国王の狙い
「ししょーうっ! 大丈夫ですか? お手伝いしましょうか?」
結界を張るのは、かなりの集中力と体力、そして魔力が必要だ。大抵、一つの邸に結界を張るときは二人か三人でやるのが通常らしい。しかし、うちの師匠はかなり優秀なので、一人でも楽々と出来てしまう。
(でも、今回はきっと強めのを張り直すだろうからなぁ・・・わたしにも出来ることあると良いけど・・・)
師匠は玄関の前で、精密な魔力操作を行っていた。
そもそも、結界を張るときは先ほども言った通りに、かなりの魔力を必要とする。それらの魔力を結界いわば一つの膜のようなものに変え、邸を覆い、更には一流魔術師の場合はそこからもっと微調整を行う。例えば、結界の中に入れる人間を限定したり、一定の魔力量を持つ人のみが入れるという条件をつけたりするなどだ。他にも、結界を張っていると他の貴族たちから、「あそこは特に警戒している家だな」と思われてしまうことがある。そのために、結界がばれないように細工をしてくれと頼まれることもあった。
師匠に流石に結界ごときに頼む貴族はいなかったが、師匠はそれだけでも小遣い稼ぎになると言って、変装魔術を自信にかけて結界を張ってくれという依頼をわざわざ受けにいくことがある。もちろん、単なる腕試しと言っているがかなりの微調整をしてくれ、と言われてもさらりとこなしてしまう。
(そんなところも優しいんだよねー)
「おう、アメリア。きたのか」
師匠がこちらに気づき、にっと笑う。かっこいいな、と思いつつはい! と元気よく返事をする。
「何か手伝うことありますか?」
「あー・・・そうだな、少し手伝ってもらうか。あ、あいつらどうした?」
「え? あいつら・・・? ああ!」
「お前、本気で忘れてたろ」
「あ、あははそんなわけ・・・!」
師匠があきれ顔で指摘してくるが、実際その通りだ。決まりが悪く、何となく咳払いしてから報告する。
「えっと、あの人たちなら転移魔法で送ってあげました! 王宮へ行きたいって仰っていたので、その通りに。まあ、少しずれているかも知れませんけど・・・」
わたしがてへっ、と笑うと師匠も頷いた。
「ああ、構わん構わん。あいつらがくたばることなんて、無さそうだしな。ま、それよか本当に陛下って奴に伝言を伝えてくれるのかは分かんねえけどな」
「大丈夫でしょう。わたしも、実家に伝言をしてもらうよう頼みました」
師匠が、そうなのかと呟く。
「何て言ったんだ?」
「えーと、陛下がわたしの居場所はどこかと家族に聞いたら、すぐに逃げてと言う風に」
ダルクは苦虫を食べたかのような顔をしていたけど、まあ仕方ない。実際、危機が迫っているのだ。そこに家族は巻き込めない。わたしの事情なのに。
師匠はそうか、と嘆息した。
「お前にそこまで言わせるとは・・・国王め」
「まあ、仕方ないです。お母様のことが元々好きだったというのは本当でしょうが、恐らく何らかの理由で魔術師が国に必要なのでは無いかと思うんです。だから現大魔術師である師匠の元で、鍛錬しているわたしを狙ったと思うんですけど」
わたしの仮説に、師匠がはっと息をのむ。
「そこまで、知っていたのか・・・?」
「まさか、知っているとかじゃありませんよ? ただ、考えたらそう言う結果になるだけです。逆に師匠は何か情報を?」
「・・・軍事的に魔術を利用したいのでは無いかと思われる。それもな、闇魔術を使いたいんだと」
闇魔術、と言う言葉にえっ・・・と言葉が出ない。
(嘘でしょう、闇魔術!? まさか、そんな大きなものを欲しているとは思わなかった・・・)
闇魔術とは、魔術の中でも特に危険な魔術と分類されるものだ。使えるのは、それこそ師匠と国王直属の王宮魔術師の中でも数人だろうと思われる。
闇魔術を使うには、魔力と引き換えに使えるそれ以外の魔術とは違い、魔力に加えて他の代償を覚悟して使わなければいけない。その内容は、命を奪うものであったり、呪いをかけるものなど多岐にわたる。
(つまり、東の国の言葉を借りると・・・『人を呪わば穴二つ』。自分の命さえも覚悟しなければならない、重大なものだ)
中には大層な魔術であるはずなのに、代償が軽いものがある。その代償は時には重く、時には軽い。それを決めるのは、人びとに魔力を与えてくださっていると言われている、女神のフィレンツィアだ。フィレンツィア様は、この国の神殿がまつっている女神様。実際にフィレンツィア様のお声を聞いただとか、色々な伝説はあるけど、わたしは特に信じたことはない。闇魔術の代償も、その魔術をかける相手によるのでは無いかと思っている。
(そんな代償も必要な恐ろしい魔術を、国王は使いたいと思っている・・・ってこと!? そんな大それたことをするなんて)
わたしが驚きと衝撃に固まっていると、師匠は言葉を続けた。
「国王の近辺を探っていると、大神殿の神殿長と最近よく会っていることがわかった。俺の所属は、俺がつくった魔術専門の組織だが・・・アメリア、お前は違う」
「あっ・・・わたし、今でも大神殿に所属しているんでしたね」
「そうだ。お前の身分は、一応巫女のようなもの。大神殿の巫女と言えば、かなりの位もちだが、お前の場合は違う。アメリアは魔力だけで巫女という身分を与えられ、国から守られている存在だからな」
「なるほど・・・。となると、国の命令には逆らえない立場なんですね、わたし」
冷静に分析を下すと、師匠は頷いた。その表情は少し暗い。
「そうだな」
「ってことは、わたし実は結婚話断れないのでは? 国王からのたったのお願い、なんですよね」
「まあ、そう言うことになる」
えええっ、とわたしがショックを受けていると、師匠は安心しろ、と言った。
「俺の作った組織に入れ。そうすれば、アメリアは安全な立場になる」
「でも、わたしは大神殿に所属していたから、身分の保障がされていたんじゃないんですか? 師匠の組織に入ったら、結婚の話を蹴れるだけで、それ以外に何も得は無いですよね」
喋りすぎたし、考えすぎたからか、魔力がなぜだか不安定な気がする。要するに、疲れているのだろう。
(そう言えば、ダルクさんやゼリアさんがきてたこともあったし)
よく考えれば、疲れるはずだ。わたしの体力はそれほどない。魔力で補われている分、少しはましだが。
「そうでもない。今までは、なんだかんだ言ってアメリアとともに大神殿に呼ばれて、魔力をはかるだのされてきたがそれがなくなる」
「それは・・・確かにメリットですね」
あれは結構面倒くさい。今も、その作業を思い返すだけでわたしの目は遠くを見つめているほどなのだから。
「入った方が良いかも知れません。ですが、大神殿から所属を取り消すなんてこと、可能なんですか?」
「ああ、一応大丈夫なはずだ。俺も、何とかしてみるが、もう決定で良いか?」
「ええ、大丈夫です。ご迷惑をおかけしますが、お願いします・・・」
わたしが深く頭を下げると、ぽんっと頭の上に手が載せられた。・・・あたたかい。
顔を上げると、優しく微笑む師匠の姿があった。その顔が、死に戻る前の『あのやり取り』をしていた時の顔にそっくりで。
(やばい、久しぶりに泣きそう・・・!)
ふっ、と涙の気配を感じて、わたしはそっと俯く。
「・・・疲れるよなぁ。色々あったもんな。少し休め」
師匠の声がゆっくりと遠ざかっていく。
「ふぁ・・・い・・・」
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