ぜひ、受けさせてくださいませ!
大神殿は、わたしにとってなじみ深い場所だ。もちろん、前回の人生における話だが。
わたしは、魔力がかなり多く、並の魔術師よりもさらに多かった。それこそ、大魔術師と呼ばれる師匠と肩を並べることができるくらいに。だから、国はわたしを大魔術師である師匠に預けた。
そして、国は定期的にわたしと師匠の魔力をはかった。お互いにもたらす影響を調べるとか何とか言っていた気がするが、説明を聞いた際は幼かったわたしの記憶は定かではない。
(師匠……元気かなぁ。早く会いたいよ)
また瞼が熱くなってくるのを感じ、ぎゅっと誤摩化すように目をつむる。目の前に座っている兄はぼんやりと外を眺めており、こちらの様子に気づく気配はなかった。
ふー、と息をこっそりとはいて、波を逃す。どうにか、涙を堪える。
そうして、波を何回も逃したら、気づけば懐かしの大神殿だった。
「ああ、着いた。さあ、アメリア。どうぞお手を」
先におりた兄が、にっこりと貴公子さながらに手を差し伸べてくれる。わたしも、淑女然とスマイルをおくり、手を取った。
「ありがとう、兄様」
お礼を伝え、馬車からおりると、懐かしい大神殿の清楚で大きな建物が目に入る。ああ、懐かしいと思わず目を細めながら、兄とともに歩いていく。先に着いていたらしい家族の皆は、わたしたちと合流した。
皆で、大神殿へ入る。もちろん、護衛もつれてだ。ここは、あくまで大神殿。宮殿のように、誰かを守ることに特化したつくりではないし、平民も気軽に入ることができる。祈りのためにだ。そのため、貴族が何らかの儀式で貸し切るときは、平民たちは入れないように神殿側が手配してくれるのだが、それでも、襲撃がないとは限らないので、大抵の貴族は護衛を連れて行く。
「ようこそ、おいでくださいました。ジュネーラル伯爵令嬢の魔力をはかる支度は整っております。どうぞ、こちらへ」
にこやかな神官がきてくれて、案内をしてくれる。わたしだけが別の部屋へ連れて行かれるようだ。
素直に従って、別の部屋に入る。神官が、笑顔のまま簡単に説明してくれた。
「では、ただいまより、ジュネーラル伯爵令嬢の魔力をはからせていただきます」
「はい。よろしくお願い致します」
そっと頷くと、神官は一礼して部屋を出て行った。後から聞いたことだが、この部屋は魔力をはかるための部屋で、他の人がまざっていると、合計が表示されてしまうようだった。
しばらく部屋で一人で待つと、外がやけに騒がしくなった。
それから、荒々しく扉が開けられる。先ほどの神官と、見覚えのある神殿長が入ってきた。どこか、興奮しているようにも見える。
「ジュネーラル伯爵令嬢」
「は、はい!」
ちょっとドキリ、として少し噛んでしまう。けれど、神殿長に気にした様子は見られない。むしろ、感激した様子でこちらの手を握られた。
「貴女さまは、我が国の魔術師となられるおかたでございます!」
その言葉に、ほっ、とわたしの中で何かずっと張りつめていたものがほろり、とほどけていくのを感じた。それが、何なのかは分からないが、何やら堰を切ったように涙があふれてくる。
「えっ、あのっ、ジュネーラル伯爵令嬢!?」
大神官と神官が焦ったようにこちらを見ているのが、ぼやける視界の中でうっすらと見えたけれど、もはやどうでも良かった。
多分、わたしは本当に今回の人生でも同じ量の魔力を持っているか、心配だったのだろうと思う。そんなことを考えながら、わたしの八歳の身体はとめどなく流れ続ける涙と、近頃の寝不足に耐えきれなかったようで、そのまま意識を手放した。
♢♢♢
それから、わたしは目を覚まし、すぐに回復した。もちろん、理由は師匠に会えるからということに他ならない。
倒れてしまい、説明どころではなくなったその場は、すぐに解散となった。そして、後日———つまり、今日———、神官たちが我が家に来てくれて、説明をしてくれることになった。
説明会には、両親と兄、わたしが参加することになった。
「本日は、来てくださってありがとう」
父が伯爵として、神殿長を迎えている。わたしも、普段は滅多にやらない伯爵令嬢モードに切り替えた。
「この前は、急に倒れてしまって申し訳ありませんでした」
「いえ! 謝らないでください。私どもこそ、体調が悪いということも察することができず、申し訳ございませんでした」
大神殿の神殿長という偉い立場のはずの人たちに、謝ってもらって、貴族というものの権力の強さを改めて知った。
「では、話に移らせていただきますが。アメリアが、魔力を持っているというお話でしたよね」
父が和やかに場をつなげてくれる。神殿長は、はいと神妙な顔で頷いた。
「ジュネーラル伯爵令嬢は、魔力をお持ちです。それも、『大魔術師』と呼ばれている————」
「ルイス・フェックラーですね?」
わたしが急に口を挟んだことに驚いたように、目を見開きながら、神殿長はその通りですと首肯した。
「フェックラー卿の魔力と同程度の魔力をお持ちなのです」
「はっ!? アメリアがですか!?」
父が驚愕して叫ぶ。母も目を見開き、兄はひゅっ、と息をのむ。
「はい。ですので……ジュネーラル伯爵令嬢には、フェックラー卿の元で、魔術を習っていただきたいのですが」
「はいっ! ぜひ、受けさせてくださいませ!」
わたしが勢い込んで答えると、神殿長はえっ、と逆に狼狽えている。貴族のご令嬢だから、断られると予想していたのだろう。
「えっ、えっ、よろしいのですか? いえ、よろしいのですかっ、て言っても、保護者様のご許可をいただかねばならないのですが……」
家族も、わたしが速攻で答えたのに驚いたようだが、まず真っ先に母がそっと眉根を寄せた。
「アメリア……。けれど、わたくしたち、貴女とまだ一緒に過ごしたいわ……」
母の言葉に、はっとする。師匠に会いたくって、仕方なかったけれど、家族とも滅多に会えなくなるのだ。
だからといって、わたしには師匠に会わないという選択肢は無いのだ。
「アメリア、何故そんなにフェックラー? とかいう奴に師事したいんだ? 知り合い、なのか?」
兄が真剣な顔をして、尋ねてくる。わたしは、ふるふると力なく首を振った。
「違うの。……わたしが————憧れてる人なの」
わたしの瞳に真剣な光が灯ったのを、間近で見た兄はふっ、と寂しそうな表情をしたのち、苦笑した。
「分かったよ。父上、母上。僕は、アメリアに賛成します。アメリアの、意思を尊重したいのです」
兄が両親に向き直って、そう告げる。
わたしと両親は、驚き目をみはった。
「そんな……。ロバート、貴方はアメリアと過ごしたくないの?」
兄は、わたしをちらりと見た。
「母上も、ご存知でしょう? アメリアがこんな顔をするときは、絶対に引かないと決めているときなんですよ」
「それは……」
わたしは、今一体どんな顔をしているのだろう。途端に気恥ずかしくなる。
「……良いんじゃないか。アメリアが望んでいるのなら」
次いで、静かな声が聞こえてきたと思ったら、父だった。父は、いつもの穏やかさをたたえて、微笑んでくれている。
「お父様……」
「貴方!?」
母が、責めるように父を見つめる。わたしと同じ、金色の瞳だ。
「お母様。わたくし、フェックラー卿の所で学びたいのです。どうか、お願いします」
「アメリア……」
母は逡巡するように視線をさまよわせた後、ほうっ、と仕方なさそうなため息をついた。
「分かったわ……」
「お母様————ありがとう」
嬉しさと、ありがたさ、そして、寂しさが入り交じり、声が震える。母は、そっと微笑みを浮かべた。
「お別れ会、しましょうか」
「っ! うん」
こうして、わたしは師匠の元で学ぶことが決まった。
♢♢♢
その後、邸に帰ったわたしは、姉二人に報告することにした。
「シア姉様……セシィ姉様……」
帰ってきたわたしと、両親の暗い態度から、何か察していたようだった二人。フェリシアは、そっと目を伏せて、セシリアは心配そうに眉を寄せた。
「どうかしたの?」
「わたし……。ルイス・フェックラー様の元へ行くことになりました」
わたしの報告に、へ? というような顔をした二人。あれ、思っていた反応と違ったなと戸惑うわたしを他所に、両親が説明を始める。
「あのね、アメリアは……大魔術師と同程度の魔力を持っているらしいの。それで……」
その時点で、姉二人はようやく理解したらしい。えっ、と二人とも叫ぶ。
「だから、大魔術師ルイス・フェックラー様のところへ!?」
「お嫁入りに!?」
「はっ!?」
姉たちの解釈に、今度はわたしが思いっきり叫ぶ。
「あらぁ、お嫁入りしても良いわねぇ!」
「はっ!?」
母まで言い始めてしまい、どくどくと心臓が波打つ。父と兄が苦笑しながら、まあまあと宥め、説明を加えてくれたおかげで、その場は一旦おさまったのだった。
書いてから、あれ、この子本当に八歳に見えるかな……なんて思ってしまったちょっぴりおバカな作者です。




