第28話:陽光の楽園
馬車の扉が開かれた瞬間、世界の色が変わった。
圧倒的な、青。
そして、目が眩むほどの白。
「うわぁ……!」
ミオが歓声を上げて馬車から飛び出す。
そこは、まさに楽園だった。
空はどこまでも高く突き抜け、エメラルドグリーンの海が水平線の彼方まで広がっている。
砂浜は砂糖菓子のように白く、寄せては返す波が宝石のような輝きを散らしていた。
潮風が頬を撫でる。
大森林の腐葉土の臭いも、馬車の中の蒸れた汗の臭いも、ここにはない。あるのは、清潔な海と太陽の匂いだけ。
「ここが……『サザンクロス』……」
アリサも目を細めて海を見つめる。
馬車での「果実責め」と「氷責め」で火照った体が、潮風に冷やされていくのが心地いい。
「すごいです……。本当に、世界が輝いて見えます」
ルナが胸の前で手を組む。
セリアも、腕組みをしながらも口元を緩めていた。
「フン、悪くない景色だ。……あのジメジメした森に比べれば、ここは天国だな」
「でしょ? 感謝してよね」
カリスが日傘を差して優雅に降り立つ。
「さ、まずはチェックインだよ。私たちの拠点はあそこの『ロイヤル・ヴィラ』。貸し切りだから、誰に気兼ねすることもない」
カリスが指差した先には、海に突き出すように建てられた豪華なコテージがあった。
白壁と赤い屋根。プライベートビーチ直結の最高級スイートだ。
だが、そこが彼女たちの新たな「牢獄」になるとは、まだ誰も気づいていなかった。
*
ヴィラの中は広々としていたが、四人にくつろぐ時間は与えられなかった。
リビングのテーブルに、カリスが大きなボストンバッグをドサリと置く。
「はい、これが今回の『制服』ね」
バッグから溢れ出したのは、カラフルな布切れの山だった。
どう見ても、水着だ。
それも、極端に布面積が少ない、攻撃的なデザインのものばかり。
「……カリス。任務というのは『イタズラ魔獣の捕獲』だったな?」
セリアが黒い紐のような物体をつまみ上げて聞く。
「そうだよ。相手は『隙のある無防備な女の子』を狙う習性があるの。だから、これは『囮ベイト』としての正装。……拒否権はないよ?」
カリスの笑顔は絶対零度の圧力を放っていた。
ここまで来て帰るわけにはいかない。
四人は観念して、それぞれの「制服」を手に取った。
……数分後。
ヴィラのテラスから、四人の悩ましげな姿が現れた。
セリアは、漆黒のマイクロビキニ。
引き締まった腹筋、鍛え上げられた太腿の筋肉美が、太陽の下で露わになっている。
だが、布が小さすぎる。トップスの三角形は乳房のボリュームを全くカバーできておらず、横から白い膨らみが溢れ出している。動くたびに先端が見え隠れしそうで、セリアは常に肩をすぼめていなければならない。
ボトムも際どく、食い込んだ紐が恥丘の形をくっきりと浮き彫りにしている。
さらに悪いことに、素材が光沢のあるラバーのような質感で、肌に張り付くたびにキュッキュッと音を立てるのが扇情的だ。
「……落ち着かん。腰に剣がないと、不安で仕方がない」
セリアが腕で胸を隠すが、隠しきれない。
ミオは、純白のフリルがついたビキニ。
デザインは可愛らしいが、サイズが子供用のように小さい。
白い肌と白い水着の境界が曖昧で、遠目には全裸に見えそうだ。
特にボトムは浅く、少しでも屈めばお尻の曲線が覗いてしまう。
恥ずかしさで内股になり、もじもじと膝を擦り合わせている。その擦れる動きで、布がさらに食い込んでいく悪循環。
ルナは、紫色のモノキニ。
胸元が大きく開き、おへそまで深く切れ込んでいる。
豊満な胸が布の張力に逆らって揺れ、歩くたびにボヨン、ボヨンと重たげな音を立てるようだ。ハイレグの角度も鋭く、腰骨のラインが艶めかしく露出している。
背中は紐一本だけで支えられており、その紐が柔らかな背中に食い込んで、肉感的な段差を作っている。
聖女の証であるロザリオだけが首に残っているが、それがかえって背徳感を煽っていた。
そしてアリサは、鮮やかな真紅のチューブトップと、極小のボトム。
一番動きやすいが、背中もお腹も完全に無防備だ。
健康的な肢体が、太陽に愛されているかのように輝いている。
おへその形や、肋骨の浮き沈みまで、隠すものがない。
「みんな、似合ってるよ! これなら魔獣もイチコロだね」
カリスだけは、黒いワンピースタイプの水着にパレオを巻き、優雅にデッキチェアに寝そべっていた。
「さ、ビーチに出て。魔獣をおびき寄せるには、波打ち際でキャッキャウフフするのが一番だから」
カリスに追い立てられ、四人は白砂のビーチへと足を踏み入れた。
ジリジリ……。
太陽が肌を焼く。
熱い。
直射日光が、露出した肌に突き刺さるようだ。
潮風に混じって、砂の熱気が下から上がってくる。
足の裏が焼けそうだ。
「うぅ……日差しが痛いです……」
ミオがしゃがみ込む。
大森林での日照不足から一転、この強烈な紫外線は肌に毒だ。
「はい、ストップ」
カリスが手を叩く。
その手には、一本のガラス瓶が握られていた。
中には、蜂蜜のようにとろりとした琥珀色の液体が入っている。
「特製サンオイル。日焼け止め効果はもちろん、肌を保湿してスベスベにする最高級品。……これがないと、夜には全身水ぶくれだよ?」
塗るしかない。
四人はビーチタオルを敷き、その上に寝転んだ。
「じゃ、まずはアリサちゃんから」
カリスが瓶の蓋を開ける。
甘く、濃厚な花の香りが漂う。イランイランとジャスミンを混ぜたような、心蕩かす香りだ。その香りを嗅ぐだけで、頭の芯がぼんやりと痺れてくる。
アリサはうつ伏せになった。
背中が太陽に炙られて熱い。
そこに、液体が垂らされた。
トロリ。
「ひゃっ!」
背筋が跳ねる。
最初はひんやりとしていたオイルが、すぐに体温と太陽熱で温まり、滑らかな膜となって広がる。
「力を抜いて。……随分と凝ってるねぇ」
カリスの手が、アリサの背中を滑る。
ヌルヌルとした感触。
指圧ではない。手のひら全体を使って、肌の表面を撫で回すような手つき。
肩甲骨の窪み、背骨のライン、そして腰のくびれへ。
「んっ……カリスさん、くすぐったいです……」
「じっとしてて。ムラになると、そこだけ焼けちゃうよ」
カリスの手が、水着の際どいラインに侵入する。
お尻の肉を、オイルたっぷりの手で揉みしだく。
肉と肉が擦れ合い、クチュ、ピチャ、という艶めかしい水音が鳴る。
指がボトムの布地の下に滑り込み、柔らかな谷間をなぞる。
異変に気づいたのは、その時だった。
熱い。
オイルを塗られた場所が、カッカと火照り始めたのだ。
ただの日焼けの熱さではない。皮膚の下、毛細血管が拡張し、血液が沸騰するような感覚。
風が吹くだけで、砂粒が一つ当たるだけで、過剰なほどの刺激となって脳を揺らす。
「あ……なんか、変……」
アリサがシーツを握りしめる。
「熱い……皮膚が、ピリピリする……」
「あー、言い忘れてた。このオイル、血行を良くして肌ツヤを出すために、ちょっと『敏感』になっちゃう成分が入ってるんだよね」
カリスが確信犯の笑みを浮かべる。
「なっ……!?」
「でも、塗らないと火傷するよ? どっちがいい?」
究極の選択。
だが、もう手遅れだ。背中はすでに敏感になりすぎて、自分の髪の毛が触れるだけで、ゾクゾクと感覚が走るようになっている。
「仰向けになって。前も塗らないと」
抵抗できないアリサは、震える体で仰向けになった。
眩しい太陽。
カリスの顔が逆光で黒い影に見える。
カリスの手が、アリサのお腹にオイルを垂らす。
おへその窪みに溜まる琥珀色の液体。
指先で、円を描くように広げられる。
敏感になった肌に、カリスの指紋の一つ一つまでが鮮明に感じ取れる。
「んぁっ! そこ……っ!」
お腹を撫でられただけで、腰が浮く。
下腹部が熱い。
オイルがへそから溢れ、脇腹へと流れていく。その流れさえもが、這い回る指のように感じる。
「いい声。……大森林での嫌な記憶も、こうやって『気持ちいい』記憶で上書きしちゃえばいいんだよ」
カリスの手が胸に伸びる。
チューブトップの隙間から指を入れ、直接乳房にオイルを塗り込む。
先端を指先で弾く。
「ひグッ……!」
アリサの目から涙が出る。
気持ちよすぎる。
ただオイルを塗られているだけなのに、頭が真っ白になるような感覚。
「次はリーダーさん。……ミオちゃんとルナちゃんは、お互いに塗りっこしなよ。足りなかったら私が手伝うから」
カリスが次の獲物を指名する。
セリアは顔を真っ赤にして躊躇していた。
「わ、私は自分で塗る……」
「ダメだよ。背中は届かないでしょ? それに、塗り残しがあったら、そこだけ真っ赤に腫れちゃうよ?」
カリスが笑顔で迫る。
アリサの艶かしい姿と、自分の肌がジリジリと焼ける痛みに負け、セリアは観念した。
「……手早く頼む。変なところは触るなよ」
セリアがビーチタオルに横たわる。
だが、カリスが「変なところ」を触らないはずがなかった。
「わぁ、すごい腹筋。溝が深いねぇ」
カリスの指が、セリアの割れた腹筋のラインをなぞる。
オイルが溝に流れ込み、きらきらと光る。
「や、やめろ……くすぐったい……」
「内腿も鍛えてるね。硬いのに、肌はすべすべ」
カリスの手が、ビキニのボトムギリギリの内腿を撫で上げる。
筋肉の筋に沿って、指を滑らせる。
「んっ……! そこは……!」
セリアが足を閉じようとするが、カリスが膝で割り込んで阻止する。
「閉じちゃダメ。……際どいところまで塗らないと、水着の跡が変に残っちゃうよ?」
もっともらしい理由をつけて、カリスの指はビキニの布地の下へ、熱を持った太ももの付け根まで侵入していく。
セリアの恥丘に生える黒いヘアの際まで、ねっとりとしたオイルが塗り込められる。
騎士としての誇り高い精神が、快楽という名の油に溶かされていく。
一方、ミオとルナも、砂浜に座り込んで互いに塗り合っていた。
「ミオちゃん、背中……塗るわね」
ルナの手が、ミオの小さな背中を這う。
ルナの手は大きくて、温かい。オイルで滑りが良くなった手が、ミオの華奢な肋骨を一本一本なぞる。
「あぅっ……! ルナちゃん、そこ、だめぇ……」
ミオがビクビクと震える。
敏感になった肌同士が触れ合う。
塗る側のルナの手のひらも、オイルの影響で敏感になっているのだ。ミオの肌の柔らかさ、骨の感触が、指先から脳に直接伝わってきて頭がクラクラする。
「ルナちゃん、胸……大きいから……大変……」
ミオが震える手で、ルナの胸にオイルを塗る。
両手で抱えるようにして、塗り込む。
重み。柔らかさ。
手に余る豊満な肉。指が肉に沈み込んでいく。
ルナが甘い吐息を漏らす。
「ふあぁ……ミオちゃん、強く……しないで……っ」
ルナの目がとろんと濁る。
聖女の威厳は、南国の太陽と琥珀色のオイルによって溶かされていく。
ルナの乳房が、ミオの手の中で形を変え、オイルまみれになって濡れた音を立てる。
その光景は、姉妹の戯れのようでいて、どこまでも背徳的だった。
一通り塗り終わる頃には、四人は汗とオイルで全身ベトベトになっていた。
肌はテラテラと光り、砂粒がいくつかついている。
その砂粒の刺激さえもが、今の彼女たちには快感だった。
風が吹くたびに、砂が肌の上を転がる。その微細な刺激が、感度倍増した神経を逆撫でする。
「さて、塗り終わったけど……ちゃんと効果が出てるかチェックしないとね」
カリスが立ち上がり、近くに生えていたソテツのような植物から、大きな葉を一枚ちぎり取った。
そして、氷の入ったグラスを持つ。
「動かないでね。魔獣が来るまで、訓練だと思って耐えて」
カリスが葉っぱの先端で、アリサの脇腹をスーッとなぞった。
植物の硬い繊維が、オイルで濡れた肌を掠める。
「ひゃぅっ!」
アリサが跳ねる。
たかが葉っぱ。でも、今の肌にはナイフで撫でられているような鋭い感覚だ。
「敏感になってるねぇ。じゃあ、これは?」
カリスは氷の塊を一つ取り出し、セリアのお腹の上に置いた。
灼熱の肌に、氷点下の異物。
ジュッ、と音がしそうなほどの温度差。
「ぐぅっ……!」
セリアが歯を食いしばる。
氷が溶け出し、冷水となってへその窪みに溜まり、そこから下腹部へと流れ落ちる。
熱いのに、冷たい。
冷たいのに、熱い。
感覚の混乱。
カリスは次に、ミオとルナに近づく。
二人は抱き合うようにして震えていた。
「仲良しだね。……じゃあ、もっと密着させてあげる」
カリスが二人の間にオイルを追加で垂らす。
胸と胸の間。太腿と太腿の間。
「擦り合わせてみて」
カリスの言葉は、命令のように響いた。
ルナが意識朦朧としながら、ミオを抱きしめる。
ヌルリ。
オイルまみれの肌同士が滑る。
摩擦ゼロの密着。
「んぁ……ルナちゃん……ぬるぬる……」
「ミオちゃん……熱い……」
二人の吐息が重なる。
息が荒い。
体中が敏感になりすぎて、動くことさえ億劫だ。
水着の紐が肌に食い込む感覚、風がブラの隙間を吹き抜ける感覚、すべてが鋭い電気信号となって脳を揺らす。
「はぁ……はぁ……これじゃ、動けない……」
セリアが力なく呟く。
彼女の黒いビキニは、オイルを吸ってさらに黒光りしている。
内腿まで念入りに塗られたせいで、足を閉じるたびにヌチャ、ヌチャといやらしい音がする。その音が、さらに羞恥心を煽る。
「大丈夫だよ。魔獣が来たら、私が捕まえてあげるから」
カリスがジュースを飲みながら、満足げに四人を眺める。
白砂の上に横たわる、油にまみれた四つの裸体。
それはまるで、神に捧げられる供物のようであり、あるいは極上のメインディッシュのようでもあった。
「さ、そのままじっとしててね。……乾くまで動いちゃダメだよ?」
カリスの言葉は嘘だ。このオイルは乾かない。
むしろ、体温で温められ、どこまでも伸び続ける。
四人は太陽の下、羞恥と快感に晒されながら、ただ波の音を聞くことしかできなかった。
時折、波打ち際まで押し寄せた海水が、火照った足先を冷やす。
その温度差に、また誰かの甘い喘ぎ声が漏れた。
その時、砂浜の物陰から、小さな影が動いた。
カニだ。
一匹の小さなカニが、横歩きでアリサの方へ近づいてくる。
普段なら気にも留めない小動物。
だが、今の無防備で敏感なアリサにとって、それは巨大な脅威だった。
「来ないで……あっち行って……」
声が出ない。体も動かない。
カニのハサミが、アリサの足の指先に触れた。
チクリ。
「ひいいいいいいいぃっ!」
アリサの悲鳴がビーチに響く。
それを合図にしたように、カリスが楽しそうに笑った。
楽園の太陽は、まだまだ沈みそうになかった。




