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一筋の涙

短いです。

「アメリア。情報が出てきた」


 書庫室での一件があった日の二日後のことだった。朝、起きていくと笑顔の師匠が手に紙を持っていた。


「情報・・・? わたしが何故王太子の婚約者に選ばれているか、についてですか?」

「そうだ。ちょっとした伝手を使ったんだ。それより、かつて国王はアメリアの母君にご執心だったらしい」

「・・・は? お母様に、ですか?」


 冗談かと思って聞き返すと、そうだと師匠は大きく大真面目に頷いた。


「流石に俺も本当か? と思ったんだけどな、それ以外に考えられねえってよ」

「は? あまりにも軽率すぎません? まさか、母が父と結婚したから、その娘を自分の息子と結婚させようとしたってこと?」

「そのようだな。で、ついでに魔術師を取り込めるだろ、と大臣を丸め込んだみたいだ。くだらねえが、一国の主だけあって、影響はでかい」

「いやっ、おっきすぎますよ! 何してんの、あの王!」


 わたしの突っ込みに、ほんとだよなと師匠も同意する。


(いやいや、ふざけてんの!? それだけでわたしを、王太子の妻にとか・・・バカすぎて言葉が出ない・・・)


 呆れとショックと怒りが綯い交ぜになって、黙り込んだわたしを、師匠が覗き込む。その瞳は心配しているようだった。


「・・・きついことを言うかも知れねえが、そんな馬鹿なことを考えてんのが伯爵とかくらいなら俺もどうにかできたんだけどな。流石に、一国の王ともなると暴走をとめるのは難しい」

「嘘っ! どうすれば良いんですか?」


 まだ師匠を巻き込まなければならないという事実に、わたしはさーっと顔を青ざめさせた。


「どうしようもねえ。これからも、国王近辺の情報を集めつつ、俺と婚約してる振りを続けるしかねえだろ」

「でもっ! そうすると・・・」

「俺と婚約している振りをすんのが嫌なのは分かるが、我慢しろ」


 師匠の言葉に、すうっと涙が伝った。それを見て、師匠が目をみはる。


「ど、ど、どうした!? そんなに嫌だったか!? 別の男を手配した方が良いか!?」


 師匠の狼狽えようにわたしは何も返答できずに師匠の袖を掴む。彼が、息をのんだ。


「———わたしは、師匠と婚約している振りをするの、嫌じゃないです。師匠は、・・・嫌、ですか?」

「っ、嫌じゃない!」


 彼の即答に、今度は私が目をみはる番だった。彼がわたしを見つめる。


「嫌じゃねえ、アメリア」

「・・・良かった。師匠に、迷惑をかけてることがずっと不安で・・・」

「迷惑でもねえ」


 またもやの即答に、わたしはそっと微笑む。


「良かったです」


「ああ・・・」


 師匠は頷くと、少し視線を逡巡したようにさまよわせて。


「————っ!」


 ぽんぽん、とわたしの頭を撫でてくれたのだった。


いつもありがとうございます!

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