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お茶会のその後で

長らくお待たせ致しました!

 二人で家に帰り、お茶会用のドレスから着替えた後、ゆっくりとソファに腰掛ける。蜂蜜入りのホットティーを飲むと、心も落ち着く。ほうっ、と幸福のため息をこぼすと、師匠も向いのソファで「うま」と呟いていた。

「師匠。今日は、ありがとうございました」

「あ? 俺、なんかしたっけ?」

 本当に覚えが無いらしく、首を傾げ、今日のお茶会を思い返している師匠。わたしは、くすっと思わず笑ってしまった。

「殿下にお断りするのを、手伝ってくださって。すごく心強かったですよ」

 師匠は、あーと何度か頷いた。

「あいつ、しつこかったからな。俺も腹が立ってさ」

「ふふ、それだけで?! っていうか、あいつって呼ぶの、外では止めてくださいよ? 不敬罪で殺されますからね?」

 流石に殺されはしないだろうけど、駄目なことには違いない。

「分かってるけど、思わなかったか? あいつ・・・王太子めんどくせえなって」

「正直言うと、思いましたけど。まあ、それは口にも表情にも出せませんから。元貴族としては」

 わたしの呟きに、師匠はまあな、と笑う。少し、寂しそうに見えたのは気のせいだろうか。


 不意に、前回の人生でも師匠はよく笑っていたな、と思い出した。そっ、と胸が痛みだす。


 わたしは柔らかく微笑むと、師匠に断った。


「すみません、少し体調が優れないので、休んできます。あ、この前の本、まだ借りたままでも構いません?」

「ああ、構わねえが。大丈夫か? 最近は、体調も良くなったように見えたんだけどな。やっぱり、茶会で疲れたか」

「そうかも、知れません」


 こわばる表情を何とかほぐし、口角を意識して上げてみせる。師匠は、心配そうな光を瞳に浮かべた。


「ゆっくり休め」


 師匠は、わたしの頭にぽん、と手を置いて撫でると、わたしのカップも一緒にもって下げてくれた。


 それに感謝しながら、ずきりと重く痛む心を抱えて、わたしは二階の部屋に戻る。ベッドに倒れ込むと、疲れがはっきりと自覚できた。


「もう、前回の人生のことは諦めた方が良いのかな・・・」


 最近は言っていなかった弱気な言葉が、口からこぼれる。弱々しい響きを持ったその言葉は、しかし割と広く響いたように感じた。嫌な思考が頭を占める。


 もう、二度と師匠は思い出さないのだろうか?そうしたら、わたしは。


 ぐむっ、と唇を噛み締める。


(体調が悪いときは、気持ちが弱くなる)


 朦朧としてきた意識の中、ぼんやりと思い、わたしは眠りについた。


♢♢♢


「おはよう、ございます」


 寝起きで、霞む視界の中、師匠に挨拶をする。


 あの後、お茶会ですっかりと疲れてしまっていたらしいわたしは、ぐっすりと熟睡してしまったようで、先ほど目覚めたら夜も更けた頃だった。


 何か、手紙のようなものを眺めていた師匠は、わたしを認めると、慌ててそれをわたしに隠した。


「ん? どうしたんですか、それ?」

「い、いや! 何でも無い! 気にするな」

「は? いや、気になりますよ! そんな露骨に隠されたら!」


 後ろ手に隠したそれを覗くため、後ろにまわろうとすると、師匠が魔法でそれを視覚的に見えないようにしてしまった。


「あっ! 卑怯だわ!」

「誰が卑怯だ! 私信を見せるほど、俺は落ちぶれちゃいねえよ!」

「どういう意味ですか!」


 わたしの突っかかりに、師匠は良い質問だとばかりにニヤリと笑った。顔が整っているだけに、何だか悔しい。


 しわは一つもなく、異常なほど綺麗に整った肌は、認めたくないが生まれつきのものだろう。師匠は、素材はかなり、良いのだ。認めたくないけれど。何だか悔しいから。


「良いか? 私信っつうのはな、人が人に宛てたものだ。その中身はな、送った人の気持ちが籠っているものなんだよ。だから、俺が勝手にそれを見せるわけにゃ、いかねえだろってんで、話は終わり! 以上!」


「んな適当な終わり方あるかっ!」


 心の底からの突っ込みにも、師匠は取り合ってくれず、しまいには手紙の『て』の発音をしようとするだけでわたしを睨むようになってしまった。


 まあ、諦めるしか無い。


 わたしは潔く(?)諦め、師匠に本を借りたいと申し出た。


「本? まさかまた、時戻りとかそういうやつか?」


 師匠が、手紙の件じゃないにしろ、少し渋い顔をする。


「んん、はいそうです。お願いできます?」

「良いが・・・。お前、一体どうしたんだ? 何だかここ一年ほど、やけにそのことについて調べてるよな? 何か困ったことでもあるのか? 何だったら相談に乗るが」

「い、いえっ! 別に・・・。その、ある一分野について詳しく知識を得たいなとふと思っただけなんですよ」


 師匠に知られ、変な目でもしも見られたら? 


 わたしは絶対に嫌だ。だから、まだ言わない。確実に、師匠の記憶が戻るまでは。戻せると言う方法を見つけるまでは。


 師匠は、少し怪訝そうな表情をしたが、すぐに意地悪そうな表情をつくった。


「お前、だいぶ変わってるもんな。だから、変なことを考え始めるんだよな?」

「はあっ!? 何でそうなるんですかぁ!?」


 わたしの渾身の抗議に、師匠は爆笑した後、笑いすぎて出たらしい涙をそっと拭った。


「まあ、いいや。貸してやる。そうだ、書庫室はお前も立ち入れるようにしておいたから」


 さらっと言われた後半を、わたしもさらりと流そうとしていたが、————っ


「えええええっ!? 良いんですか! わたしが望んでいた立ち入り権を遂に!?」

「んや、めっちゃ重要な本や書類は別んところに移しただけだ」

「えええっ、めっちゃくちゃ嬉しいです! 流石師匠! 弟子の頼みとあらば、喜んで作業をしてくださるんですね!」


 わたしの称賛に、少し嬉しそうに微笑んだ師匠。


 その姿を見て、また波が来そうになったのを悟り、わたしも大袈裟な笑顔をつくった。


 師匠に、ばれないように。彼と、これからも幸せな時間が続きますように。

感想をいただき、ありがたいなという思いで一杯です。

本当にありがとうございます!

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