第8話 突撃、バンとその後
「何か来てるぞ、撃て!撃て!」
「「ファイア、ウォーター、ランス!」」
バンのルーフの上から炎と水の槍が放たれる。それらは、飛翔している白い何かに衝突する寸前で弾かれ街路樹を破壊する。
白い何かがバンの上を通ると同時に、青い何かがルーフに降りる。白いヘルメットに青い服、バイクブーツを履いたイケオジ隊長だ。
「お前ら、好き勝手やってくれたな!」
まずは、近くに居た火を使う冒険者にアッパーを浴びせる。近接戦が不得意な魔法職の冒険者は一発で意識を失う。
それに驚いた水を使う冒険者は、何を思ったか車内に逃げる。すかさず、隊長は車内に入り、中で取っ組み合いの喧嘩を始める。
「ウォーター、ぐは」
「車内だぞ!馬鹿が!魔法を使うな」
「人数は多いが、近接戦はこちらが優位なようだな!」
狭いバンの中、複数の男達と隊長が殴り合いになる。だが、4対1の為、最初は元気だった隊長も劣勢になってくる。
「クク、最初は元気だったがボロボロじゃねぇか?」
「潔く投降しろ、女と同じように丁寧に扱ってやるよ」
「ところで、誘拐した女性は何処だ?」
「そりゃ、助手席でおねんねしているぜ」
「だ、そうだ、暗黒卿、俺は走行方向左側にいる、それ以外は右側だ」
「何を言っているんだ、とっとと投降しやがれ」
次の瞬間、一筋の閃光がバンを貫きバンが縦に割れる。暗黒卿があの朱いブンブンと鳴る棒で切ったのだ。
「あばよ!悪党ども!」
「「「!!!??」」
ちょうど首都高に向かうジャンクションでの一撃。まさに、正義と悪が分かれるように車は別れた。
隊長が居る片割れは、何かで支えられるようにそのまま路肩に止まった。
もう片方は、どうなったか?
「ブレーキ、ブレーキきかねー」
「坂道だ、おがあじゃぁーん」
「うぁああああああ」
「誰か助けて!死にたくないよー」
ブレーキが利かず坂道を転がり落ち、ガードレールをぶち破りアイキャンフライ。
奈落の底へ堕ちていく。
彼らは冒険者だけあって、躰は丈夫で死なずには済んだ。
そう死なずには、済んだのだ。
彼等は数日後に、警察による大規模な山狩りで発見された。彼らは全身粉砕骨折、虫や小動物に齧られ精神崩壊をしていた。
仲間の仇(死んではいないが)で血眼だった警察官達を絶句させる様であった。
一方、イケオジ隊長は助けた女性と交際の末に結婚。こちらも、女気なしの隊長の結婚に警察官達は絶句することになる。
その後は、二男三女を得て幸せな家庭を築くにいたる。
隊長は退官前に、隊員全員の前でこう語っている。
道路は、人生。
分岐点があり、選択が求められる。
選択を誤るとガードレールをぶち破り、奈落の底へ。正しい選択肢を選んでも人生の墓場(結婚)が待っている。
道路の安全と人々の安全を守るのが我々。
自分の命は大切に、そして、決断を間違えるな!
決断の時は、待ってくれない!
刹那の決断に、自分の命と未来の可能性は掛かっている。
君たちがより良き選択を選べるようになることを切に願う。
20XX年XX月吉日