詮無いこと
最近、投稿が全然出来ていなかったので、今日は投稿第二弾。
コトリ。
暖かな日差しが差し込みつつも、寒さが厳しい冬がやってくるのが分かる。手紙を読み、黙り込んでいる師匠の前の机に珈琲を入れたマグカップを置いたわたしは、自分の分の蜂蜜入り紅茶が入っているマグカップで手を温めることに専念する。
(もう秋も終わりかぁ・・・。そうすると、段々と春が近づいてくる。わたしの、誕生日は三月の十ニ日だ)
十七歳の年に、死んでしまったことを思い出すと、気分はもちろん暗くなる。どうすれば死に戻れるのか。確実な方法が書かれているはずの、王家所有の三冊の本は未だに読めていなかった。
(どうせなら、王太子に頼もうかな。前の迷惑料として)
静かに紅茶を飲みながら、上目遣いで師匠をちらりと窺う。彼の表情は厳しいままで、その視線は手紙の上を何度も行き来していた。
(誰からの手紙だろう? わたしに関することかな。もしそうだったら、申し訳ないなぁ)
この間、師匠と意思を確認し、わたしの所属を大神殿から移してもらった。前回の人生とは異なる展開だ。
(もし、展開が変わったら、わたしが死んで師匠を置いていくことも無くなるのかな)
そうだと良いけど、と密かに願いつつ、紅茶を一口。
(師匠の髪、綺麗だな。わたしのよりも、ちょっと濃い紫なんだよね。それから瞳も銀色でめっちゃ綺麗だな・・・。あの銀色は灰色とは思えない光沢と言うか、輝きというか、そんなものを感じるんだよね)
その瞳をじっと見つめていると、いつの間にか『あの記憶』が思い起こされる。
(俺を残して死ぬなよ〜、か。・・・師匠、ふとした瞬間に思い出したりしないかな〜。ないか〜)
ふっと自嘲気味に笑ってから、師匠に気づかれないように紅茶を飲んで誤摩化した。
こうした沈黙の瞬間でさえ、心地よい。師匠の魔力とは相性がいいのだろうと勝手に想像しているけれど、それはわたしの想像でしかないのだろうか。
————師匠も、そう感じてくれてたら良いのに。
ふと先ほどから詮無いことばかりを願ってしまっていることに気づき、じわりと視界が微かに滲んだ。まずい、と大きく深呼吸をして波を乗り越える。先ほどから、泣きそうだ。最近、疲れているからだろうか。
「う〜ん、分からん!」
急に手紙を放り投げ、叫ぶ師匠。
「どうしたんですか? ひとまず、珈琲を飲んで落ち着いてください」
「ああ。すまん。ありがとな」
珈琲を一口含み、落ち着いたらしい師匠はわたしに説明を開始してくれた。
「この手紙は俺の部下たちからのなんだがな、国王と大神殿が企んでいるらしきものを発見したと言うんだ。その内容は、どうやら闇魔法を軍事利用したいということだ。俺的にはなぜそんなことをするのか、はたまた謎なんだが、まあ権力を持ち始めると次に考えるのはそう言うことなのかもな」
「それで闇魔術を使おうとしているって言うことですか!?」
師匠のいっている内容があまりにも大きすぎて、驚愕の声を上げてしまう。まさか、国王たちはそんなことを企んでいるのかと思うと、あの怪しげな感じも納得できてしまうけれど。
「そう言うことのようだな」
「それで・・・魔力量が多いわたしを利用しようとしているのでしょうか?」
「その可能性は大いにある」
彼の大真面目な顔にごくり、と息をのむ。そんなことに利用されかけていると思うと、とても平静ではいられない。
「軍事利用だなんて・・・闇魔術でできるんですか?」
「それが分からないんだよなぁ」
軍事利用されている魔術はたくさんある。しかし、闇魔術を使った軍兵器なんてきいたことも無い。
とにかく、わたしの膨大な魔力を使い、闇魔術を使って何かしらの悪事を企んでいるということらしい。しかし、前回の人生ではわたしは特に狙われた記憶はない。どうしてだろうか。
「はあ・・・また、謎が増えた・・・」
「何かいったか?」
「い、いえ。何でもありません。それより、師匠。どうするんですか、この先」
「うーん。いっそ、亡命でもすっか?」
師匠の口調は少しふざけた感じだったけれど、顔は真剣なものだった。どきっと心臓が高鳴る。
(師匠と、亡命?)
どくんどくん、と緊張からか心臓の音がやけに大きく耳に響くし、口の中が渇いてくる。師匠の顔を見つめると、師匠もわたしをじっと見つめていた。
「え、あの。本気ですか?」
「・・・うーん。まあ、最終手段ってとこだよなぁ。この家、結構俺は気に入ってるしな。アメリアは? どうしたい?」
「えっ、うーん。わたしも、それは最終手段で良いかなって思ってます。・・・師匠との思い出がいっぱいつまっている家ですし」
わたしの返事に、そっそうかと師匠が何故か耳を赤くしながら頷いている。何だろうか。
「まあ、もう少し別の手段を考えてからだよなぁ」
「そうですよね・・・」
そうして今日はそれ以上、この話題が二人の間で語られることは無かった。




