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アレンが開発したエコ・ランプは、瞬く間に王都の市民たちの生活に浸透し、彼の名は冒険者としてだけでなく、偉大な魔道具師としても知られるようになった。彼の工房には連日、新しい魔道具を求める商人たちが列をなし、その莫大な収益は、アレンに想像を絶する財力をもたらしていた。
しかし、その異例の成功は、街の英雄である「勇者パーティー」でさえも、ただのモブとして扱っていた一介の冒険者の身でありながら、王国の貴族たちの注目をも集めることになった。
王都の王宮、宰相執務室。
分厚い書類の山に囲まれた机に座る宰相ゼラードは、苛立ちを隠せないでいた。彼は、代々続く名門貴族の出で、権力と富を愛し、邪魔な存在は容赦なく排除してきた。そんなゼラードの耳に、最近、ある新興商人の噂が届いていた。
「アレン……という名の、平民上がりだと?」
宰相の前に立つ部下が、震える声で報告を続ける。
「は、はい。冒険者ギルドに籍を置く一介の冒険者ですが、彼が開発した魔道具が、今や王都の市場を席巻しておりまして……」
「馬鹿な! 魔道具の開発は、王家お抱えの魔導師団や、名門貴族の工房でさえ、一朝一夕に成せることではない! ましてや、平民にそんなことが可能だと?」
宰相は机を叩き、激昂する。魔道具は、王国の富の源泉の一つだった。それを、得体の知れない平民がたった一人で成し遂げているという事実が、彼のプライドを傷つけ、そして、危険信号を灯す。
「奴は一体、どうやってそんな技術を手に入れたのだ?」
部下は震えながら答える。
「それが……不明なのです。ただ、彼には『解析』という謎のスキルがあるとか……」
「解析だと? ふざけたことを……! そんなものが、魔道具開発に繋がるとでもいうのか!」
宰相ゼラードは、アレンの能力を理解できなかった。いや、理解しようとさえしなかった。彼にとって、アレンは己の支配する体制を揺るがす、不穏な要素でしかなかったのだ。
「奴は、危険な存在だ。王国の秩序を乱し、貴族の権威を貶める。……すぐに、奴を排除しろ」
ゼラードの冷たい声が、静かな執務室に響き渡る。その言葉には、一切の躊躇がなかった。
一方、アレンは、そんな陰謀が渦巻いていることなど知る由もなく、リアと共に新しい魔道具の開発に没頭していた。彼は、解析能力で魔法陣の構造を解析し、より効率的な魔力回路を設計していく。
「アレン、この回路……! ありえないわ。こんな複雑な構造、今まで誰も考えつかなかったはずよ!」
リアは、アレンの設計した魔力回路図を見て、興奮気味に声を上げる。
「解析機が、一番効率のいい方法を教えてくれるんです」
「ふふ、解析機ねぇ。その解析機とやら、いつか私にもじっくり見せてちょうだい」
リアはそう言いながら、楽しそうに笑う。彼女の瞳には、知的な探求心と、アレンへの好意が入り混じった、複雑な光が宿っていた。
だが、そんな穏やかな日々は長くは続かなかった。ゼラードの放った刺客の魔の手が、アレンに忍び寄っていた。