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王太子との謎のお茶会

王太子登場。

「本日は、お招きいただきまして、ありがとう存じます。アメリア・ジュネーラル、我が国の輝く若き太陽であらせられる王太子殿下にご挨拶申し上げます」


 すらすらと流れるように、挨拶をした後、カーテシー。隣では、師匠も一礼している。


「ああ、どうか堅苦しいのはなしにしてほしいんだ。どうぞ、座ってくれ」

「失礼致します」


 二人とも一礼してから、音を立てないように座る。殿下は、わたしたちに手振りで紅茶をすすめると、自ら紅茶を飲んだ。


「っ! わたくしが先に……!」

「いや、構わないよ。私がこのお茶会の招待主だからね、気にしないでくれ」

「ですが……!」


 普通、王太子が招いたとはいえ、紅茶には毒物が混ぜられていることが多いために、招待客から紅茶や菓子には口をつける。他国の貴族や王族を招待したのならば、そのマナーは通用しないが、この国の貴族ならば、必ず守るマナーだ。わたしも、口酸っぱく教えられてきた。この国の将来の統べる者を守りなさい、と。


 わたしは師匠をちらりと窺った。少し焦ったような瞳の色が浮かんでいるが、具体的に何が駄目なのかを理解していないようにも見える。実のところ、わたしは師匠の出自を知らなかった。貴族出身なのか、平民なのかすら知らない。多分、探れば噂などで分かるのかもしれないけれど、あえてそれを調べる必要はないと思い、今まで詮索してこなかった。


 王太子がにっこりと笑顔を浮かべた。先ほどのわたしの失態は完全に、流してくれるようだ。


「さて。本日招いたのは理由があってね」


 どのような理由だろうか……。


「貴女のことを知りたいと思っているんだ、アメリア嬢」

「……わたくし、ですか?」

「ああ」


 王太子としてふさわしい笑顔を浮かべながら、わたしを冷静な目で見つめてくる彼。


「大変ありがたいことですが、そういった類いは全てお断り致しております」


 今までも、大魔術師となり、国からの覚えがめでたくなるかもしれないわたしに、金目当てや名誉目当てで近づいてくる人たちは山ほどいたのだ。それらは、全て師匠が一蹴してくれていた。だが、今回ばかりは事情が違う。相手は王太子だ。平民(?)の師匠がむやみに断ると、王家から不評を買うかもしれないという恐ろしさがある。


 だからこそ、本人であり、伯爵令嬢という身分を一応持つわたしが、直接お断りしようと思ったのだ。


 王太子は、驚く様子を見せず、むしろ面白そうに笑った。


「なぜだろう? 私は王太子だが、身分にも拘らず、断ってしまって良いのか?」

「はい、構いません」


 即答すると、王太子はますます面白いものを発見したかのような表情になった。


「そうなのか。だが、君には拒否権はない。そういってしまえば?」

「……わたくしがこの国から出ます」


 王太子は多忙だ。流石に国外までは追いかけてくるまい。


 何より、師匠に迷惑をかけたくなかった。隣に静かに座っている師匠に目を向ける。彼は、口を引き結び、わたしを見つめていた。かちり、と視線が交錯する。


 わたしと目線が交わった師匠は、王太子の方を向いた。


「王太子殿下。恐れながら……」

「ああ、気軽に発言してくれ」

「ありがとうございます。……もしも、アメリアがこの国から出るときは、私も出ます」


 微かに目をみはった王太子とわたし。王太子は、その後すぐに心底面白そうにふっ、と口元を緩めていた。


「分かった分かった。そう簡単に大魔術師どのに出奔されたら、困るからね。今回は諦めるとしよう」


 王太子の言葉に、ほっと胸を撫で下ろしたけれど、僅かな疑問が残ってしまった。師匠は、なぜ一緒に出ると言ってくれたのだろうか。そこが若干、不思議だった。


「ありがとうございます」


 師匠が律儀に礼を言うのを聞いて、はっとしてわたしもお礼を重ねた。弟子は師匠に従うべきである。


「ありがとう存じます。では、ご多忙であらせられるはずの王太子殿下のお時間をとらせるわけには参りません。わたくしどもは、これで失礼させていただきます」


 わたしがにこやかに、今日はもう帰りたいと、婉曲に伝えると、王太子はふっと笑った。


「いや、多忙なんかではないよ。安心してほしい。今日は貴女がたとの時間と()()()()とるため、公務は前倒しで終わらせている」


 笑顔が引きつった。流石にここまで変人とは、思わなかった。


 そっ、と控えめな笑みに変えると、王太子に微笑みかけた。


「それは、ありがたいのですけれど、王太子殿下のお仕事はとても重要なものですわ。わたくしどもはこれで失礼致しますから、どうか、国民のために働いてくださいませんか? わたくしどもの願いでございます」


 わたしが訴えかけると、師匠も頷いてくれた。王太子は、残念そうな顔をすると思いきや、先ほどからの笑みを崩さぬままだ。


「心配せずとも良いのだ。さあ、もう少し腰を落ち着けなさい。まだ時間はたんまりとあるんだからね」

「いえ、もう……」

「王太子殿下。私たちは、魔術の研究と鍛錬に励まなければなりません。分かって、くださいますか?」


 普段は浮かべないような、どこか圧を感じる笑顔を、師匠が珍しく浮かべている。


 王太子は、初めてややたじろいだ顔をした。


「———そうか。残念だが……。二人とも、今日は急に呼び出して済まなかったな。来てくれてありがとう。今日はもうお開きにしよう」

「———かしこまりました。では、失礼致します。本日は、お招きいただきまして、ありがとう存じました」


 こうして、無事に王太子との謎のお茶会は終わったのだった。


師弟の絆が感じられますね……(ホロリ)

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