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3/21

もう、平気

 それから三日間。わたしは、自室から一歩も出ずに、一人で過ごしていた。


 時折、涙しながら。師匠に思いを馳せるばかりだった。


 けれど、四日目に突入したとき、はたと気づいた。


「もしかして……師匠も、覚えているんじゃない? わたしも、覚えているんだし」


 あえて口に出していってみると、それは現実のように思えた。それから、わたしはそれだけを信じて、泣くのをやめた。きちんとご飯も食べるようにし、毎日を健やかに過ごすように努めた。


 師匠がわたしの家に訪ねてこないのは、もしかしたら、流れを変えないようにしているのかもしれないもんねと自分を納得させた。


 それで、ようやく家族たちに会えた。


 長女の姉とも、魔術具を介して連絡をとっていたらしく、かなり心配してくれていた。


 わたしが四日目のランチに、食堂へ出向くと、家族はみんなほっとした顔をしていた。父が、穏やかに話しかけてくれる。


「おはよう、アメリア。どうかな、体調は。少し熱もあっただろう?」

「おはよう、お父様。もう、平気」


 もう、平気。声に出さず、口の中で転がすようにもう一度自分に言い聞かせる。もう、平気だから。


 わたしが平気、というと食堂の空気が安堵に弛緩(しかん)したのが分かった。母も、目を細めて笑ってくれる。


「良かったわ、アメリア。もう食欲はあるのね? 一緒に食べましょう?」

「うん。ありがとう、お母様。心配かけてごめんなさい」

「良いのよ。さあ、貴女が好きなものをつくってもらったの。好きなだけ食べて」

「アメリア、良かった、元気になって」


 兄のロバートも嬉しそうに口元を緩ませている。次女の姉、セシリアも明らかにほっとしていた。

「兄様、ありがとう。心配かけてごめんね」

「良いんだ」

「アメリア、まだ体調は万全じゃないでしょう? 今日はわたしと一緒に、外でゆっくりお茶会でもしましょうよ」


 セシリアが微笑みを浮かべて、誘ってくれる。


 わたしも、安心させるように笑顔を浮かべて、頷いた。


「セシィ姉様、ありがとう。行くわ」


 ふっ、と和やかな雰囲気でランチを終え、少し自室で休憩する。それから、姉とのお茶会だ。


「どう? お庭を少し整えてもらったのよ。アメリア、薔薇が好きでしょ? だから、白い薔薇を植えてもらったの。すごく可愛いのよ」


 ふふっ、と足取りも軽やかに、セシリアが歩いていく。わたしも、てくてくとついていきながら、周りを見た。


 本当に、穏やかな時間が流れている。確かに、使用人たちが綺麗にセッティングしてくれたようで、白い薔薇や赤い薔薇の花びらが散らされたテーブルに、湯気をたてている紅茶が用意されていた。それから、色とりどりのケーキも。


「うわぁ。美味しそう、とっても」

「うふ、そうね。料理人(シェフ)も、アメリアが元気になったから、きっと張り切ったのね」

「後でお礼を言わなくちゃ」


 るんるんで、姉妹のお茶会はスタートした。姉は、穏やかな表情で、話題を提供してくれる。

「それでね、この間はイザベラ夫人のお茶会にお招きいただいたのよ。アメリアも、そのうち大きくなったらお茶会にお招きいただけるわ、きっと」


 大きくなったら。その一言で、わたしは表情をこわばらせる。


 その変化にめざとく気づいた姉は、どうしたの? と表情を曇らせた。


「また体調が悪くなってしまったの? ごめんなさい、気づかなくて。少し、休むと良いわ。今日はもう終わりにしましょう」


 姉の合図で、わたしにショールがかけられ、部屋に戻るよう促された。


「セシィ姉様……ありがとう。また、お茶会したいわ」


「ええ、わたしもよ。安心して、また今度しましょうね」


 柔らかく微笑んでくれる姉に安心して、わたしは力ない笑みを浮かべると、部屋に戻った。


♢♢♢


 それからの日々は、本当に地獄のようだった。


 一度死んだことに気づいてからの一ヶ月は、師匠のことを思い出しては、涙がぽろぽろと流れるような日々を送っていた。


 その後の三ヶ月間は、ようやく心も安定して、いつも通りの日常を送れるまでになった。


 そして、わたしが死に、戻ってから四ヶ月後。ようやく、わたしは八歳の誕生日を迎えた。


 その日は朝から、上等な白色の清楚なワンピースを着せられ、朝から複雑に髪の毛を結われた。そして、長女の姉も帰ってきてくれて、両親、兄、姉たちと全員が着飾っていた。


「お誕生日、おめでとう! アメリア」


 にっこりと美しく微笑みながら、プレゼントを差し出してくれるのは、長女のフェリシアだ。彼女は、十七歳。ちなみに、セシリアは十三歳だ。


「ありがとう、シア姉様」

「うふ、良いのよ。あー、可愛い。癒されるわねぇ! ウチの妹、可愛すぎる!」


 何やら、姉がやけにテンションが高い。


 前回の人生のわたしは、十七歳まで生きた経験など無いから、この日のことなど覚えていない。実質、今日は初めての八歳の誕生日だ。


「ねえ、シア姉様。わたし、これから何処へ行くの?」

「あのね、大神殿へいくのよ。そして、魔力をはかってもらうの」

「ふうん」


 八歳のような返事を心がけ、跳ねる心臓を平静を装って隠す。


「さあ、みんな。支度できたね? 行こうか」


 父の号令で、わたしたちは三手に別れ、馬車に乗り込み、大神殿へ移動した。

健気なアメリア回ですね……。


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