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流石にもう、限界

「たっだいまーっ!」


 家に帰れたことが嬉しくて、思いっきりただいまを叫んでしまう。後ろで家の戸締まりを行っていた師匠が、笑いだした。


「はっははははは! ホント、お前は思いっきり感情を出すよな」


 本当に面白そうに笑い転げる師匠。しまいには痛そうにお腹を抱えだした。その姿に、流石のわたしも羞恥心を感じる。


「えっ、ダメですか?! だって、師匠と一緒に帰れたんですから、嬉しいですよ!」


 わたしが抗議を行うと、師匠は何故かつきものが落ちたように晴れやかな笑みを浮かべた。


「そうだな。俺も嬉しい。……すごく嬉しい」


 珍しく素直に感情を表現してくれる師匠に、どきっとする。彼の笑みもとても嬉しそうで抗議していたはずなのに、こちらが嬉しくなってしまう。


(……ああ、好きだな)


 わたしはようやく自分の気持ちに素直になった。師匠のことが好きだ。今までずっと気のせいだとか、胸の高鳴りを嘘にしていたけれど。



 ———流石にもう、限界だ。



 こんなに嬉しそうな晴れやかな笑顔を見て、嬉しくなって心が温かくなって、……どきどきしてしまうのは。


「アメリア。俺、もう我慢しないわ」


 わたしが自分の気持ちに向き合っていると、師匠が唐突に言った。


「え? 我慢? 何を我慢してたんですか?」

「……まだ、内緒」

「えー!? 何ですか?!」

「内緒ったら内緒だよ!」

「えーーーっ?!」


 その後ももう少し粘ってみたけれど、師匠は頑として教えてくれなかった。


♢♢♢


 最近、わたしは戸惑っている。


 何に戸惑っているかと言うと……師匠から異様に「可愛い」だの「その服めっちゃ似合ってる」だの、お褒めのお言葉をいただくのだ。今までそんなこと一言も言わなかった癖にぃいい! と叫びたい。叫んで床に寝転んで師匠にめちゃくちゃに反抗したい。


 ……まあ、そんなことをしたところで何の意味も無いことは分かってますけど。


(それにしても、どういう風の吹き回しだろう? 無理して言わないでほしいって伝えては見たけれど、無理していないって返されて終わったし……)


 と言うわけで、わたしは今、戸惑いの嵐の中にいる。


 しかし、正直なところ、好きな人に褒められて嬉しくない女子がいるだろうか? 否! いないでしょ!


 わたしも、褒められることは素直に嬉しいし、気恥ずかしい気持ちもあるけれど、内心飛び跳ねたいくらいに喜んでしまっている。好きな人からの言葉は最高に格別で、他の人からの言葉とは全く違って、美しく聞こえるのだから不思議だ。


♢♢♢


「師匠! おはようございます」


 今日も今日とて、朝起きて朝ご飯を作ろうとリビングにおりると、師匠がもう既にキッチンに立っていた。今週はわたしの当番だったはずなのに……はて、と不思議に思い首を傾げていると、師匠がいつもの笑顔でこちらを振り返った。


「おはよう、アメリア。今日はたまたま早く起きたから、つくっといたぞ」

「えっ、すみません。ありがとうございます! やったあ、わたしの好きなウインナー入ってる!!」

「お前、変わんねえな。そう言うとこも可愛いけど」


 わたしはウインナーに視線を固定したまま、フリーズした。


(え、また可愛いって言われた。嘘でしょ、えまって無理ちょっ……!)


 脳は混乱状態でまともな返事が出来ずにいると、師匠がお皿に盛りつけながら言った。


「もうすぐ出来るから、着替えてこい。今日は森に採集しにいくぞ」

「っ、……はい」


 慌てながら自分の部屋に戻って、一息。扉をぱたん、と閉めるとわたしはずるずるとしゃがみ込んだ。


「一体……どうしたんだろ、師匠」


 ぽつりと呟いた問いにはもちろん、答えなんて帰ってくるはずも無かった。とりあえず着替えなきゃと立ち上がって、手早く着替えて、部屋を出ようとしたところで自分の格好が気になった。急いで鏡の前に舞い戻る。


(うぅ、可愛いって言ってもらえるのは嬉しいんだけど、実際に可愛いかって言われると……。くぅ、落ち込むなわたし。でもせめて、身だしなみは綺麗にしたい)


 手櫛ですいて、適当に一つに纏めるだけの髪。それが何だか今日は気になってしまい、結局髪の毛を解いて綺麗に結い直す。そして鏡をのぞいて、よしっと頷くと階下に降りたのだった。


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