第27話:揺れる馬車
大森林階層からの生還から数日後。
冒険者ギルド『金獅子の鬣たてがみ』亭は、いつものように荒くれた男たちの熱気と、ジョッキがぶつかる音、そして紫煙に包まれていた。
だが、その喧騒が一瞬にして静まり返る瞬間が訪れた。
入り口の扉が開き、四人の人物が入ってきた時だ。
「……おい、あれ」
「『フローレシア』か? 噂の……」
「マジかよ、今日もアレなのか?」
冒険者たちの視線が、一点に釘付けになる。
入ってきたのは、今や迷宮都市で最も注目を集める女性だけのBランク候補パーティ、『フローレシア』の四人だった。
彼女たちは全員、分厚いフード付きのマントを目深に被り、まるで犯罪者のようにコソコソと周囲を警戒しながら歩いている。
だが、その努力は逆効果だった。
歩くたびにマントの裾が割れ、その下にある「何か」がチラチラと見え隠れするたび、男たちの視線が熱を帯びて吸い寄せられるのだ。
セリアの引き締まった太腿の筋肉が躍動する様。
ルナの豊満な胸が、歩行の振動でたゆんたゆんと揺れるシルエット。
ミオの透けそうなほど白い足首と、そこから伸びる無防備なふくらはぎ。
そしてアリサの、健康的で滑らかなお腹のライン。
彼女たちは一直線に受付カウンターへと向かった。
カウンターの中にいたのは、看板受付嬢のミリアだ。亜麻色の髪を緩く編み、いつも笑顔を絶やさない彼女だが、四人の姿を見て目を丸くした。
「あ……お、お疲れ様です! 『フローレシア』の皆さん! 今日はどうされましたか?」
ミリアが声をかけると、セリアがカウンターに身を乗り出した。
マントのフードの下から、切迫した、しかし恥ずかしさに濡れた瞳が覗く。
「……ミリア。ダンジョン以外の依頼はないか」
「え?」
「採取でも、討伐でもない。……もっと、平和なやつだ。街の中の雑用でもいい。とにかく、あのジメジメした森と、粘液まみれの魔物はもう御免だ」
セリアの声は悲痛だった。
大森林でのトラウマ――全身を粘液で溶かされ、這い回られた記憶――は、数日経っても消えていなかったのだ。目を閉じれば、耳元で羽音がする気がして夜も眠れない。
横にいるルナも、カウンターに縋り付くようにして涙目で訴える。
「あの……お願いです。何か、気晴らしになるような、遠出の依頼はありませんか? ……このままでは私、おかしくなってしまいそうで……」
ルナの声は震えていた。彼女もマントの下でボンテージ風の聖職衣に身を包んでおり、動くたびに革紐が豊満な肉に食い込む感触に、必死で耐えているのだ。
紐が擦れるたびに、甘い痺れが腰に走るのを、聖女としての理性で必死に抑え込んでいる。
ミリアは困ったように眉を下げた。
「ええっと……そう言われましても、皆さんのランクに見合う『平和な依頼』というのはなかなか……」
ミリアの視線が、セリアのマントの隙間に吸い寄せられる。
そこから見えているのは、黒いレースと素肌だけ。
「あの、セリアさん。失礼ですが、その……装備は?」
「ッ!」
セリアが慌ててマントを合わせる。顔が耳まで真っ赤だ。
「こ、これは……新しい、高機能装備だ! 防御力は高いんだぞ! 決して、趣味で着ているわけではない!」
「は、はあ。随分と……涼しそうですね」
ミリアが生温かい視線を向ける。
周囲の冒険者たちも、聞き耳を立てながらニヤニヤしている。
「『スッケスケの痴女軍団』がまた露出プレイをしてるぞ」「眼福だなぁ」というヒソヒソ話が聞こえてくる。
その時だった。
四人の背後から、軽薄で甘ったるい声が降ってきた。
「やっほー。お困りのようだねぇ、変態のお姉さんたち?」
四人がビクッとして振り返る。
そこに立っていたのは、真紅のツインテールを揺らす小柄な少女。
Aランク冒険者にして、トラブルメーカーの筆頭、カリスだった。
彼女は黒いゴシックドレスのスカートを摘んで、芝居がかったお辞儀をしてみせる。
「カリス……!」
アリサが警戒する。
「なんでここに……」
「なんでって? 面白い匂いがしたからだよ。君たちが放つ、芳醇な『恥じらい』の匂いがね」
カリスがクスクスと笑い、一枚の羊皮紙をヒラヒラと振ってみせた。
「君たちにぴったりの依頼、私がキープしておいたんだ。ほら」
カリスがカウンターに羊皮紙を置く。
ミリアがそれを覗き込み、ぱぁっと顔を輝かせた。
「あっ! これは……南方リゾート島『サザンクロス』からの緊急依頼ですね! さすがカリス様!」
「リゾート……?」
ミオが反応する。
「そう。青い海、白い砂浜、輝く太陽。……大森林のジメジメとは正反対の楽園だよ」
カリスが囁く。
「依頼内容は『島に出没するイタズラ魔獣の捕獲』。危険度は低いけど、報酬は破格。しかも、滞在中のホテル代や食事代は全部タダ」
「受ける!」
ミオとルナが即答した。
「海……! お風呂じゃない、大きな水!」
「太陽の光……浄化されそうです……」
セリアも喉を鳴らした。
リゾート。その響きは、今の彼女たちにとって救いのように思えた。
「……分かった。その依頼、私たちが受ける」
「交渉成立だね」
カリスがニヤリと笑う。
「じゃ、善は急げだ。すぐに出発するよ。……馬車はもう、裏に待たせてあるから」
*
そして、現在。
四人はカリスが手配した高級馬車の中にいた。
漆塗りの車体、金色の装飾、ふかふかの革張りシート。
王侯貴族が乗るような立派な馬車だ。
だが、窓のカーテンは全て閉め切られ、車内は薄暗い密室となっていた。
「……カリス。なんで馬車なんだ」
セリアが不満げに言う。
「馬で駆けた方が、よほど早く着くだろう。こんな箱の中じゃ、鈍ってしまいそうだ」
「だから言ったじゃん。旅情だよ、旅情」
カリスが窓際の特等席で足を組む。
「それにさ、その格好で馬に乗るつもり? 鞍くらで擦れて大変なことになるよ? ……それに、街道を行く商人たちに『良い見世物』を提供することになっちゃうけど、いいの?」
セリアが黙り込む。
確かに、この痴女のような格好で馬に跨り、上下に揺られながら街道を疾走すれば……想像するだけで顔から火が出そうだ。
内腿が鞍に擦れる感覚、風ではだける布地、そしてすれ違う人々の視線。
馬車という「隠れ蓑」は、今の彼女たちにとって最適解であり、唯一の選択肢だったのだ。
悔しいが、カリスの言う通りだ。
四人は観念してマントを脱いだ。
密閉された車内は蒸し風呂のように暑く、厚手のマントなど着ていられなかったのだ。
バサリ。
マントが落ちると、車内は圧倒的な肌色成分で埋め尽くされた。
アリサは真紅のビキニアーマーに、革のジャケットを羽織っただけの姿。
セリアは黒いレースのインナーとプレート。
ミオは透け透けのベビードール風ローブ。
ルナは紐のような聖職衣。
ムッとするような甘い汗の匂い。香水の香り。
そして、互いの肌が触れ合いそうな距離感。
閉め切った空間に、五人の体温と吐息が充満していく。湿度が高い。
動くたびに、肌と革のシートが張り付き、「ペタリ」と湿った音を立てるのが恥ずかしい。
「あつぅ……」
ミオが手で顔を扇ぐ。
汗が首筋を伝い、透けたローブの中に消えていく。
セリアも、胸の谷間に汗が溜まり、光っている。
ガタンッ!
馬車が街道の窪みを超え、大きく跳ねた。
「きゃっ!」
四人の体が宙に浮き、シートに叩きつけられる。
ルナの豊満な胸が、ボヨンと大きく波打つ。
ミオがバランスを崩し、向かいのアリサの膝の間に顔を突っ込むような体勢になった。
「あ、ごめん……」
「だ、大丈夫だよミオちゃん……」
アリサの太腿に、ミオの熱い吐息がかかる。
ビキニアーマーの布面積が少なすぎて、ほぼ素肌に息を吹きかけられている状態だ。
ゾクリ、と下腹が疼く。
「あはは、よく揺れるねぇ」
カリスが楽しそうに笑う。
「どんなに高級な馬車でも、街道の凸凹さまには勝てないってことだね」
ゴトゴト、ガタガタ……。
馬車は絶え間なく揺れ続けていた。
いくら革帯で衝撃を吸収しているとはいえ、木の車輪が石畳を転がる振動は消せない。
微細な振動が、革のシートを通して、お尻や太腿、背中に伝わってくる。
普段なら気にも留めない揺れだ。
だが、露出度の高い、しかも薄い布一枚の衣装を着ている四人には、その振動が直接肌を撫で回すような、淫らな刺激になっていた。
ルナがモジモジと腰を揺らす。
紐が食い込んだ場所に、振動が集中しているのだろうか。顔が赤い。
「……気持ち悪い揺れ方だ」
セリアが眉をひそめるが、その頬は赤い。
彼女も感じているのだ。
硬くなった先端がレースに擦れる感覚を。
足を組んで誤魔化そうとするが、組んだ太腿同士が擦れ合い、汗でヌルリと滑る感触が余計に刺激を増幅させる。
カリスが足元からバスケットを取り出した。
中には、魔法で冷やされた氷と、色鮮やかなフルーツが入っている。
「暑いでしょ? 冷たい果物でも食べて、涼みなよ」
カリスは、熟れた桃のような果実『蜜桃』を手に取った。
ナイフで皮を剥く。甘い香りが車内に爆発的に広がる。
果汁が滴る。
「はい、アリサちゃん。あーん」
カリスがアリサの口元に果実を差し出す。
「じ、自分で食べます」
「いいから。手がベタベタになっちゃうよ?」
アリサは仕方なく口を開けた。
パクリ。
甘い。濃厚な甘みと、冷たさが口いっぱいに広がる。
ジュワッ。
果汁が口の端から溢れ、顎を伝って首筋へ垂れる。
「あーあ、こぼしちゃった」
カリスがニヤリと笑う。
「勿体ない。……拭いてあげる」
カリスの指が伸びる。
冷たい指先。
それが、アリサの首筋の果汁を拭い取る。
そして、そのまま下へ。
鎖骨へ。胸の谷間へ。
垂れた果汁を追うように、指が這う。
拭き取るというより、塗り広げているようだ。
「ひゃっ……! つ、冷たいです……!」
アリサが身をよじる。
火照った肌に、氷で冷やされた指と、粘つく果汁の感触。
温度差の刺激が強烈すぎる。
「ここにも垂れてるよ?」
カリスの手が、アリサのビキニアーマーの隙間に入り込む。
豊満な胸のカーブをなぞり、先端の周りを指でくるくると回る。
「んっ……! だめ……みんな見て……」
「見てないよ。みんな、自分のことで精一杯だから」
確かに、他の三人も暑さと振動に耐えるのに必死だった。
セリアは腕を組み、目を閉じて振動をやり過ごそうとしているが、吐息が荒い。
ミオはぐったりとして、ローブを団扇のようにパタパタさせているが、その隙間から白いお腹が見え隠れしている。
カリスの視線が、黙って耐えているルナに向いた。
「ルナちゃんも、涼しくなりたい?」
カリスの手には、小さな氷の欠片。
「い、いえ……私は結構です」
ルナが首を振るが、カリスは逃がさない。
「またまたぁ。一番汗かいてるじゃん。……特に、この紐の下」
カリスがルナの胸元に触れる。
ボンテージ風の革紐が、白い肉に食い込み、汗がたまっている場所。
そこに、氷を押し当てた。
「ひゃうっ!」
ルナが短い悲鳴を上げる。
冷たい氷が、熱を持った紐と肌の隙間に滑り込む。
ジジッ、と音がしそうなほどの温度差。
氷が溶けて水になり、紐の下を伝って谷間へと流れ落ちる。
「あ、あぁ……冷たい、です……」
「紐がきつくて、水が溜まっちゃうね。……蒸れてる」
カリスが楽しそうに、さらに別の紐――太腿の付け根に食い込む紐――にも氷を這わせる。
冷たさと、締め付けられる苦しさと、擦れる快感。
ルナの聖女としての理性が、音を立ててきしむ。
カリスはさらに悪戯を続けた。
バスケットから、また氷を取り出す。
「アリサちゃん、ここ、一番熱いよね」
カリスの手が、アリサの太腿の間に滑り込んだ。
ビキニのボトムの隙間。
太ももの付け根に、氷を押し当てる。
「ひギッ……!」
アリサが声を詰まらせ、腰を跳ねさせる。
冷たい。
敏感な場所に、直接氷が触れる衝撃。
氷が体温で溶け、冷水となって太腿を伝い落ちる。
まるで漏らしてしまったかのような感覚。
でも、その冷たさが、逆に体内の熱を煽る。
「カリスさん……! やめて……!」
アリサがカリスの手首を掴むが、力が入らない。
馬車の揺れが、氷の位置を微妙にずらす。
冷たい固形物が、際どい境界線を行ったり来たりする。
「気持ちいいでしょ? ……ほら、ミオちゃんも暑そう」
カリスがターゲットを変える。
今度はミオの透けたローブの首元から、氷を放り込んだ。
「きゃああっ!?」
ミオが飛び上がる。
氷が背中を滑り落ちる。
脊髄をなぞるように、冷たい線を描いて。
そして、柔らかな肉に挟まって止まる。
「つ、冷たい! 何か入ってるぅ!」
ミオがもごもごと動く。
氷を取ろうとして体を捻るが、その動きが余計に氷を奥へと押し込んでしまう。
冷たい異物が、服の中で溶けていく感触。
「リーダーさんは?」
カリスが氷を持って微笑む。
「寄るな! 斬るぞ!」
セリアが威嚇するが、顔は真っ赤だ。
汗で濡れた黒髪が頬に張り付いている。
「強がりだなぁ。……本当は、冷やして欲しいんでしょ?」
カリスが氷を口に含んだ。
そして、セリアの耳元に顔を寄せる。
ふぅ、と冷たい息を吹きかける。
「っ……!」
セリアの肩が震える。
カリスはそのまま、セリアの耳に舌を這わせた。
冷たい舌。
熱い耳朶。
背筋を駆け上がる悪寒のような快感。
密室の馬車は、カリスの独壇場だった。
逃げ場のない空間で、四人は暑さと振動、そして冷たい氷の悪戯に翻弄され続ける。
目的地のリゾートに着く頃には、四人はもう、戦う気力など残っていないだろう。
ただ、トロトロに溶かされた雌の顔をして、カリスに手を引かれるのを待つだけだ。
窓の外には、南国の青い海が見え始めていた。
だが、車内の四人には、その景色を楽しむ余裕など微塵もなかった。
彼女たちのバカンスは、すでにここから始まっていたのだ。
甘く、淫らで、逃れられない『フローレシア』の休日が。




