クリスマスソング
クリスマスといえば…
ベタベタのベタで真っ先に浮かんだ曲をお話にしてみました。こんな解釈、あんな解釈…一つの歌で複数のお話が生まれてきました。それらの中からなるべくネガティブでないものを選びました。…クリスマスだし。
遠くでいかにも聖夜らしく洗練された、それでいて浮わついたような鐘の音が聞こえた。
クリスマスか、としみじみ、どこか悲しそうに思った自分に少し驚く。やっぱり寂しいんだなと。不自然なほどキラキラした街がその気持ちを増幅させる。
君に会いたい。
彼女は遠い異国で誰かのために働いている。それは深く理解しているし、認めている。そもそも止める権利など自分にはないと思った。だから彼女が国際的な奉仕団体に入団するときも、国名すら初耳の国に医者として派遣されるときもただ、がんばれ、応援してる、と送り出した。
それなのに取り残された自分は飽きもせず、君に会いたいと思ってしまっている。そして人の役に立ち頑張る彼女を思い出しては、一体自分はなんて不謹慎で大成していないのだろうと軽く傷付く。純粋に応援できない自分に嫌気がさす。
行かないでほしい。横にいてほしい。知らない誰かより僕のことを考えていてほしい。
心の中で素直な気持ちを吐露してみる。どれも君に知ってほしいが、こんなこと長ったらしく並べても最終的には気障か不器用になるだけだ。まとめた言葉は思い付くけど普段の性ではなくて…
意固地無しの自分に溜め息をつく。
そんな僕の前をトナカイの角なんか着けた恋人たちが腕を組んではしゃいで通りすぎていく。思わず目で追ってしまってから慌てて目を剃らす。よく人前でできるな、なんて冷静を装う自分がまたわざとらしく、余計に君が恋しくなる。
プレゼントでも贈ろうかな、クリスマスだし。
言葉でも贈ろうかな、クリスマスだし。
そう、クリスマスだから。
照れ屋でしんみりすることが苦手な僕らは会っても連絡してもバカ話ばかりで、改まって想いを伝え合ったり示し合ったりしない。そうやって築いてきた関係に不満はないが、歯の浮くような台詞を言いたくても言えないもどかしさがある。
君に何か贈りたい。僕にしか贈れない、僕が贈ることで君が喜ぶものを。
気付いている。つまりあの言葉だと。
でも贈ったところで彼女はやはり照れてこちらが居たたまれなくなるような返事を寄越すかもしれない。
だけどそれで嫌いにはならないし、現に僕は今、君に会いたくて仕方ないんだ。
それならいいじゃないか。こうして信じてもいないのに星を見上げて、君を僕の傍に降らしてくれないかと願っているより何倍も。
駅前のでかいクリスマスツリー。ぼんやりと光るオーナメント一つ一つに君との思い出が映る。
あの赤色はお互い照れて真っ赤になりながら一生懸命想いを伝えた日。あの緑色は初めて手を繋いで歩いたガーデン。あの黄色は君と出会って感じた幸せな気持ち。
その全てが君に出会わなければ無かった。君がいなかったら僕のツリーはどれだけ寂しかったことだろう。僕自身、どれだけつまらなかったことだろう。
自分があんなに柔和に笑えること。
人に優しく触れられること。
切ないほど誰かを想えること。
こんなに君に会いたいと強く望んでいること。
知らなかった。自分のこんな一面を。
君に出逢えて良かった。自然にするりと思った。
でも今隣にはいない。今日に限ってのことではない。もう約一年も、僕は一人で街を歩いている。
今日みたいな特別な日だけでなく、普遍の日常も気を病む某日も、毎日、毎日、君に会いたいと思っている。その想いを多少は君にも知ってほしい。嘘。凄く凄く知ってほしい。
だから君を探してしまう。探しては仲睦まじい恋人たちばかり目について、傷ついて、また探して、肩を落として。
でもきっと君は僕ほど孤独ではないのだろう。明るくて、暖かい輪の中心で笑っているような人だから。こんな日は誰かとワイワイしているはずなんだ。
やさぐれるようにささくれるように、自分で吐き捨てて苦しくなる。
もう何回、会いたいと思っただろう。
何回、会えなくて苦しいと思っただろう。
知ってるじゃないか。君を想っていること。サンタなんかに頼めないこと。言いたい言葉があること。それがもう、溢れそうなこと。
贈ろう、クリスマスだから。
[大好き]
落ち着かない手つきでポケットにスマホを戻す。
返信が怖い。あまりにも素っ気なく軽かったら、この冷たい路面にへたりこんでしまうかもしれない。だが普段の彼女ならその確率は高い。
はあー。
白い息を吐く。高揚した気持ちもともにマフラーにうずめる。
僅かな微動を感じた。1も2もなくポケットから納めたばかりのスマホを引っ張り出す。手袋のせいでうっかり落としそうになった。
生まれて初めて煩わしいと思うパスワード入力を経て、返信を確認する。
…ああ。
力が抜けたあと、価値のつけられない幸福に包まれた。
今まで貰ったどんな高いプレゼントよりも、どんな豪華な食事よりも嬉しい。
きっと君もこの特別感を感じていたんだ。
…クリスマスの変な魔法のような空気を。
[私も、大好き]




