僕
アレンとリアは、協力関係を築いてから数日が経っていた。天才魔法使いの知識と、万能解析機の能力を組み合わせた二人のパーティーは、破竹の勢いでダンジョンの深層へと進んでいく。リアはアレンの解析能力を最大限に活用し、魔法の最適な使い方や、新たな応用方法を次々と発見していった。アレンもまた、リアの豊富な知識と経験から、解析能力だけでは得られなかった実戦的な知恵を学び、着実に冒険者としての実力をつけていった。
「ここね、この先に、このダンジョンのボスがいるわ」
リアが指差した先には、分厚い鉄製の扉があった。扉には、古代の文字で複雑な魔法陣が刻まれている。
「解析してみましょう」
アレンはスマートフォン――万能解析機を起動させ、扉をスキャンする。
『封印の扉:特殊な魔力で封印されており、物理的な破壊は不可能。封印を解くには、特定の詠唱と、三つの魔法の鍵が必要』
解析機は、扉の封印の仕組みを詳細に表示した。鍵となる三つの魔法とは、炎、水、そして雷。そして、その魔法を詠唱する順番も記されていた。
「すごい……こんなことまでわかるなんて」
リアは驚嘆の声を上げる。
「この封印は、宮廷魔術師団が総出で挑んでも解けなかったはずなのに……」
「僕の能力は、嘘をつかないみたいです」
二人は解析結果を元に、封印を解くための詠唱を始める。リアが持つ膨大な魔力と、アレンの解析能力が組み合わさり、複雑な魔法陣が光を放ち始める。
そして、ついに扉が開いた。
扉の先には、巨大な空間が広がっていた。空間の中央には、巨大な岩石が突き刺さっている。そして、その岩石には、一振りの剣が深々と突き立てられていた。剣は黒く、まるで夜空を閉じ込めたかのように輝き、禍々しいオーラを放っている。
「あれは……伝説の魔剣、グラムよ」
リアは、その剣を一目見て、その正体に気づいた。グラムは、かつて世界を破滅へと導いた魔王を打ち倒した勇者が持っていた伝説の武器。しかし、あまりにも強大な力を持つため、誰にも扱えなくなり、このダンジョンに封印されたと伝えられていた。
「多くの勇者や冒険者が、この剣を引き抜こうと試みたわ。だけど、誰も成功した試しがない。剣自身が持つ強力な魔力が、引き抜こうとする者の魔力を弾いてしまうのよ」
リアはそう言いながら、アレンにグラムを引き抜いてみるように促した。アレンは、警戒しながらもグラムに近づき、柄に手を伸ばす。すると、剣から強力な魔力が放出され、アレンの腕を弾こうとする。
だが、アレンはひるまない。彼は、万能解析機を起動させ、グラムを解析する。
『伝説の魔剣グラム:魔力を吸収し、所有者の魔力と共鳴することで真の力を発揮する。封印:所有者の魔力と共鳴するための仕組みを、一時的に無効化する封印。』
アレンは、解析機が示した封印の仕組みを理解した。グラムは、真の力を発揮するために、所有者の魔力を必要とする。しかし、封印は、その魔力との共鳴を阻害するように設計されていたのだ。
「なるほど……わかった」
アレンは、解析機が示したデータに従い、自身の魔力を操作する。リアが驚愕の表情で見つめる中、アレンの魔力がグラムの魔力と共鳴し始めた。そして、今まで誰にも抜くことができなかったグラムは、まるで何事もなかったかのように、アレンの手によってするりと引き抜かれた。
「嘘……」
リアは言葉を失う。グラムを手に持ったアレンは、かつてないほどの力を感じていた。黒く輝く剣は、静かにアレンの魔力に応え、まるで彼の一部であるかのように馴染んでいる。
モブであるはずの少年が、伝説の魔剣を手にした瞬間だった。