第19話 お嬢様の皮を被った元炎上系から見る世間①
「レイさん、それではごきげんよう」
「それでは、ごきげんよう」
普通の学校ではあり得ない、お嬢様語を使いながら少女達は教室を後にする。多くの子は、黒塗りの高級車で帰宅する。
地域の住民からは大名行列とも言われてている毎日の名物。
今、校舎の玄関では自分の迎えの車を待つ少女たちが思い思いに過ごしている。
『レイさんも乗られます?』
「イヤ、今日は歩いて帰るわ、その方が楽しそうだから」
『レイさんは、目立ちますのでこれを着けていけば良いですわ』
車が来るのを窓辺で待ちながら、ルミはレイに指輪を渡す。
「これは?」
『常夜の指輪という認識阻害の指輪ですわ、あの仮面の劣化版ですわ』
「あの仮面か、ありがとう。じゃ、今日はまた夜に」
『あと、それは右手の薬指につけて下さいね』
「う、うん!?分かった」
やがて、前と後ろに護衛車両が付いたゴツイ黒い車が駐車場に現れる。そう、ルミ専用の送迎車だ。
米国の大統領専用車と似た感じの車に少女が吸い込まれる様に乗ると発進する。
「さて、行くか!」
レイは常夜の指輪を右手薬指に嵌めサングラスを掛けると学校を後にする。
レイが周りを見ると広告にポスター、あらゆる媒体にルミの姿が登場する。ルミはお菓子、化粧品と送迎車を用意してくれるトヨハラの宣伝にしか出ない。
しかも、お菓子と化粧品は自分や周りの友達が好きな物しか出ていない。
「他のアイドルは居たんだけどなぁ……」
レイが目を向ける先にはゴシップ雑誌の広告がある。
【人気アイドルのXXが妻子持ち男性と不倫、CM降板で巨額の賠償か?!】
【未成年アイドルYY、枕営業発覚で業界に波紋、当面の間は芸能活動を自粛!?】
【未成年アイドルZZ、飲酒・喫煙発覚、ドラマ、映画、CMと広告が全て降板へ】
「イヤ、どいつも、こいつも節操なくヤバすぎやろ、まぁ炎上させたの俺だけど!」
そう、ゴシップ雑誌へタレコミしたのは配信者時代のレイこと、炎上円禍。ゴシップ雑誌も当時のレイの突撃取材を元に作られていたのだ!
多数のゴシップが氾濫した結果、ルミ以外のまともで可愛いアイドルが絶滅した。
CMやポスター費用は競争原理に従い、最も高い金額を出した偶像が独占している。
が、今は他の芸能事務所が活動を自粛している。そのため、テレビCMやポスター会社では閑古鳥が鳴き、費用が安くなりルミの偏った趣向品の企業広告が大量に出ているのだ。
狭い広告の世界では【神様、仏様、ルミ様】状態である。他の芸能界も何とか打倒ルミの為にカワイイ新人を発掘し世に送りだしている。
ただ、世間は【誰此れ?また一発屋かぁ、ルミちゃんの方がカワイイし、ルミちゃんは本当に良いものしか宣伝しない】状態である。
そして、過当競争の果てに、無茶なスケジュールを入れて心身ともに疲れた新人アイドル達はドンドン辞めていく悪循環が起きている。
「うへ、もう話題になっているのか、俺たちもバレない様に気を付けないとな」
レイが見上げた巨大なテレビには【スタープロ謎の仮面ユニットを展開】と文字が入り、悪い事もしていないのにスタープロの社長が報道陣に囲まれながら車に乗る様子が中継で流れていたのだ。