が耳に届く。
セリアが剣の柄を握りしめる手が白くなる。
だが、否定はしない。振り返って怒鳴ることもしない。
見られることで興奮する。カリスに植え付けられた「露出の快楽」が、真面目なセリアの理性を蝕んでいる。
*
五階層。
ここが今日のキャンプ予定地だ。
だが、そこには先客がいた。
ゲコッ、ゲコッ。
『ポイズン・トード』。牛ほどの大きさがある巨大な蛙の群れが、水辺を占拠している。
ヌメヌメしたイボだらけの皮膚。黄色い瞳。その数が異常だ。
「きゃっ!」
ミオが悲鳴を上げる。
蛙たちのギョロリとした視線が、ミオの白く透けた太腿や、ルナの今にも零れ落ちそうな豊満な胸に向けられている。
粘着質な視線は、騎士たちのそれよりもさらに直接的で、おぞましい。
「魔物の群れだ! 総員、抜刀!」
騎士団長が叫ぶ。
「待て」
セリアが鋭い声で制止する。
彼女は一歩前に出た。スリットから純白の足が大胆に露出する。
「私たちの仕事だ。……貴殿らは、お嬢様の『最後の盾』として控えていてくれ」
「しかし、この数は……!」
「問題ない。……それに」
セリアが口元だけで笑う。妖艶で、好戦的な笑み。
「ここで良いところを見せないと、ただの露出狂集団だと思われたままだろう?」
セリアが飛び出す。
速い。風を切り裂き、スカートが大きく翻る。
太腿の付け根のきわどいラインまでが露わになるが、彼女は隠さない。
見られることを武器にする。
『炎帝の剣』が一閃。
蛙の巨体が炎に包まれ、悲鳴を上げる間もなく両断される。
飛び散る体液。セリアはそれを避けない。白い肌に緑の血が掛かるが、それすらも彼女を彩る装飾のようだ。
「はぁッ!」
アリサも続く。
蛙が長い舌を伸ばしてくる。狙いはアリサの無防備な腰回りだ。
アリサは紙一重で回避し、その際、大きく足を開脚する。
エプロンが捲れ上がり、紐一本の際どい場所が完全に外気に晒される。
後ろの騎士たちが息を呑む気配がした。
見えたはずだ。濡れて光る太ももの内側と、そこに食い込む細い紐が。
ミオの雷撃、ルナの聖槍、そしてエレナの暗殺剣。
五人の連携は完璧だった。
露出度の高い格好で、肌を揺らし、汗を撒き散らしながら舞う彼女たちは、戦場の花のように美しく、そして致命的だった。
騎士たちは、武器を構えることすら忘れていた。
ただ、魅入っていた。
圧倒的な暴力と、圧倒的なエロス。その融合に、男としての本能が屈服させられていた。
数分後。魔物の群れは全滅していた。
「……ふぅ」
セリアが剣を納める。
汗だくだ。全身から湯気が立ち上っている。
フェロモンの濃度が濃すぎて、空気が甘い。
「素晴らしいですわ!」
レティシアが駆け寄ってくる。
「まるで舞踏会のようでした! セリア様、今の剣捌き、教えていただけます?」
セリアは苦笑するしかなかった。
自分の体には、蛙の血と、自身の汗と、そして漏らした雫が混ざり合って付着している。そんな汚れた体で、純白の令嬢に触れるわけにはいかない。
その時、カリスがスッと二人の間に割って入った。
ハンカチを取り出し、セリアの汗を拭う。
「お疲れ様、リーダーさん。……いい汗かいたね」
カリスの指が、汗ばんだセリアの鎖骨をなぞる。
「っ……! やめろ」
「お嬢様の前だよ? 大人しく拭かれてなよ」
カリスが耳元で囁く。その目は、「夜が楽しみだね」と語っていた。
*
夜営の準備が始まった。
騎士団は広場の入り口側を固める。
中央にはレティシア用の豪華なテント。
そして、アリサたちのテントは、そのすぐ隣。レティシアを最短距離で護衛する位置だ。
つまり、周囲を騎士団のテントに囲まれている。
壁一枚隔てた向こうには、数十人の興奮した男たちがいる。
そして、すぐ隣には純真な令嬢が眠る。
逃げ場のない、密室。
「……最悪の配置だな」
テントの中で、セリアが呻くように呟く。
ランタンの明かりだけが頼りの薄暗い空間。中は蒸し暑い。
汗。粘液。香水。そして濃厚な熱気。
呼吸するだけで、むせ返るような湿度だ。
「お風呂……入りたい……」
ミオが座り込んで、ローブの裾をパタパタさせる。
中は心許ない。太ももの内側が濡れているのが分かる。
「無理よ。水魔法で体を拭くくらいしかできないわ」
ルナが濡れタオルを作る。
五人は車座になって、互いの体を拭き始めた。
万が一の敵襲に備え、服は着たままだ。隙間から手を入れて拭くしかない。
「んっ……」
アリサが声を漏らす。
セリアの手が、エプロンの下、背中を拭いている。
冷たいタオルが心地いいが、セリアの手つきがいやらしい。
腰のくびれを揉むように拭う指が、肉に食い込む。
「セリアさん……力が、強いです……」
「汚れが落ちないんだ。……我慢しろ」
セリアの吐息が荒い。彼女もまた、限界に近いのだ。
カリスが、アリサの正面に座った。
捕食者の目で、ニヤリと笑う。
「アリサちゃん、前は私が拭いてあげる」
「え……自分で……」
「ダメ。隅々まで綺麗にしないと、お嬢様の護衛は務まらないよ?」
カリスの手が、アリサのスカートの中に滑り込む。
タオルを持っていない。素手だ。
冷たい指先が、粘液でベタついた内腿を這い上がる。
「ん……っ!」
アリサがビクリと体を震わせる。
声を出してはいけない。隣のテントにはレティシアがいる。
「ここ、すごい濡れてるね。スライムのせい? それとも……」
カリスが耳元で囁く。
指が柔らかな谷間をなぞる。ヌルリと熱い雫が糸を引く。
否定できない。
昼間の戦闘、騎士たちの視線、レティシアの無垢な接触。
それら全てが刺激となって、アリサの体はずっと昂ったままだったのだ。
カリスの指が、際どい場所を掠める。
直接は触れない。でも、一番いいところのすぐそばを行き来する。
「シッ。……静かにね」
カリスが人差し指を唇に当てる。
「外に聞こえちゃうよ? 騎士様たちが、『何事か』って飛び込んでくるかもね」
脅迫。そして遊戯。
カリスは太ももの付け根を圧迫する。敏感な内側を弾く。
アリサの腰が勝手に浮く。
「んぅ……んんッ……!」
声が漏れる。
セリアが慌ててアリサの後ろから抱きつき、口を塞ぐ。
だが、そのセリアの手も、アリサの胸を揉んでいる。
先端をつまみ、転がす。
「……興奮してるのか、アリサ。こんなに熱くして……私もだ」
セリアの囁き声も震えている。彼女の太腿も、アリサの腰に押し付けられ、擦り合わされている。
連鎖反応。
この空間に充満する熱とフェロモンに、全員が当てられている。
ミオがルナに抱きついている。ルナの豊満な胸に顔を埋め、ハァハァと荒い息を吐いている。
ルナも、顔を真っ赤にして自分の太ももを擦り合わせている。
エレナは、隅で膝を抱え、自分のスカートの中に手を入れている。
クチュ、クチュ、という音が、そこかしこから聞こえる。
「みんな、我慢できないんだねぇ」
カリスが指を離し、その指を眺める。
「じゃあ、静かに……たっぷりと、愛し合おうか。……声を上げたら、負けだよ?」
カリスが合図をする。
セリアがアリサを押し倒す。
マットの上。服は着たままだ。
はだけた胸元、捲れ上がったスカート。その隙間から、肌と肌を合わせる。
キス。
音を立てないように、深く、ねっとりと舌を絡ませる。
唾液の交換。酸素が奪われ、頭がくらくらする。
セリアの手が、アリサのスカートの中に潜る。
内腿を強く撫で上げる。
摩擦と、互いの熱で溶けそうになる。
アリサはセリアの背中に爪を立て、声を押し殺して喘ぐ。
「んーッ! んっ、ぐぅ……!」
白目を剥きそうになるのを堪える。
横では、ミオがルナの胸を吸っている。
ルナが背中を反らし、無言で震えている。体がビクビクと痙攣し、口を開けて無音の悲鳴を上げている。
エレナも限界だった。
カリスがエレナに近づき、スカートの中に手を入れる。
「君も、仲間に入れてあげる。……ほら、ここ、熱くなってるよ」
「あ……あっ……!」
一瞬で、エレナも陥落する。快楽の沼へ。
カリスの冷たい指が、エレナの敏感な場所を容赦なく暴く。
テントの外では、騎士たちが見張りをしている。
ジャラッ、という鉄靴の音が、すぐそこでする。布一枚の向こう側だ。
「異常ないか?」「ああ、静かなもんだ」「……それにしても、いい匂いがするな」
会話が聞こえる。
その薄い布一枚隔てた内側で、五人の女たちが獣のように絡み合い、互いの熱を塗りたくり、快楽を貪っている。
もし誰かが入ってきたら、すべてが終わる。
そのスリルが、快感を何倍にも増幅させる。
アリサは熱波に飲まれながら思った。
これは任務だ。精神の安定を保つための、必要な儀式なのだと。
そう自分に言い聞かせなければ、あまりの背徳感と快感に、頭がおかしくなってしまいそうだった。
夜は更けていく。
静寂を装ったテントの中で、熱気と水音だけが、朝まで途切れることはなかった。




