第37話:堕ちた聖女の凱旋
翌朝。
十五階層のキャンプ地。撤収作業は、奇妙な静けさと、濃厚な親密さの中で行われた。
洞窟の熱気は相変わらず肌を焼き焦がすようだが、今の『フローレシア』のメンバーには、それが心地よい微熱に感じられていた。
「んっ……冷たい……」
エレナが小さな声を漏らす。
ビキニアーマーを装着した瞬間だ。
金属の冷たさが、まだ熱を持っている胸の先端や下腹部に直接触れ、そこから痺れるような刺激が広がる。
昨夜の狂乱と、『灼熱の血』による感度上昇の後遺症で、全身の肌が異常に敏感になっていた。
布が擦れるだけで電流が走り、風が吹くだけで産毛が逆立つ。
「大丈夫? エレナちゃん。……まだ、ここ、赤くなってるね」
ミオが着替えを手伝いながら、エレナの胸元を指先でツンとつつく。
そこは昨夜、セリアに執拗に愛撫され、キスマークをつけられた場所だ。
赤い花びらのような痕跡が、白い肌に鮮烈に浮かんでいる。
「ひゃぅッ! ……い、いけません、ミオさん。今は移動の準備中です」
エレナは顔を赤らめて抗議するが、その声には以前のような拒絶の色はない。
むしろ、甘えたような、もっと触れてほしいと誘うような響きが含まれている。
その変化に、自分自身が一番戸惑い、そして興奮していた。
鏡はないが、今の自分がどんな顔をしているか想像できる。
青い髪はポニーテールに戻っているが、少し乱れがあり、それが逆に色っぽい。
そして何より、身につけているのは布面積の極端に少ないビキニアーマーだけ。
白磁の肌のほとんどが露出している。
だが、昨日の戦闘と夜の営みで、心身ともにこの「露出」に順応してしまっていた。
「準備完了ね。……ふふ、昨日はあんなに嫌がってたのに、今はもう『その格好』が一番しっくりきてるんじゃない?」
ルナがエレナの背中に回り、腰の紐を結びながら耳元で囁く。
神聖な聖職者の衣を纏いながら、その手つきは夜の蝶のように慣れている。
「そ、そんなことは……。これは、あくまで……環境適応のためで……」
「嘘つき。……お尻、期待してヒクヒクしてるわよ?」
「ッ!?」
エレナは反射的に内股を締めた。
図星だった。
締め付けられる感覚。見られる感覚。
それが、今の彼女のスイッチになっていた。
紐が食い込む感触だけで、昨夜開発された奥が熱く疼き始める。
「よし、出発するぞ。……帰るまでが遠征だ。気を抜くなよ」
セリアが号令をかける。
彼女の首筋にも、エレナが昨夜夢中で吸い付いたキスマークが、勲章のように赤く残っていた。
*
十五階層からの帰路。
一行は順調に進んでいた。
エレナの足取りは驚くほど軽い。
昨日のような「恥ずかしくて死にそう」という感覚は薄れ、代わりに「見られている」という事実が、肌を粟立たせる心地よいスパイスになっていた。
歩くたびに、お尻の肉が揺れる。
太腿の内側が擦れることなく、熱い空気に撫でられる。
その感覚だけで、下腹の奥がキュンと疼く。
かつて重い革鎧を着ていた頃は、守られている安心感があった。
だが今は、晒されている危険な快感が、彼女の研ぎ澄まされた感覚をさらに鋭くしていた。
(私……どうかしてしまいました……)
エレナは自分の変化に戸惑いつつも、口元が緩むのを止められなかった。
堕ちていく感覚。
それがこんなにも甘美だなんて。
汗が背中を伝い、お尻の谷間へと流れ落ちる。その感触さえも、誰かの指でなぞられているようだ。
その時だった。
前方の通路の向こうから、複数の重い足音と、乱暴な話し声が聞こえてきた。
「ったく、昨日の夜はひどい暑さだったな。テントの中が蒸し風呂だぜ」
「だから言ったでしょ? もっと装備を軽くすべきだって」
「うるせぇよ。軽くしたら防御力が下がるだろうが。……おっ、誰か来るぞ」
5人組のパーティだ。
男性の剣士が2人、女性の魔術師、盗賊、僧侶。
全身を金属鎧や厚いローブで固めた、いわゆる「普通の」冒険者たち。
汗と埃にまみれ、疲労の色が濃い。
熱気で顔を赤らめ、息を切らしている。
エレナの足がピタリと止まった。
心臓がドクンと嫌な音を立てた。
見覚えがあったのだ。
先頭に立つ金髪の剣士。整った顔立ちだが、今は暑さで歪んでいる男。
彼こそが、エレナが以前所属していたパーティ『暁の剣』のリーダー、ロイドだった。
「……あいつらは……」
セリアが訝しげに眉をひそめる。
「私の……元、パーティです」
エレナが小声で告げる。喉が渇く。
一番見られたくない相手に、一番見られたくない格好を見られる。
最悪のタイミング。
頭の中で警報が鳴り響く。隠れろ、逃げろ、と理性が叫ぶ。
だが、エレナの体は、恐怖とは裏腹に熱い潤いを帯び始めていた。
「ん? なんだあの格好……女だけのパーティか?」
「うわ、露出狂かよ。こんなダンジョンであんな格好して……」
ロイドたちが気づく。
彼らの視線が、遠慮なく突き刺さる。
セリアの肢体を舐め、アリサの胸に釘付けになり、ミオの太腿を品定めする。
そして、エレナで止まった。
「……おい、嘘だろ?」
ロイドが目を丸くする。
何度も瞬きをして、凝視する。
「その青い髪……特徴的な吊り目……。まさか、エレナか?」
沈黙が落ちた。
洞窟内の熱気が、一気に凝縮されたように感じる。
エレナは逃げ出したかった。
けれど、セリアが背中に手を置いてくれた。
ベタリと熱い掌。
「堂々としていろ」と言われている気がした。
その熱さが、勇気をくれる。
エレナは顔を上げ、ロイドを直視した。
「……お久しぶりです、ロイドさん」
「はぁ!?」
ロイドが大声を上げる。洞窟内に反響する。
後ろにいた女性魔術師も、口元を押さえて絶句している。
かつての仲間たちの目に、軽蔑と、それ以上の困惑が浮かぶ。
「お前……なんだその格好は!?」
ロイドが指差す。
指差された先には、エレナの豊満な胸と、極小のビキニがある。
隠すべき場所が、ほとんど隠れていない。
昨夜の行為で少し腫れた先端が、白い布を押し上げているのが分かるはずだ。
「『風紀が乱れてる』とか言って抜けた堅物が、なんでそんな……娼婦みたいな格好してんだよ!」
罵倒。
もっともな指摘だ。
以前のパーティでは、ロイドが女性メンバーの肩に触れただけで目くじらを立て、襟のボタンを一つ外すことさえ許さなかった自分が、今は形の分かる薄布一枚で立っているのだから。
しかも、その体からは昨夜の情事の匂い――汗と熱気が混ざった独特の甘い体臭――が漂っている。
だが、不思議と腹は立たなかった。
むしろ、ロイドの言葉に含まれる「侮蔑」と、それを裏切るような「粘ついた視線」を感じ取っていた。
口では馬鹿にしているが、目は正直だ。
彼らは見ている。
私の胸を。くびれたお腹を。無防備な太腿を。
かつては頑丈な革鎧で隠していた場所を、この男たちは貪るように見ている。
視姦されている。
(……ああ、そうか。この人たちは、暑くて不快な鎧の中にいる)
(でも私は、こんなに涼しくて、自由だ)
エレナの中で、価値観が反転する音がした。
「……これは、戦闘用装備です」
エレナは凛と言い放った。
声が震えていないことに、自分でも驚いた。
「この階層の熱気に対処し、かつ機動力を最大化するための、合理的判断です」
「合理的だと? 頭おかしくなったんじゃねぇのか?」
ロイドが下卑た笑いを浮かべる。
一歩近づいてくる。汗臭い男の匂い。
「それとも、新しいパーティで男遊びでも覚えたか? ああん? そんな格好して、夜は何してたんだよ」
ロイドの視線が、エレナの腰回りに吸い寄せられる。
白い布地。昨夜の痕跡は洗ったはずだが、まだ染み付いているような気がして、エレナは微かに腰を震わせた。
その瞬間。
――ズズズズズッ……!!
――ガァァァァァッ!!
通路の脇、煮えたぎる溶岩の池から、巨大な影が飛び出した。
『マグマ・サーペント』。
長い首を持つ、蛇型の魔物だ。
ロイドたちの背後を取る形での奇襲。
灼熱の息吹が、冒険者たちを襲う。
「なっ……!?」
ロイドが反応遅れる。
完全に油断していたのだ。
エレナたちの痴態に気を取られ、女を品定めすることに夢中で、索敵を怠っていた。
「うわぁっ! 来るぞ!」
「隊列を組め! ……くそっ、体が重い!」
『暁の剣』のメンバーが慌てて武器を構えるが、動きが鈍い。
暑さで体力を消耗し、重装備で反応速度が落ちているのだ。
鎧の隙間から、恐怖の汗が吹き出す。
「危ない!」
エレナが動いた。
思考するより先に、体が反応した。
革鎧の時なら、一歩遅れていただろう。汗で張り付いた服が邪魔をしていただろう。
だが今は違う。
風のような軽さ。
肌が空気を切り裂く感覚。
タァンッ!
エレナが地を蹴る。
ロイドの横をすり抜け、サーペントの懐に飛び込む。
その際、豊かな胸が大きく揺れ、ロイドの視界を青と白の残像が埋め尽くす。
甘い匂いが、男の鼻を掠める。
「シッ!」
短剣一閃。
サーペントがロイドに噛み付こうとした瞬間、その顎の下を斬り上げる。
硬い鱗の隙間。
ピンポイントの急所攻撃。
鮮血が舞い、エレナの白い肌に赤い斑点を作る。
「ギャッ!?」
サーペントがのけぞる。
怒り狂った魔物の尾が、カウンター気味にエレナを襲う。
ドォンッ!
エレナはあえて避けなかった。
ビキニの胸当てで、その衝撃を受け止める。
ヴンッ!
金属パーツが振動し、衝撃を快楽信号へと変換する。
「んっ……あぁっ!」
エレナの口から、戦闘中とは思えない嬌声が漏れた。
痺れるような快感が背骨を駆け上がり、膝から力が抜けそうになるのを、気合で踏ん張る。
その姿は、ロイドたちには「攻撃を受けて苦悶している」ようには見えなかった。
頬を紅潮させ、恍惚としているように見えたのだ。
乳房が押し潰され、谷間が深くなる。
「なんだ、あいつ……攻撃を受けて、感じて……?」
呆然とするロイドたちの横を、影が駆け抜ける。
「『アイス・ランス』!」
ミオの氷槍が、サーペントの胴体を貫く。
「遅いわよ! 『ホーリー・バインド』!」
ルナの光の鎖が、魔物の動きを封じる。
「はぁッ!」
アリサが飛び込み、戦斧で首を落とす。
一瞬の連携。
無駄のない、流れるようなコンビネーション。
ロイドたちが武器を抜く暇さえなかった。
「……ふぅ」
エレナは着地し、短剣を振って血を払った。
着地の衝撃で、お尻の肉がプルンと震える。
胸がたゆんと揺れ、汗ばんだ肌が照明魔法に照らされて光る。
返り血を浴びたその姿は、凄惨でありながら、神々しいほどにエロティックだった。
ロイドたちは、ポカンと口を開けていた。
魔物が瞬殺されたことへの驚き。
そして何より、目の前で躍動したエレナの肢体への、どうしようもない興奮。
軽蔑は消え失せ、そこにはただ、雄としての欲望だけがあった。
「……助けてやったのに、礼なしか?」
セリアが腕を組んで、ロイドを見下ろす。
マイクロビキニ姿だが、その威圧感は王者のそれだ。
圧倒的な強者のオーラ。
そして、圧倒的な色気。
「あ、あぁ……すまねぇ……」
ロイドが気圧されて後ずさる。
そして、改めてエレナを見た。
そこには、かつての「口うるさい委員長」の姿はなかった。
自信に満ち、自分の体を武器として使いこなす、一流の「女」がいた。
汗で濡れた肌。乱れた髪。荒い息遣い。
すべてが魅力的だった。
「エレナ……お前、なんか……」
ロイドがごくりと喉を鳴らす。
視線が、エレナの胸元から離れない。
汗と血で汚れたその谷間に、吸い寄せられている。
「……エロくなったな。……すげぇ、いい女になった」
その言葉は、最大の侮辱であり、そして今のエレナにとっては最高の賛辞だった。
かつて自分が否定していた「性的な魅力」。
それを突きつけられ、屈服している元リーダーの姿。
「……光栄です」
エレナは艶然と微笑んだ。
吊り目が細められ、妖艶な光を宿す。
以前なら「不潔です」と怒っていただろう言葉を、余裕を持って受け流す。
「ですが、この体は……貴方たちのような半端者には、手も足も出せませんよ」
エレナは自らの胸に手を当て、挑発するように指を這わせた。
指先が谷間をなぞる。
「この熱に耐えられないでしょうから」
「ッ……!」
ロイドが顔を赤くして黙り込む。
反論できない。
実力でも、魅力でも、完全に敗北したことを悟ったのだ。
エレナは踵を返した。
青いポニーテールが揺れる。
無防備な背中。
ビキニの紐が食い込んだお尻を、わざと見せつけるように腰を振って歩き出す。
「行くぞ、エレナ」
「はい、セリアさん」
エレナはロイドたちの視線を背中に感じていた。
いやらしい視線。
ねっとりと背中を舐め、お尻の形を記憶しようとする視線。
「あいつ、あんな体してたのか」「やりてぇ」「俺の知ってるエレナじゃない」
声にならなくても、ロイドたちの心の声が聞こえるようだった。
その欲望を一身に浴びながら、決して彼らの手は届かない場所へと歩み去る。
この絶対的な距離感。
この支配的な優越感。
ゾクゾクする。
昨夜、四人に愛された記憶が蘇り、太ももの付け根がじわりと熱くなる。
見られている。欲情されている。
それが、こんなにも気持ちいい。
(……私、本当に堕ちてしまったんですね)
でも、後悔はなかった。
この軽さ。この熱さ。
かつての仲間たちが、今の自分を性的な目で見ているという事実が、こんなにも優越感をもたらすなんて。
私はもう、あの重苦しい鎧の中には戻れない。
エレナは隣を歩くアリサの手を、そっと握った。
アリサの手の平は汗ばんでいて、熱かった。
その熱が、エレナの理性をさらに溶かしていく。
「エレナさん……心臓、すごい音です」
アリサが頬を赤らめて囁く。
「あんな風に……元のお仲間に見せつけるなんて。すごく……大胆でした」
「……ふふ。私も、自分が信じられません」
エレナは正直に認めた。
アリサが嬉しそうに握り返してくる。
汗ばんだ手の感触。その温もりがあれば、どんな視線も快楽に変えられる。
ビキニのボトムの中で、一番敏感な場所がひくりと脈打った。
じわり、と温かいものが溢れる。
戦いの興奮と、露出の羞恥と、嗜虐的な喜びが混ざり合い、熱い雫となって溢れ出している。
白い布地が再び濡れていく。
太腿を伝うその感触さえ、今は愛おしい。
「あら、エレナちゃん。また濡らしてる」
ルナが後ろから目ざとく見つけ、クスクスと笑いながら、エレナの無防備なお尻を軽く叩いた。
パンッ。
乾いた音が洞窟に響き、白磁のようなお尻の肉がプルンと波打つ。
ロイドたちの視線の前で、尻を叩かれる屈辱。
だが、今のエレナにはそれすらもご褒美だった。
「ひゃぅっ……! ル、ルナさん……!」
「悪い子ね。……帰ったら、また『洗浄』してあげないと。今度はもっと入念に」
「……はい。お願いします。……もっと、汚してください」
エレナは恍惚とした表情で答えた。
出口からの風が吹き込んでくる。
外の世界が待っている。
でも、もう怖くはない。
この恥ずかしくて、淫らで、最強の鎧ビキニがある限り、私は誰よりも自由だ。
青い髪をなびかせ、堕ちた聖女は高らかに笑みを浮かべた。
その背中は、かつてないほど輝いて見えた。
一行は出口へ向かう。
その背中を見送るロイドたちは、いつまでもその場から動けずにいた。
脳裏に焼き付いた、青い髪の「淫らな聖女」の残像に囚われて。
薄暗いダンジョンの中に、甘い残り香だけが漂っていた。




