カメラが覗く真実、フィルムが焼く嘘
篠原伊織は写真部に所属する高校二年生。
趣味のカメラで街の何気ない風景を撮る日々の中で、謎めいた女性、鷹見静と長い付き合いを続けていた。
彼女は個人カメラマンで、シャッターに映る世界以外には興味がないようだった。
「……また来たの、少年。」
彼女はファインダー越しに淡々とそう言った。
「これを見て」
手渡されたのは、三日前に鷹見が撮影したフィルムだった。
そこには笑顔の男が写っていた。しかし、その背後には微かに不自然な影が映り込んでいる。
「昨日、その男は林の中で絞め殺された」
彼女は淡々と言葉を続けた。
「警察はまだ正式に発表していない。だけど私は写真の中に真実を見つけた」
「どうして分かるんですか?」
僕が尋ねると、彼女は写真の隅を指差した。
「ここ。偶然じゃない。この影は犯人のものかもしれない。」
数日後、鷹見は事件現場近くで風景の撮影をしていた。
僕も一緒にカメラを持って現場へ向かったのだ。
お姉さんに誘われて、被害者の最期の場所を写すという
しかし警察官に声をかけられた。
「ここでの撮影は許可が必要だ。何のための撮影だ?」
お姉さんはカメラを構えたまま、淡々と答えた。
「ただ風景を撮っているだけだよ」
警察は所持品検査として鷹見のカメラバッグからフィルムを取り出し、じっと見つめた。
「このフィルム、事件に関係してるんじゃないか?」
鷹見は微かな笑みを浮かべた。
「映るものは光と影。真実は写真の外にある」
警察は少し苛立ちながらも問い詰める。
「写真家…アンタ鷹見静か?被害者とお前の関係を知ってる。三日前に写真を撮らせたらしいな?」
鷹見は静かに返した。
「もしものために、ね」
その時、僕はカメラのファインダー越しに警察官の顔や、周囲の緊迫した空気を感じ取っていた。
現場に立つのは初めてだったが、何かが動き始めているのは確かだった。
翌日、僕は再び事件の捜査現場を訪れた。
担当刑事は語った。
「死因は首絞めだが、抵抗した形跡がほとんどない。おかしいと思わねぇか?
被害者は相手を知っていたか、怯えて動けなかった可能性が高い。
そうでなきゃ、あんなに簡単にやられねぇ」
僕は静さんの写真を思い出す。
あの写真に映る、背後の影。
あれは、犯人の一端に違いない。
数日後、警察は新たな証拠をもとに犯人を特定した。
被害者と犯人はかつて同じ会社で働いており、仕事上のトラブルと金銭問題から長年にわたる確執があった。
犯人は被害者が自分を裏切ったと恨みを抱き、復讐を遂げるためにこの犯行に及んだのだという。
静かに映し出された写真の影は、その怨恨の影そのものだった。
しかし、鷹見静は事件に直接関わることなく、ただ淡々とシャッターを切り続けていた。
「カメラは全てを知っている」
彼女は静かに呟く。
「でも、誰も真実を真っ直ぐには見ない」