第112話 第十三層 ボス戦
2人は、燃え楓の森を歩いている。
先ほどまでは、樹々の間に隠れていた炎上変色龍の集団と戦っていた。
その集団を倒した今、攻撃の度にヒュッっと音を出してくれる炎上変色龍は居ない。
今は不気味な静けさが、辺りを支配している。
「サトちゃん、何か嫌な感じがするね」
『そうですわ、イヨイヨ、ボスが来ますね』
シャッと音がし、白い糸がシオちゃんに向かって飛んでくる。躰を捩り、糸を躱すと燃え楓に刺さる。
糸が引っ張られると燃え楓が千切られ、火を噴きだす。
『燃え楓は千切られるとあんな感じで燃えますわ』
「よく海外の動画でガソリンスタンドの給油機に車が突っ込んで燃える感じだね」
〝余裕そうで草ww〝
〝でも、海外のガソスタ突っ込みは分かるw〝
〝さっきの糸が増えてね?〝
その通り、多数の糸が燃え楓を引きちぎり、火の柱を作り出す。
シャッ、シャッと音と共に火の柱で躰で炙りながら姿を見せたのは、5m位の蜘蛛。
『これは、火つけ蜘蛛ですわ』
「うぇ、なんかでかい蜘蛛って、気持ち悪いね」
〝「うぇ」っと「気持ち悪いね」のASMR助かる〝
〝↑また変態が脱走しているぞ〝
〝美少女の嫌そうな声からしか得られない養分がある〝
火つけ蜘蛛が、最も得意とするのは糸での攻撃。糸での攻撃というが、ただの攻撃ではない。
可燃性の液体を染み込ませた糸を四方八方に張り巡らし、相手を火に巻き込み殺し肉を焼いて食べるという独特の攻撃を行う。
キシェっと火つけ蜘蛛は声を出し、サトちゃんとシオちゃんに襲い掛かる。
シオちゃんは蜘蛛への気持ち悪さから、靴の風来坊とスキルの足裏弱接着を合わせて使い樹の間を飛ぶように避ける。
チャッカぁっと蜘蛛が鳴き、片足を上げるとシオちゃんの周りにあった糸が燃えなかった。
チャッカぁっと蜘蛛っと再び鳴くが、シオちゃんの周りの糸は燃えない。
思わず蜘蛛は、首を傾げる。
「自分の能力が発動していないことに疑問を感じたの?」
気持ち悪いゴワゴワした火つけ蜘蛛はつぶらな瞳でシオちゃんの方を見る。
「その原因は、これだよ」
シオちゃんの両手には、先ほど収穫した松永玉葱が潰されている。
訳が分からないっという風に火つけ蜘蛛は首を傾げる。
〝この蜘蛛、実は人間では?挙動と鳴き声が人間ポイ〝
〝前世は放火魔してそうww〝
〝放火魔が転生したら、火つけ蜘蛛でしたってかww〝
「松永玉葱は、潰したり切ったりすると一時的に周りで火が使えない効果があるだって」
『一度、松永玉葱を切って、炒めようとしたら火が付かなかったことが始まりでしたわ』
「そして、もう一個、面白い事があるんだよ」
『松永玉葱は丸ごと火で直接炙るのは危険ですわ!』
シオちゃんは火つけ蜘蛛が、体力維持のために陣取っている火柱に向けて松永玉葱を投げ入れる。
松永玉葱は、火気厳禁。
それを火柱に入れるとどうなるか?
勿論、大爆発である。
火つけ蜘蛛は爆風で吹き飛ばされる。爆風で吹き飛ばされながらも流石ボス、燃え楓に糸を巻き付け何とか地面に激突せずに済んだ。
火つけ蜘蛛がホッと息を着く間もなく。
「油断大敵!」
保管庫から取り出したクリスタルの灰皿で、蜘蛛の頭を殴る。火つけ蜘蛛の躰は堅そうに見えて実は柔らかい。
実は火つけ蜘蛛は、躰中が糸に可燃性の液体を着けるための巨大な燃料タンクになっているのだ。
イターイ、オカぁサンっと鳴き声をあげながら頭から紫色の血を吹き出す。
一般人なら人間の様な声をする生き物に追撃をするのに躊躇する。
だが、シオちゃんは冒険者、人間の声がしようが躊躇しない。
保管庫から妖刀、血塗れ伯爵夫人を取り出し、一番柔らかそうな腹の部分にぶっ刺す。火つけ蜘蛛にとって腹の部分は燃料タンクの様な物。
血塗れ伯爵夫人は燃料タンクの可燃性の液体と体液を存分に飲み干す。
「これで終わりだよ!」
腹から頭に向けて血塗れ伯爵夫人が振り抜かれ火つけ蜘蛛は真っ二つにされる。
倒された火つけ蜘蛛は塵となって消え、Dコインとスキル石、そして八卦炉の二角がドロップする。
「スキルは……糸使いが手に入ったみたい」
〝糸使い……カッコいいな〝
〝片眼鏡とか似合いそう〝
〝ミニスカートに鎧、兜の属性にこれ以上属性を増やすなww〝
「油まみれで、気持ち悪い」
〝この「気持ち悪い」は、下半身が反応しないな〝
〝↑分かる、化合物への嫌悪感で人間へで無いからね〝
〝↑変態ソムリエ同士が分かり合ってて草ww〝
『仕方がないですね、温泉に入りましょうね』
「そうだね、戦闘後は温泉が一番だよ!」
油まみれのシオちゃんは、嬉しそうに声を上げ温泉に向かうのであった。
次回 掲示板回




