メイドの事情
前回のあらすじ
調理長は巨体。クッキーリンゴうまうま。
クッキーリンゴを食べながらフィリシムさんを待つ。
その間にメイドさんと色々話した。
実はこのメイドさん、メイドじゃなかったのだ。
じゃあなんでそんな格好をしているのか聞いたらただの趣味だそうで。メイドには資格があって、それを取ってないから趣味のメイドだそうだ。
「たし、かに⋯⋯ことば、てぃ、ねぇじゃ、なかた」
ぼそっとつぶやくと、メイドさん──ぽい人?の亜麻色のふわふわとした髪がビクッと跳ねた。
「⋯⋯私はメイドに憧れた冒険者だったので」
あれ、話してくれるんだ。
ん?つまり、
冒険者=戦える+メイド→戦闘メイド!
ということか!
生メイドも興奮したけど、私的には戦闘メイドとか、どこのファンタジーだよ!って感じ。
あ、そういえばここ、前世の私からしたら異世界だった。
「な、んで?」
「はい?」
メイドさんっぽい人──もうメイドさんでいいや──がキョトンとしてこっちを見てくる。
「なん、で、メイド?」
そういうとようやく理解したのか、ああ、と呟くと少し考える素振りを見せた。
「私、種族的には人間なんですけど、実は少しだけ竜人族の血を引いてるんです。だから私は身体能力が高いんですよね」
一呼吸おいて、髪とおなじ亜麻色の瞳が伏せられる。
その瞳からは少しの躊躇いと少しの寂しさが感じられた。
「幼少の頃、同じ冒険者の友達と遊んでいたら、魔物に襲われて⋯⋯。その頃はまだ薬草採取くらいしかしてなかったので、戦えなかったんです。力はあったのに。それでその子は死んちゃって⋯⋯」
それで、と続けてメイドさんは顔を上げた。
「その子が貴族の子で私が平民だったので、いつかその子に仕えるメイドになると約束してたのです。その子に仕えることは出来なかったけど、せめてメイドとみたいに働きたくて」
⋯⋯お、重たい。
嫌なこと思い出させちゃったかも⋯⋯
ごめんなさい、という言葉が喉まで来た時に、でも、とメイドさんが続けた。
「でも、その子とまだ話せるんですよ?その子は転生者で、色んなことを教えてくれたんですが、その中に『人体錬成は禁忌だけど、魂を物に定着させるのはいい』というものがありまして」
「てぇ、ちゃく⋯⋯させたん、です、か?」
「はい!その時に手伝ってくれたのがフィリシム様ですね。ついでに、親が死んでその子の家に預かられてた私とその子を引き取ってくれたんです」
その子って、今どこにいるんだろ?物ってことは前世で言うオートマタみたいなものがあるのかな?それともこの部屋にいたりするとか?
じっと机を見る。派手すぎない彫刻以外はそこまで変わった様子は無い。
次は椅子を見てみる。机に合うような彫刻があるだけ。
カーテン⋯⋯はさすがにないか。刺繍がオシャレとはいえ、こんなヒラヒラしたものに定着されたくはないだろう。
んー、さすがに部屋にはないかー。じゃあメイドさんがつけてるものかな。
メイドさんをじぃっと見つめる。
こてんと首をかしげた拍子に首にかけられたネックレスがきらりと光る。
よくよく見れば、ネックレスの周りに光──フィリシムさんが魔法使った時みたいな光がまとわりついている。
もしかして、これかな?メイドさんに聞いてみよう。
「あの⋯⋯」
「はい、なんですか?」
その首にかけられたネックレスを指さす。
「もしか、して、これ⋯⋯です、か?」
亜麻色の瞳が大きく見開かれ、ついでああ、なるほどとこぼす。
「この周りに光が見えますか?これは、精霊というものです。魔法を行使する際に手助けしてくれる存在、といえば分かりますか?」
こくりと頷く。なくても使えるけどあった方がいいみたいな存在なんだろう。
「良かったですね。これが見えるのと見えないのでは魔法の威力が桁違いなんです」
ニッコリ微笑んで、そう言ってくるメイドさん。
「このペンダントは魔力線を伸ばすことで魂同士がつながり、念話のようなものが使えるというものです」
念話かー。本物の念話じゃなくても気になる。
「まほー、れんしゅ、したら、はなして、みたい」
それに、中身の人も転生者らしいし、気になるからね。
あれ、今のところ名前が出てきているのがフィリシムだけのような⋯⋯
お読みいただきありがとうございます。
誤字脱字報告、ブックマーク、感想、いいねボタンなどしていただけると嬉しいです。
昨日のPVが120超える&ブックマークされてて驚きました。
これからもゆっくり頑張りますので、応援してくださると嬉しいです!
追記 土日はこれまでに書いたやつの文章を直していく予定です。
特に最初のエピソードは矛盾の温床な気がするので、もしかしたら違う作品かと思うくらい変わるかもしれません。
ご迷惑をおかけして申し訳ありませんが、ご了承いただけると幸いです。