拝謁
本日の投稿第三弾!!
その日、わたしと師匠は久しぶりに王宮に呼び出されていた。
「え?」
自分が知らない言語で話されたように感じて、思わず聞き返してしまう。————国王相手に。
「だから、ルイス殿にすすめたい女性がいるのだ。婚約相手にどうだろうか?」
にっこりといかにも自分は優しいですという笑みを浮かべて、二度目を繰り返す国王。わたしは嫌な動悸がするのを感じながら、きゅっと唇を引き結んだ。
「……私に、ですか?」
珍しく表情をこわばらせ、恐る恐る確かめるように国王に尋ねる師匠。わたしはその横顔を見て、胸がずきっと痛むのを感じていた。
(師匠に、別の女性? でも、わたしと婚約する予定って言うことにしたはず……! それに、師匠はっ……!)
他国の貴族なのではなかったか。
どくどくと心臓が波打っている。何かいやなことが起きそうだ。国王の斜め後ろに控えている王太子は、目を見開いて国王を見ていた。
「そうだ。どうかね? ルイス殿」
「……謹んでお断りします」
「なぜだ? 君は優秀な魔術師だ。君にはぜひ、世継ぎをつくってほしい。そして……」
国王はにやりと嫌らしい笑みを浮かべると。
「ぜひ、伯爵位を与えたいと考えている」
「っ!?」
わたしは思わず目をみはってしまった。王太子もあり得ないとばかりに国王を見つめている。師匠をそっと窺ってみると、彼は何の変化も無いしかめっ面で国王と対峙していた。
「謹んでお断りします。私では分不相応だ。新たな魔術を生み出すだけが私の仕事です、貴族の仕事はもう捨てました」
はっ、と息をのむ。それは、どういう意味だろうか。
(まさか、貴族としての位を、捨てている……?!)
思い至った理由に、そっと血の気が引いていくのを感じる。
前に国王と謁見したときには、国王は意味深な発言をしていた。確か……
(『ふむ。であれば、彼が何者かはとうに存じておるのか?』だったはず。つまり、その頃までは彼も何かしらの身分を持っていたことになる。でも、先ほどの発言を鑑みると、もうその身分を捨てたことになる)
その間にあったのは、わたしに関わる色々なイザコザ。つまり、わたしのせいで師匠が壬生んを捨てた可能性が出てきてしまったのだ。
「まさか……!」
ぼそりと呟くけれど、目の前の人たちはどんどんと話を進めていた。
「だが、世継ぎをつくらねばならないのは本当だろう? 大神殿からも急かされているはずだが?」
「そんなこと、俺には関係ありません。どうかもう諦めてください」
「諦められるはずが無かろう。アーサーにはぴったりの婚約者だ、アメリア嬢は」
「アメリアは俺と婚約する予定だと何度も言っているでしょう」
「ルイス殿よりアーサーの方が、力がある。アメリア嬢を大切に思う気持ちがあるのならば、アーサーに託すべきだ」
その言葉に、師匠が何故か痛そうな表情をした。言葉も詰まってしまう。そこで王太子がそっと一歩を踏み出した。
「陛下! もうおやめください、私はアメリア嬢とは結婚致しません」
「アーサーの意見は聞いておらぬ」
「わたしの意見も、聞いてもらえないのでしょうか?」
師匠と王太子は、はっとした表情でわたしを見遣り、国王は忌々しそうな表情を浮かべた。それを無視して、一歩前に進む。
「……わたしは、アーサー王太子殿下とは婚約致しません。結婚も致しません」
力強いわたしの声に圧されたのか、国王が一歩後ろに下がった。それで空いた距離の差を詰めるように、わたしはもう一歩前に進む。
「陛下は。陛下は闇魔術をお使いになって、何をしたいんでしょうか」
核心を突いた質問に、国王の顔が無表情になった。でも、これ以上はひけない。
「わたしが、必要なのですよね? だから、アーサー王太子殿下と婚約を結ぶよう、願っていらした」
「……何の話をしておる」
「恍けないでください。わたしを使って、何がしたいんですか? わたしを手のうちにいれて、何をしたいのですか?」
「……」
すっともう一歩、距離を詰める。師匠がわたしを心配そうに見つめているんだろうな、と思うとふふっと笑ってしまいそうになった。きっと、目はもう笑いかけている。それが不気味だったのかもしれない、国王は不安そうな表情をした。手はぎゅっと握りしめられ、少し震えているようにも見える国王。
「教えてください。わたしをどうしたいのか。わたしを手に入れて、どうするつもりなのか」
「……アメリア嬢に教える義理は無い」
「わたしに関わることですよね?」
わたしに詰められ、たじたじになる一国の王。それを見て、なんだか笑い出しそうなほど、気分がハイになっていた。だからだろう、わたしは突然倒れた。
視界が暗転する。
「アメリアっ!」




